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おっさん冒険者の脱英雄譚  作者: 鴉野 兄貴
コソ泥とおっさん

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子供たちとおっさん

「ジーク……くぅーん!?」



 ジークは変態のダイビングアタックを必死で避けた。良い勘の持ち主である。



「まてぇ!」「おいこらジークちょっとこい!」


 抜刀はしていないとはいえ武装している若者が一〇人以上で追いかけてくるのだからジークでなくとも恐怖を感じておかしくない。


そして背後からの襲撃にも彼は背を逸らし頭突き気味に頭をぶつけあいつつも全身のばねで体制を整えて着地。


その先にはダイビングアタックを刊行した男がいる。「ぐえ」「ごめにょ!」何を言っているのか自分でもわからない返答をしつつ彼は駆ける。



 手近なごみ入れに手をかけて飛び跳ねる。両足を更にひっかけて高く飛ぶ。勿論その先にもリンダの店の若者がいるのだが彼はヘタレにも頭を抱えて避けた。


本能的にある程度の大きさの物体が顔面に飛び込むと避けてしまう。それに両手でひっかくようにして加速をつけ、適当な家の窓に飛び込む。


驚く住民に謝り倒しつつ遅れた食事をとっていた彼らの目玉焼きを顔にひっかけベーコンを口で食むのも忘れず家の裏口から飛び出すジーク。



 そのようすに「あんな早いのかよ?!」とアワフタしながら追いかける一〇名の武装集団がそのまま家宅侵入。「強盗!」「泥棒!」「いえ。勇者です。ツボの中にメダルとかありませんかね」若者たちもワケのわからないことをいう。


慌てて頭を下げて外に飛び出したかと思うと箒と塵取りを持ってきて部屋の片づけをし住民に頭をペコペコさげて謝罪し『急いでいるのでごめんなさい! 抗議は後で聞きます!』またジークを追う。



 先行部隊が『風の声』で場所を教えてくれる。いくらろくでなしどもといえ一年以上リンダの店にいたものたちである。多少は魔法の心得のあるものがいるようだ。



 魔法が使える以上はそれなりの精鋭である。

 その彼らの一人は突如閉じた扉に鼻をぶつけてもんどりうつ。


 扉の反対側から『ごめんね』と女の子の声。ビナを勘定に入れなかったのが彼の敗因だろう。



「え、あいつら早い」「というかかしこい」



 普段酒呑んでダラダラしている若者たちは身体が大きい分小柄で地の利のある二人を捉えるに至らない。

 早くも息も絶え絶え。鎧と剣は置いていけと女店主にきつく言われたのに。



「抜くわけじゃない」「帯剣しない冒険者ってなんなのさ」



 結果子供に振り回されている。


 実際魔法を唱えようと手元が動いた瞬間にビナとジークが両手をひっつかんでくるりとまわして倒された。結果的に詠唱妨害になった。


そのふたりはその勢いを活かして壁に取り付き膝の力を抜くことで壁の衝撃を殺して斜めにかけて走る。



「ええええええ!!」

「子供の動きじゃねえぞ!」



 酒呑んでダラダラしている若者たちとはいえ働き盛りの体格と体力と力はある。

 それを振り回すのだからジークとビナはかなりよくやったほうだ。


 なにより「うわ!」「なんか資材が落ちてきた!」ビナが容赦しない。



 そこに小さな足が伸びて転ばされる。ジークもなかなかやる。


 冒険者たちはうんこまみれゴミまみれになりながら二人を追う。くれぐれも傷つけないようにとおっかさんに念を押されているので必死だ。



「ジーク! お前を連れて来るとおっかさんがケーキ焼いてくれるんだよ!」

「え、なにそれ俺も食いたい!」「……ケーキはともかくミーナちゃんとは嫌だ」



 軽い嫉妬を見せたビナだがそのとばっちりを食った冒険者は彼女のパチンコを鼻面に受けた。

 この世界にはゴムのパチンコはなくとも小枝でも異様にしなる木材はある。



「おい! ジーク、こっちこっち」

「おう! ジャン!」



 男装をしている女の子が廃屋の二階から声をかけてくる。

 一瞬ジークは旧友の顔を彼女に見たが幻だと考えて首を振る。


 あの日『今日から俺がジャンだ』とジャンヌが言い出した時に大いに喧嘩をした。彼自身は忘れている案件である。

廃屋の玄関扉は鍵がかかっているが子供たちが設置した丸太を伝って二人はするすると窓から侵入。


そこにジャンことジャンヌが丸太を転ばす。


「うわ!」「ぎゃ!」

「よっしゃ!」


 腕をあげて快哉をあげる三人と子供たち。

 同時に誰かがぼやいた。



「ジャンヌ。ここ出口あったっけ」



 小さな女の子の台詞に全員が固まる。



『……たーすーけーて~~!!』



 三人は見事に捕まった。

 完璧な自爆である。



「おーい! おーい!」

「マジであかないぞ。どうなっているんだ」



 おんぼろな扉がどうやっても開かない。

 家主は魔法の鍵でもかけたのだろうか。


 普段の遊び場兼雨除けの家が自分たちを閉じ込めることになって焦るジャンヌに対してジークは余裕で何か食べている。単純にあまり長時間悩むのが苦手なだけであるが少女にはこれが大物の行動に見えた。



