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おっさん冒険者の脱英雄譚  作者: 鴉野 兄貴
コソ泥とおっさん

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お土産は何処ですか

 小都『偃月の雪』正義神殿所属、見習い聖騎士レィ・カシム!

 彼は王都で行方不明になっていた聖女ローラを連れて戻ってきた!

 大殊勲! 大活躍といえよう!



「なんか……ボコボコにされてませんか」

「むしろ捕まえたというより、捕まっていませんか」


 知人の神官見習いミルクと法僧ミモザにレィことカシム曰く。



「こいつら人が無抵抗だと思って無茶苦茶するもん」


 ご愁傷様です。



「浮気者には罰あるのみ!」


 そもそもレィことカシムのそれを浮気と呼ぶのはいかがなものか。

 ミルクもミモザも普段のレィことカシムの忠勤を知っているので大変遺憾な気分である。

 あれだけ一途に気にしていたのに。確かに普段の勤務態度はアレだが基本彼は弱者に対してのみは誠実な仕事をする。



「お初にお目にかかります。レィのコンニャク者でローラといいます」

「……『聖女』はそもそも生涯独身か、政略結婚もとい神託婚のはずですが」



 生真面目なミモザだが、普通聖女と直接言葉を交わす機会など一信徒にはない。

 しかしローラには少々常識が通じないようだ。



「私がそうするのだから、いいの!」

「そうなんだ。聖女ってこんなのでいいのか」


「失礼でしょう?!」

「真面目に受け取っちゃだめです!」


 ローラとミモザに抗議されるミルクは大物かもしれない。



「まぁ、だからおれが『王都の聖女連れてきた』っていってもまだこっちには情報伝わっていないし」


 さらに叱られたとは聖騎士カシム。



「で、私たちの部屋に匿えと。なにか貰えますか」

「ねえよ! そんな狂暴女!」

「なんですって~~! つい最近まで隣の寝台で寝ていたのに! 隣でおもらしした事ばらしてあげる!」



 きぃきぃきゃいきゃい。

 一介の聖騎士見習いとじゃれあう姿は年相応の少女だがまともに考えてとんでもない聖女様である。

 ミルクはちょっとだけ『こんなのでいいなら私も聖女になれるかも』とか失礼な事を改めて感じた。

 そして、古の物語のように騎士を従え二人で旅をするとか。ちょっといいかもしれない。


 妄想の中でその騎士の顔を見てしまい、思わず全力で顔を振ってしまって注目を浴びる。



「なにをしているのですかミルク姉妹?」

「み、み、ミモザ! ミモザ姉妹?! うちの神殿ではそのあの……! いや何でもありません!」



「なんだ? おまえ悪いものでも食ったか」

 呆れる聖騎士見習いカシム。まぁミルクは神殿でも悪食で通っている。お嬢様なのに。

「失礼ですね! イナゴの煮つけとか食べていません!」


 食べたんだ。ミモザは確信していた。



「あ、ここのごはんは美味しいって聞いたけどリリ元気? ミリアからお土産もらってきているけど」

「騒ぎになるから辞めてください!」


 こうして二人は不本意ながら聖女様を匿う羽目になった。

 なお、元暗殺者リリはとってもとっても聖女様のお土産を期待していたので次の日のメニューは悲惨なことになる。



「あれ……今日のメニュー、なんか予定と違う……」

「……べつに……なにもおかしくはないです……」


 膨れ面の涙目。

 普段見せたことのない拗ねた顔立ちがドキドキするほどかわいいとは男性神官たち。



 繰り返すが、リリは元『暗殺者』であり食べ物にこだわらない子供であった。現役時代は腐ったコメから生きたネズミまで食べていたし。

 彼女が食に並々ならぬ情熱を燃やすようになったのは『ミリアのクッキー』に勤めだしたことと知人の半妖精の食事に絆されたことに起因する。

 だから、そういったタガが外れた本日の食事はとてもとても邪悪な外見をしていた。



 まず、毒魚で有名な膨れ魚。

 南方の温かい地方で獲れる魚であるが劇毒で知られ、毒だけならば劇薬としてこの国にも輸入されている。

 これの干物を戻した切り身。

 なお、この世界では生の切り身を食する習慣はない。


 泥というか、端的に述べると人糞にしか見えない物品をお湯に溶かしたスープ。

 魔神をも滅ぼす正義神殿の聖騎士や子供も泣き出す異端審問官でも躊躇うそれを食べられる勇者がいるのだろうか。リリ曰く『それはビーンズを発酵させたソースに海藻で出汁をとったものであって、人糞などではありません』。


