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8 屋敷の門と異界について

屋敷の不思議と異界大陸の国について、説明回になります。

異界の国について、唐突過ぎたので世界観の説明をしたいと思います。

 ウツワノは屋敷にある正門の前に立っていた。

 定期的に正門の術が破られていないか、確認する為だ。


「いつ見てもよく分からん大層な術だな。俺にどうこう出来る気がしないねぇ」


袖に手を入れたまま腕を組み、正門を見上げたウツワノが独りごちる。


「全くけしからん!」

「使い魔風情が偉そうに」


 ウツワノの独り言に付き合うのは、彼が使役する門番の使い魔達で、正門の屋根の上でいつも見張りを行っている2体で対の小さな小鬼達であった。


「定時報告」

「異常なし」


「今日の差し入れは饅頭だ」


 ウツワノは袂から和紙にくるまれた饅頭を出すと、正門の屋根に放り投げる。


「有り難く頂きまする」


 小鬼達は早速饅頭を包みから開け、頬張った。


 正門の造りは、棟門という2本の柱の上に瓦の切妻屋根が乗っている、日本ではよく見かける造りの門だ。


 門の周りは、低い石垣の上に綺麗に刈り揃えられた植木の塀が続いている。目隠しの役目もありながら、全体的に緑で低く作られた塀はあまり威圧感を感じさせないよう考えられての事だ。


 屋敷を訪れる者は、まずこの正門が目に入る。それから低い垣根越しに松や竹の日本庭園を見ながら石段に沿って玄関へと向かうのだ。


 異界では見慣れぬ正門は、それだけでこの場所がどういう所か表しており、まさに屋敷の顔となっている。


 さて、門の役目というのは敷地を隔てる他に、鳥居のように見えない領域を仕切る役割も持っている。


 この屋敷の門にも特別な術が施されていて、こちらが任意に設置した異界の各地にある安全な出入口のみと繋がる仕様となっている。


 もし異界で出入口を偶然見つけたとしても、こちらの許しがない限りは屋敷に繋がる事はない。招かれた者以外は屋敷に入ることは出来ない。

 どんな手練れが跡を付けても、散々知らない道を歩かされた挙げ句に元に戻されるのだ。


 特に頻繁に利用する異界の出入口は、はるがよく買い物に行ったりエリアスが住んでいる翆緑スイリュー王国、ウツワノの従者がよく視察に行くのは羅藍ルオラン帝国という、どちらも異界大陸にある大都市のある国だ。

