6 陽《はる》の日常
平日のみ毎日更新にしようかと思います。
土日祝日投稿多いので何となく。もし、休みの日こそ読みたいという方は活動報告にコメント下さいませ。宜しくお願い致します。
布団から起き出て、寝室の窓を開ける。
ここは箱庭の中にある母屋だ。
生活に必要なものは生前の部屋から持ち込まれて揃っているし、台所や風呂トイレも使える。
生前祖母が住んでいた家の再現なので、彼女が困るような事はなさそうだ。
(私が小学生だった頃は毎週末泊まりに行っていた祖母の家)
「懐かしい思い出だった筈なのに、不思議な気分…」
朝から思い出に耽っていてはいけないと思い直し、さっさと身支度を整えていく。
箱庭の家の玄関から外に出ると、屋敷の部屋に出る。
ここは、広い屋敷の中にある使われていない部屋の一つで、洋間の作りになっている。
始めの頃箱庭は物置部屋に置かれていたのだが、私が生活しているのにあんまりだとエリアスさんがウツワノさんを諌めたようで、今はこの部屋で飾られている。
メインの客間は和室に和洋折衷のインテリアで飾られているが、他にも部屋によってテーマが決められており、来客用の部屋も用意されている。
最も誰もがこの屋敷を訪れる事が出来るのではなく、色々条件があるらしい。
私は用事がある時以外は一人で外出しないので、いまいち理解出来ていないけれど。
ウツワノさんは時間を気にしない性格のようで、起床時間はまちまちだ。待っていても仕方ないので、屋敷の台所で朝食作りを始める。
屋敷にあるものは付喪神候補の物達ばかりで、勿論台所にも沢山あるらしい。
私には分からない為扱いに困ると伝えると、使われないと困るから気にするなと言われたので、遠慮なく使わせて貰う事にした。
釜で炊いたご飯に、お味噌汁。朝は軽めの一汁三菜を目安に用意する。
朝ごはんの後は洗い物をして、お茶を一服入れてから各部屋の確認を行っていく。
何か違和感を感じたら報告するのと、空気の入れ換えを毎日行うよう言われている。
気になる所を掃除する以外はしなくていいと言われたので、今まで掃除はどうしていたのか聞いた所、定期的にお手伝いを雇っているとの事。
しかも異世界のお手伝いさんは魔法が使えるそうで、掃除道具を魔法で操り、埃やゴミも纏めてその場で消し去るそうだ。
ただし扱いに気を使う所の掃除は手作業で行うというので、お手伝いさんが来たとき一緒に掃除しようと考えている。
洗濯と風呂トイレ掃除を終えた頃、ウツワノさんが起きてきたら遅めの朝御飯又は昼食を取り、午後からは来客用の準備かウツワノさんに着いて仕事のお手伝いをして過ごす。
夕方頃、夕食の買い出しと準備を行い、ウツワノさんと共に夕食を頂く。
特に用事がなければ屋敷を御暇して、箱庭の自室に戻るという生活である。
屋敷に守られた異界生活は快適過ぎて困ります。
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屋敷の外の異界は、魔法があったり魔物が襲ってきたり、色々な種族の方もいるそうなのですが、買い出しは必ず護衛が付くので、異界での接触は必要最低限にされています。
おばちゃんなのだから、警戒される事もほとんど無いみたいなのだけれど。少しずつ異世界を満喫していこうと思います。
ウツワノさんも屋敷に引きこもり仕事ばかりしています。
案外真面目で几帳面な性格みたいで驚いています。
あんなに人の機微に疎く、無愛想だというのに。
もし私ではなく若い娘さんがこの屋敷に呼ばれたのであれば、きっと面白い恋愛ドラマになった事でしょう。
おばちゃんの私にそういう展開はあり得ないので申し訳なく思います。
そうそう、ウツワノさんの友人のエリアスさん。
彼は私と異界で最初の友達になって下さいました。
可愛いものや綺麗なものの趣味が合うので、会う度話し込んでしまいます。
お仕事は異界で鑑定士をされていらっしゃるとか。
この屋敷に持ち込まれた異界産の品物の鑑定や目利きを行うそうで、よく屋敷に足を運んで下さるお一人です。
他にも屋敷の常連客の方々がいらっしゃるそうで、お会い出来る日を楽しみにしています。
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カレンダーの概念がないようなので、彼女は日記をつける事にしたらしい。
この日記を密かに楽しみにしている付喪神が盗み見している事も知らずに。
「今日も楽しい報告をありがとう。おばちゃん、じゃなかった陽ちゃん」
早速日記を読み終えた付喪神の誰かが、楽しげに呟いて姿を消した。
お婆ちゃん改めおばちゃんの名前は陽さんと名付けて貰いました。異世界の方達にも発音しやすい和名をと考えたみたいです。