「……一番! ……ここは歴戦の勇士であるあなたが」

「いえいえ。ここは隊長である零番が」


 さすがのビーネも少し引いたようだ。

 実はクランツ老は王都にてこのスープを食したことがあり、独特の風味が特徴的ではあるものの慣れれば美味だと知っている。



 石のようなものが大量に入った麦を炊いたもの?

 こちらリリ曰く『脚気の特効薬』らしい。なおこの世界では脚気は伝染病と思われており。


 深海魚料理。

 神殿の人間全員が食べられるように鍋にまるまる煮つけ、野菜で臭い消しとした姿がとにかくグロテスクに過ぎる。その野菜だって時々煮沸で『ぎゃあああ!』『モケケ!』と断末魔の声を上げており。



「どうしたのですか? 今日は美味しいですよ」



 リリの浮かべる天使の笑顔(※元暗殺者だが)がひたすら怖い正義神殿の皆様。


「あと、これはとてもとても貴重な食材なのですが……その」


 頬を染めるリリになぜか激烈に嫌な予感を感じる正義神殿の皆様。



「膨れ魚の新鮮な『しらこ』を魔法で保存したものだそうで……一応毒ではありませんし、珍味ですのでもしよろしかったら……量が少ないですので希望者のみですが、クスリと思えば大神官様……代表して食べていただけませんか」

「ええええええっ?! ワシッ?!!」


 なんせリリは元暗殺者だと知って引き入れたのは彼である。

 なにを入れたの~~!? である。


 聖騎士の一人にすぎないクランツ老が畏れ多くもツツと大神官に近づく。



「……ハゲに効きますよ。その『しらこ』は。あと男性機能にも有効です」

「……あ~~! ワシ! すっごくリリの思いやりがありがたいな! 食べてみよっかなぁ~~!?」


 もちろん毒ではない。


「う、うん? ……まずくはない……珍味かも」


 独特のぷにぷにした食感はさておき、慣れれば美味しいかもしれない。

 目を白黒させてみせる大神官、小声でクランツ老に返事する。


 その大神官の様子に悪魔の笑みで返すクランツ老。

 しらこは雄のみからとれる、ぶっちゃけ精巣とその中身である。


 クランツ老は現在温厚なおじいちゃん呼ばわりを主にミルク嬢から受けている理由は、王都で彼が何かするたびに知人の半妖精からこのような珍奇な料理の実験台にさせられたためである。

 結果的に彼はこの『拷問』により温厚な気質を得た。また料理に対して舌が肥えた。もちろんレィこと聖騎士見習いカシムもその料理の正体を知っている。



「ええええ。貴重な食材だぞアレ……マジでどうやって調達したのさリリ……」

「え、そうなのかカシム兄弟?」


 あ、余計なこといった。


「え、この毒魚。……食べられるの」

「食べられる部位が決まっているので、調理技術次第です。毒部分も発酵させれば」


 リリがそういうことができるのは彼女がもともと『暗殺者』だからである。


「独特の歯ごたえと香り……なにこれ、すっごいうま味がある! 薄い切り身なのにとてもおいしい!」


 毒魚の切り身を口に入れたミルク。やはり悪食である。


「えっ」「えっ」「食べていいの?!」


 若者たちが一斉に手を伸ばす。


「あ、一人一枚でお願いします」


『(万一毒が当たっても致命傷にはなりませんし)』


リリはこの魚をさばいたのは実は初めてである。内心ダラダラ汗を流している。



「すっげーうまい! すっげーおいしい!」

「こら! カシム兄弟! 言葉づかい!」


 珍しく若者や子供たちに美味しいものが行きわたっている! 毒魚であるが!