 追って詳しく各国について記そうと思う。


 正門の他にも、屋敷の四方にウツワノが結界を張ってある。

 出入り自由な付喪神がかつて善からぬものを持ち込んだりした為だ。


 どんなに正門が強固でも、自由な付喪神には通用しない。

 危うく多くの屋敷に居る付喪神まで失う所であったのだ。

 あれはいつの事だったか…




 まだ異界に馴れない付喪神が役目を果たし、何時ものように屋敷に戻ってきた時だった。


 異変はすぐに現れた。


 屋敷が常に薄暗くなり、家鳴りがするようになった。

夜になると、何者かが足を引きずり徘徊する音が聞こえてくるようになった。

屋敷の中にある花や食べ物が次々腐っていった。


 その頃のウツワノは、今のように付喪神と親しくしておらず道具の管理はするものの、実に不満と憤りでいっぱいだった。


 ウツワノもまた、いきなり屋敷に連れてこられたクチで始めは屋敷を出る事も許されなかった為、幽閉された気分で鬱陶しい事この上無かった。


 そこに来てこの異変である。


 ウツワノは心底付喪神が嫌いになった。付喪神達も、そんな得体の知れないウツワノを快く思っていなかった。


「穢れを屋敷に連れてきた奴はどいつだ!」

「犯人探しよりまずはそいつを退治して貰おうか。お前はその為に屋敷に来たのであろう?」


 ウツワノの剣幕に古参の付喪神が言い放った。


「付喪神同士で解決しやがれ」

「さてはお主、穢れを払うことすら出来ぬのか」

「挑発したって俺には関係ねぇな」

「我等とてお前の手柄になるなら動かぬ」


 こうして付喪神とウツワノの我慢比べが始まった。


 食べ物を腐らせられ困るのはウツワノだけ。

付喪神有利かと思われたが、日を追うにつれ、穢れは付喪神達の力を吸出し、無力な付喪神から動けなくなっていった。


 その間にも穢れは力を蓄えていき、ボロ布に埃や塵、動物の死骸や土塊を纏めて遂に形を現した。


 もっと早くに退治していれば、形を作る事なく退治出来たのだから双方全く無駄な足掻きであった。


 こうなってしまっては、互いに戦うしかない。


 屋敷の中に具現化した穢れを牽制攻撃しながら誘導し、広い庭へと飛び出した。

 ウツワノと古参の付喪神は穢れと対峙する。


「我らに噛みついた勢いはどうしたお主。先制を譲るから倒してみよ」

「攻撃した所で塵は散り散りになって、また集まるまで待つ羽目になる」


穢れと向き合いつつも、古参付喪神とウツワノの牽制合戦は互いに譲るつもりはないらしい。


「一撃必中、同時にという訳か」


古参の付喪神が気を集中させながら、ウツワノの問いに答える。


「勝手気ままなお前達にそれが出来るってのか?」

「お主こそ攻撃威力が足らないのではないか」


 互いに悪態吐きながらもじりじりと間合いを詰め、穢れに攻撃の隙を伺っている。


 先に痺れを切らしたのは穢れの方だった。


 ボロ布を纏った塊は四つん這いのような低い体勢になり、盛り上がった背中部分から蜘蛛足のような鋭く尖った節足を6本出し、二人めがけて躍動すると節足足の鋭い爪先を勢いよく突き出し突進してきた。


「キシャアアア!」


「「消えろ!!」」


 二人は降り下ろした爪先を一歩踏み込んでギリギリで交わし、古参の付喪神は自慢の愛用する太刀で袈裟斬りに一閃し、ウツワノは雷撃を乗せた破邪の札術にて脳天から一撃と、同時攻撃は無事相成った。


 白い閃光が轟音をたてて穢れの体を貫き、焦げた臭いが立ち込めると、そこには燃えかすが僅かに宙を舞い床には黒い煤が跡に残るだけだった。


「なんと!符術師であったかあの男…」

「付喪神妖怪の天敵ではないか!」


 ウツワノの力を垣間見た周りの者達からどよめきが起こっていく。


 この戦いにより徐々にウツワノは付喪神達に認められていき、今のような関係に至るきっかけとなった。


 あの白雷を再び見たいと、後の付喪神達から語り草になる程に。


 それから双方話し合い、付喪神と協力して使い魔の監視役を付ける事となった。


 付喪神をそそのかし、屋敷に取り入ろうとする悪鬼穢れの類いを払うために。

 付喪神は純粋なものが多い。悪気はないからたちが悪い。





 ウツワノは屋敷の四方にある結界の一つを確認していると、蔵の方から子供達の笑い声が聞こえてくる。


「甘いお菓子頂戴!」

「甘いジュースがいいなー」

「果物が食べたい」


「供養してやるから、蔵から出てはいけねぇよ?」


ウツワノにしては優しい声でもって、子供達へと声を掛ける。


「屋敷には怖い鬼がいるんでしょう?」

「そうとも。お前達など簡単に食べられてしまうからな」


無邪気な子供達はウツワノの元に集まり、次々に話しかけてくる。


「いい子にしてるよ!おばさんも優しくしてくれるし!」

「うん!供養塔にお供えしてくれるの」

「お花もこの前持ってきてくれたよ」


「…お前達、おばさんと会ったのか?」

「かくれんぼしただけだよ!」

「お洗濯干すのお手伝いした!」

「お菓子貰った!」


「婆さんは地蔵を見れば拝むし、子供を見れば菓子を渡す生き物だという事をすっかり忘れていたな」


 庭の一角に建てられた蔵の門は閉じており、閂もしっかり掛けられている。

 はるが蔵の扉を開けて子供を出したのではなく、子供達が蔵の周りで遊んでいたのをたまたま見かけたのだろう。


 蔵の傍らには供養塔がひっそりと立てられている。

 いつ誰が立てたのか分からないが、苔むした石の塔には竹の花挿に野菊が活けられ、石の祭壇には和紙の上にお菓子が供えられていた。


「あのおばさんははるさんと言って、新しく屋敷に来た人間なんだ」

「そうなんだー!」

「優しい人で良かったね。ウツワノ」

「優しいだけじゃあ屋敷の管理は務まらねぇよ」

「大変だね、ウツワノも」


「そう思うなら、蔵から持ってきて欲しいものがあるんだが」

「いいよー」


元気に答えた子供達のうち、年長らしい男の子が手を上げた。


「玉手箱みてぇな箱で、文箱なんだが分かるか?」

「封がしてあるやつ?」

「そうだ、それ」


 子供達が文箱と呼ばれる厚紙を和紙で補強し、綺麗な模様の和紙で装飾した箱を持ってくる。


「はい、どうぞ」

「助かる、ありがとうよ。後で菓子を持ってくるからな」

「わーい!」


 子供達はくるくるとウツワノの周りを囲むと、次々に駆け出し遊びに戻っていく。


 優しい付喪神がたまに異界でさ迷う御霊を連れてきたり、付喪神に成れないながらも品物に遺された思念が悪鬼にならぬ様、引き離し浄化する事がある。

 また修復の難しい壊れた品物も最後は燃やして埋められる。


 この蔵に保管されている品々は、次の役目まで静かに眠りについて待っているのだ。


 文箱を小脇に抱え、四隅の結界のもう一つを確認すると、ウツワノは屋敷の自室に戻った。


「これが必要になる日が近いうちに来るはずなんだが」


 封を破りつつ箱の蓋を持ち上げ、中身を確認する。


 溢れる妖気をごみでも払うように手で軽く撫でたウツワノは、中身の本を取りだし読み耽るのであった。


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