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おっさん冒険者の脱英雄譚  作者: 鴉野 兄貴
コソ泥とおっさん

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24/29

貧乏聖女と泥棒兄妹

 おっさん冒険者ダッカ―ドは少し困っていた。



「うーん」



 腕を組む。眉を寄せ口元を絞る。そうするといい考えが浮かぶのかとリンダに問われたら彼自身も「違う」と認めるであろうがこうしたいのだから仕方ない。



「その女の子、たしかにカールを『聖騎士』って勘違いしたのかい」

「だよ!」


 自室でもある小部屋にこもり勤務拒否するミーナに拉致があかないと判断した宿の女主人リンダは薬草摘みから帰還した彼に事態収拾を頼んだ。


 いつぞやの借りのお返しかもしれない。



「ジークな」

「だいっきらい!」



 何かいいかけたおっさんの言葉を塞ぐように少女は叫んだ。どうやら触れてはいけない部分だったようだ。


「なにあれあのこしらないこについてきてとかふしだらなだいたいジークくんもジークくんだしビナもビナだしそもそも」


 一気にまくし立てるミーナに「大きく育ってくれたなあ」と頓珍漢な喜びを抱くおっさん冒険者と女店主。


 なんか自分たちも若い頃こんな喧嘩をよくした。懐かしいなあ。



 ちなみにミーナがいつもの調子であれば今でもではないかとか色々思うこともあろうが。


「おまえのものはおまえのものでおれのこころはおまえのものとかいってなにあの態度はいいがげんに」


 ミーナの早口をみるにその状態に戻るのは難しい。



 ここにジークがいれば『そんなことはまでは言っていない』と主張するだろうが彼自身の記憶力が残念なことは周知の事実であり。


 今までの言動から親代わり二人である宿の女主人とおっさん冒険者を彼が説得するのはひっくり返ったスープを元どおりにするようなものである。



「いつのまにか」

「あいつやるな」



 ここにストリートチルドレンのリーダーであるジャンことジャンヌ嬢がいたらジークの味方はさらに減った筈だ。



 ジークは泥棒より結婚詐欺師やヒモの才能があるのかもしれない。



 そんなジークとビナは。

「うまいうまい」「おにいちゃんもっとたべよう」

 完璧に食い物の誘惑に負けていた。



 なんせ「金はいくらでもあるから好きに食べていい」と言われれば是非もない。


 強烈な野生種ニンニクの匂いと舌から漏れる唾液の甘み熱く香ばしいコカトリスの山串を頬張り、キンキンに冷えた蜂蜜入りミルクをすする。ほのかにひとつまみ塩が入っていてまたうまい。


 寒いのはマイナスだがそれはいつものことだ。ミルクの甘みを氷と蜜、塩の辛さが強くする。そこにまたコカトリスの山串が焼け、『はい次!』と渡される至福。


 ジークは呑まないがこれは店のお兄ちゃんたちを連れてこればよかった。さらにタカれるのに。



 そして財布の持ち主がまた食べる食べる。

 細く小さな体に似合わない豪快な食べっぷりに屋台の店主たちも驚き喜んでいる。



「おう。お姉ちゃんどっかの巫女さんかい? いい食べっぷりだね。神殿じゃこんな料理は食べないだろ。ほらほらもっと食え食え俺の奢りだ。そのかわり宣伝してくれよ!」



 餓鬼族もかくやの大食いっぷりだが隣のジークもビナも負けていない。

 彼らくらいに貧しいといざ大量の食事を行うとき胃が受け付けない筈なのだが三人とも生来健啖らしい。



「お兄ちゃんこの氷甘くておいしい」

「氷なんてクソ寒いのに食って腹壊したり舌を凍傷させても知らねえぞ」


「お、これに目を付けるとはあんたやるね。そいつはお貴族さまの料理だぜ」



 マジで。ジークが目を剥くと屋台の親父は笑う。



「マジマシ。『車輪の王国』三都は距離的にそんなに離れていないのに激しく気候が違うだろ。『立夏の嵐』は砂漠ばかりなうえなんかおっそろしく暑いらしくてな。『艶月の雪』の氷や新雪に蜜をかけて食うのが貴族の楽しみなんだぜ」

「へえ。街から出たことないからしらねえわ」



 寒さに足が砕けそうなのにこんなもの口にするビナがおかしいと思いつつ貴族の食い物ならばとジークも口にする。

 シャリ。ふわ。新雪の柔らかさが一周回ってほのかに温かくさえ感じる甘さ。



「おっちゃん。うめえ」

「だろうだろう。これはな、砂糖を入れてねえのさ」


「なんか甘酸っぱくてとってもおいしい」


 さっと器を突きだした美少女に苦笑いする屋台のおっちゃん。


「さすがに『艶月の雪』でこれを食うやつはいないからな。もっと食って良いぞ」

「わぁい!」


 シャリシャリと音を立て頬を膨らませてそれを食べる少女は小声でぼやく。


「ああ。レィもこれ食べるのかな。うちの神殿でも部屋を温めて食べたい」


 すさまじい贅沢発言をする少女に流石にジークとビナも眉を顰めかけたがその気持ちは大いに納得できる。



「で、おっちゃん。砂糖を入れずにどうしてこんなに甘いのさ」

「よく聞いてくれた! これはな! 乳の一種を発酵させてこの甘さにするんだ。発酵させ過ぎると酒になっちまって甘味が無くなるから難しいんだぜ!」



 彼はその開発経緯を延々と語りだしたので子供たちは早々と離脱する。



「面白かった」

「おいしかったね」

「次はどこにつれてってくれるのかな」


 三人は市場で鶏を追いかけたり、牛の乳を拝借したりしながら進む。

 美少女は貴族か巫女のような風体でありながら下町やスラムも慣れた足で歩く。

 豪奢な衣装にも拘わらず盗賊や住民が彼女に手出しをしないのも何故か『近しい』雰囲気を纏っているからだ。



「ところで」



 ジークは美少女の名前をちゃんと聞いていなかったことを思い出した。

 自分たちから名乗り改めて彼女の名前を問いただす。



「えっと私の名前はドミニ……ローラです」



 美少女の髪は金色に輝く。比喩ではなく本当に金色なのだ。

 正義神に愛されて産まれたものの一部やエルフの幾人かはこのような髪を持っている。



「ドミニクって今言いかけたような」

「確かお兄ちゃんそのひとって」


「あ~! あ~! 聞こえない! 先代の聖女様は邪神の使途と相打ちになってお隠れになりました!」



「聖女?」

「だよ。先代の正義神殿の聖女様がドミニク様っていうの。私みたこと……あれ」



 ビナは確かに利発な娘だが四歳に満たない筈でありそのような事があろうはずがない。



「この味、どこかで」



 ジークと会う前のことはつとめて思い出さないようにしているが今よりはいい暮らしだったと思う。とりあえず冷たくはなかった。



「 お兄ちゃん、大きくなったら『立夏の嵐』に行ってみたいな」

「無理だろ。俺たち市民証明持ってねえぞ。隊長に融通してもらわないと」


 それはダッカードと隊長が生きていれば叶うかもしれない。


 そして暑い暑い国でこれを思う存分皆で食べるのだ。

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