「何か策があるの」

「さく? それくいもの?」



 もういいとジャンことジャンヌが肩を落とすころ、たわいもなくパカッと扉があく。

 光とともに顔を出したのは子供たちの知る顔である。



「あ、いつも薬草取られている間抜けのおっちゃん」



 とっているのは彼らである。

 抵抗の意思のないものに集団で襲い掛かって荷物を奪うのはよろしくない。



「あれ腹壊したぞ!」



 薬草には毒草も混じっているので食用にするのはよろしくない。

 身寄りのない孤児がいきなり大人も連れずに薬草や毒草を持ち込んでも薬草店主とて買い取るのをためらうのは仕方がない。それでも『毒草が混じっているから食うな』という良心はあったが彼らには食欲のようが先にきた。



「えっと……ジーク。ちょっといいかな」

「いねえ!」



 ジークはダッカ―ドの顔をみるが早いか腕も使って四つ足で階段を駆け上っていく。路地裏生活の長い彼は階段を登るのがあまり上手ではない。逆に瞬発的な動きを行う際四つ足で駆けるのは得意だ。



「いじめる?」



 小首をかしげるビナにおっさんは呆れて応える。



「いじめない」

「いじめる?」


「いじめません」



 先ほどまでビナの仕掛けた丸太の下敷きになっていた青年がぼやく。

 その脇をビナがそっと抜け出すので注意を背後に向けてビナを追おうとする冒険者たち。



『やっぱいじめる~~!』



 子供たちは家具を倒してダッカ―ドたちを撃退した。



 ここは彼らの巣である。餓鬼族の巣ですら潰せない彼らには本物の餓鬼こどもの相手は荷が重い。



「何故ここにタンスがあるのか怪しいと思っていた!」

「大丈夫かカール」



 ダッカ―ドはカールと呼ばれた青年を庇って下敷きになった。

 うめく彼に蹴りを入れる少年がいる。



「おっさん……なんだよ人手をつかっておれを」

「いや、聞いてくれジーク。このままだと盗賊ギルドに追われるぞ」



 一瞬彼の表情が凍ったがもう一度ダッカ―ドの顔を蹴って答えた。



「どうでもいい」

「よくない。盗賊ギルドは恐ろしいぞ」


 本当にどうでもいい。

 ジークは少し肩を落としてぼやく。



「……あのさ。おっさん」


 ちょっとアンタの事、親父がいたらこんなのかなって思っていたぜ。

 彼は失望と共に冒険者たちに背を向け、子供たちに礼を言って去ろうとする。



「引き上げだ。ありがとうなジャン」



「待ってくれ! ジーク!」

「なんでおっさんが親父の事を言わないのか知らなかったけどさ」


 玄関から出ていたビナが戻ってきてジークとダッカ―ドを眺めている。



「迎えに来てくれる夢を見たことがあったよ。ジャンが死んだ晩でさ。すげえ寒かった」

「……!」



「もうジャンは死んだし、ジャンヌがジャンをやるっていって大喧嘩したっけ」

「覚えていたんだ」


 さっきまで忘れていた。

 ジークは言いかけたが黙った。


 そのままジャンヌに腕を振って歩きだす。

 少し足首と手首を捻ったかもしれない。

 その腕を振って妹が『かみさまかみさまいたいのどっかいけ』とのたまうと痛みは消えたが。



「じゃあな。街を出るわ」

「まて! 子供だけで外には行けない!

 下水道を使えば出ることが出来るのは嘘だ! 毒の空気が満ちているぞ!」



 半端に関わると期待しちまうぞ。

 ジークは小声でおっさんの耳に届かないように告げる。



 一歩踏み出し、止まる。


「あ、おっさん。おれの本当の親父って」

「……ジェイクか?」



 ジェイク。ジャコブの異名か。

 ジェイクとジークはかなり違うが親の名前からジークになったのだろう。


 ジークは適当にアタリを付けて『あんがとな。なんか妙に立派な名前だと思っていた』とだけぼやいて進む。



「なんか、うちの親父は立派な人だったらしいな」

「ああ」



 生きているならその辺ぶん殴ってやりたいところだが、多分死んでいるだろうしとりあえずこのおっさんをけっておこう。



「あんたも結構よかったぜ。最悪だけどな」



 その蹴り足が止まる。



「あれ。なにこれなにこれ」



 早々と家を抜け出し遠目で様子をうかがっていたジャンヌは驚く。

 両手両足が出鱈目に動いて止まらない。


 その隣では小さな女の子がタップダンスを。更に奥では少年が頭を始点に大回転を始めて喝采を受けている。その喝采をあげた子供たちも踊っているのだが。



『踊れよ踊れよ楽しく♪ 踊れよ踊れよいつまでも♪』



 呪曲と誰かが気付いた時にはその場にいるもの全員が踊りだしていた。

 唐突に白い馬が乱入し、ダッカ―ドたちにのしかかっていた家具を押しのけてくれる。



 白い馬がそのままかき消えたかと思うと器用にビナとジークの首の裾を食んで捕まえた。



「……まったく! おっさんの指輪、返してもらうぞ!」


 半妖精がキレている。

 その半妖精にジークは言った。



「指輪? なんだったっけ?」



 ジークはいまいち物覚えがよろしくない。

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