「この、うんち……ごほんごほん。スープ美味しいです。……ね、ね、ビーネさん食べて食べて!」


 ミルクが席を超えて迫ってくるのでビーネは珍しく滅茶苦茶嫌がっている。

 ビーネとて貧民の生まれなので大抵のものは食べられるのだが、糞便を不浄とする正義神殿においては重要である。それだけならばいいのだが中に入っている白くてぷにぷにしたゼリーのようなものとそれを揚げたという謎の肉もどきの物品が気に入らないようだ。

 そして雑穀入りの『薬』だが、これはビーネもイヤイヤ食べた。一瞬彼女の手が止まる。


「美味しい」

「でしょ」


 なぜ勝ち誇るのかミルクよ。



「これで脚気が防げるならいくらでも食べたいですが」


 ミモザも幼少時には食事面では苦労している。

 そのミモザは現在、深海魚の鍋料理に挑戦しており。


「……ゼラチン質で上品な味付けです」


 ふわりとした魚肉は肉というよりほろほろとしていておいしく臭みもない。

 いや、むしろ香高くなっているし、深海魚は普段棄てられるだけあって量がある。


 若者たちの匙が伸びる。

 老人たちは躊躇する。


 リリの料理にしては今回明暗が分かれた。

 そして。



「……で、私の分は」

「ありません」


 食べきりましたというミルクだが『お土産』と書かれた袋がカラなのを見た私怨ではないだろうか。ミモザは少し不安に感じていた。しかしミモザが本来懸念すべきは元暗殺者である食事係リリの暴走であった。



「お土産、ないのですか」

「(m´・ω・`)m ゴメン…ぜんぶたべた!」



 元暗殺者は伊達ではない。神殿の出入りは全て彼女が把握済みだ。

 二人が如何に隠そうとリリは簡単にローラと対面していた。



「前よりひどくなっていませんかあなた。前はかなり常識的でしたよ」

「前よりあなた真面目で人間的になってない?!」


 歳は近いので何かと王都では接点があった。

 しかし月日と王都と小都の文化の違いが二人を大きく変えたようだ。


「変わりすぎです」

「変わりすぎよ!」



 二人ともスラム育ちだったり元暗殺者だったりする。


「ところで、私はある程度の街の出入りも把握しているのですが貴女がこの街に入ってきた記録はないようですね。……王都では騒ぎになりつつありますよ?」

「あるわけないでしょ。私は私の『騎士』の許に移動する奇跡を使ったのですから」



 リリは世の表に出にくい『聖女』独特の奇跡に造詣がないが、似た事例としては慈愛神殿の司祭たちも性暴力を受けそうになったら安全な所に移動する奇跡を授かっていることを思い出した。同じような瞬間移動の奇跡を『聖女』が持っていてもおかしくない。実際彼女には厄介極まりない聖騎士たちも『邪悪感知』にて『邪悪』と認定された存在に急行する奇跡を持っているようだし。



「なんか、政略結婚させられそうだから逃げてきた!」

「……神託結婚です」


 ローラ曰く、本来影武者のアルバイトだったのに本当に聖女にされそうで甚だ迷惑しているらしいがリリには関係がない。将来に不満を抱きつつあるローラと将来に希望を持つようになったリリ。どこで行き違ったのやら。



「ところで、何年も前に行方不明になった『立夏の嵐』の聖女の事をご存じかしらリリ」

「生きているとは思えませんがまさか貴女、その幼女に自分の身代わりをさせる気ですか! 責任感というものがないのですか!」


 責任感という意味ではリリに勝る人材はまずいない。

 元々暗殺者だからなおさらだ。



「生きているわよ? 神託によると生きているもの」

「……暗殺者の私が神託を信じるとでも」



 ふざけた発言をする聖女に苛立つ元暗殺者。

 聖女であるローラは意味ありげにほほ笑む。


「レィに逢いたいからとか、子供じみた理由だけで私は動かないわよ。もう私はモッテモテの美少女なのにあんなのに振り回されるはずがないでしょう」

「空々しい発言ですね」



 白けた表情のリリに慌てるそぶりを見せるローラ。


「『聖者や聖遺物の捜索』も立派な『聖女』の使命よ? ただそれには『聖騎士』が必要だけど」



「えっと……それって。ローラさんにとってカシム君ってことですか? 聖騎士ならほかにもいますよね。王都ならばバドさんって方がいらっしゃいますよね。あの方は名声も武術も奇跡も素晴らしいと評判ですが」

「少なくとも、旅に出るなら私はレィ君を選ぶなぁ」


 ローラの視線の先には彼女をここに匿った下級神官ミルクがいた。

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