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36 義賊の一大拠点と黒幕



 闇が濃くなり、夜が緩やかに長くなる最中。

 闇に紛れて暗躍するのは魔物と悪人。


 帝国で活躍していた裏社会の組織は闇に乗じて帝国領を飛び出し、最近新たに勢力を増してきた魔族とも魔物ともつかない第三勢力と協力する事で、王国や魔界といった場所にも拠点範囲を拡大した。


 不安を煽る一方で金を取り護衛を派遣したり、避難した貴族や金持ちの家々を襲って物資と金を強奪する。

 避難所生活に不満を持つ者を言葉巧みに誘い出し、拠点の労働力として雇い入れる。


 こうした活動によって、帝国とも王国とも違う一大拠点が作られていき、今一番活気ある場所として賑わっていた。


 そんな彼等が信頼する第三勢力組織、それは魔族と人間のハーフや妖怪悪魔と呼ばれるような異界の弾かれ者達。


 以前ウツワノが匿った者達も含まれており、熱血サムライの地道な共存布教活動が実を結んだ。


 子供や若者が多くを占める一団は、魔物が溢れ混乱する人々の前にいち早く現れ、逃げ遅れた人々の救援活動を行いながら仲間を増やし安住の地を求めて移動を続けた。






「増えた魔物は変異種ばかりか」


「聖なる光で弱体化しないと武器が通らない」


「魔力のある子供達を狙ってる!」


「囲まれるぞ!」


 救援に向かったサムライ達がいつもと違う魔物に遭遇し、子供を守りながら何とか攻撃に耐えていた。


 泥臭い戦い方しか知らないサムライ達の武器は連戦によりボロボロで、硬い魔物の攻撃を受ける度磨り減っていた。


「格好は其なりでもてんで駄目だな」


「まぁそう言わずに力を貸してやってよ」


 緊迫する状況とは裏腹に聞こえてきたダメ出しと呑気な声だったが、次の瞬間目の前に二人の男が現れ、サムライに攻撃を加えていた魔物が一斉に吹っ飛ばされた。


 そこにはサムライ達が憧れ尊敬する古えの侍姿の名刀付喪神と無造作に武器を袋に差した商人風の男が居た。


「鈍ら刀じゃ守るものも守れないってね」


 商人風の男はサムライ達に刀を次々投げて寄越す。


 受け取った刀を握ると不思議な事に力が湧いてきて、自然に構えると飛び付くように襲いかかる魔物がゆっくり動いているような錯覚を覚えた。


 研ぎ澄まされた神経に集中していくと、握った剣が鼓動して呼吸を合わせろという声が頭に響く。


 剣豪が宿る刀はサムライの体を借りて、苦戦した筈の硬い魔物の体を横一線に切り伏せた。


 仲間のサムライ達も同様に、渡された剣を手にしてからは一撃で魔物を凪ぎ払っていた。


「相性は悪くないようだ」


「まだまだ指南が必要だが」


 サムライ達が一体を相手している間に、残りの敵を掃討した二人が戦いの様子を見て感想を述べる。


「あんた、村で俺達を助けてくれた奴の知り合いか?」


 商人風の男の顔に見覚えがあるサムライが声をかける。


「あいつは俺の弟分てとこだな。俺と違って無愛想だったろう?」


「確かにあんたの方が話しやすいな」


「俺はアランだ。ウツワノの代わりに色々力になろう」


「そいつは助かる!よし仲間と合流して皆に紹介しよう!」




 そして一団の規模が大きくなった頃、噂を聞き付けた魔族の権力者が支援を申し出た事で、帝国の裏組織と合流して拠点作りを始めて、今に至る。


 サムライ一団は組織と棲み分けする意味を込めて、一団を義賊と名乗り、拠点詰所に旗を立てた。

 拠点出入口門と物見櫓にはためく段幕と旗は、移動する間からずっと掲げていたシンボルで、魔物に襲われた人々の目に映った旗は希望となった事であろう。



「あの時ウツワノ様が我々を見捨てず匿ってくれたからこそ、今の我々がある」


「先見の明に感謝しか御座らん」


 拠点に構えた立派な詰所にて、皆を引き連れてきた熱血サムライ達が感慨に耽る。


「武器に武士まで派遣したんだ。これからも精力的に活動を続けてくれよ」


「「 おうっ! 」」


 皆の信頼を一心に受けた名刀の付喪神と青年アランが、定時会議で集まる義賊の頭首とサムライ幹部に向け、檄を飛ばした。




 拠点内を見渡せば、屋台や露店商の中にも付喪神が紛れており、他国で流通が混乱し物資が不安定な中此処が賑わっているのは、生活道具の付喪神達のおかげである。



「良いねぇ、付喪神が活躍してくれる分だけ力が溜まる」



「見えてるか?ウツワノ。もうすぐお前も此方に来られるだろう」



 拠点全体を一望できる場所に立ったアランが、角を生やした異形の美女と執事風の男を従えて満足げに呟いた。



 風貌は異界の住人が纏う服装に薄い髭。青い瞳が印象的な青年であるが、ウツワノと顔が瓜二つであった。


 正確にはウツワノを老けさせた見目なのだが、分身である彼は屋敷で引きこもる彼に代わってずっと異界で暗躍していた。




 付喪神が異界で活躍し屋敷が手薄になり、陽の登場でウツワノの束縛が緩む今が絶好の機会。


 付喪神を管理しながらウツワノは自由に行き来出来る道具に呪いを込めた。


 それは少しずつ人間の領域に闇の力を紛れ込ませ、人々の生命力を糧に力を貯める反魂の術。


 醜い心の隙であったり、些細な負の感情を巧みに煽って、世界の不平不満を少しずつ凝縮しながら気の遠くなる歳月をかけて集められていった闇の力。


 異界では今も、付喪神がその身に掛けられた呪いに気付かず、活躍すればする程人々の精気を奪い、屋敷を破壊する力に利用されていく。




 アランがしなやかに指を反らせ、各指に巻き付いた赤い糸を緩めては伸ばして距離を稼ぐ。


 細く強い糸は拠点に住む沢山の人の首に巻き付いており、巨大な蜘蛛の巣のように拠点全体を覆っていた。


 アランが軽く手首を反すだけで多くの首が狩られ吹き飛ばされるのも知らずに、拠点は今日も人が行き交い賑わいを増している。


「死と恐怖の怨嗟で溜まる力はどの位の規模になるかなぁ?」


「必ずや片割れ様を引き寄せる一手になるかと」


「楽しみだなぁ」


「はい、アラン様」




 緩やかな崩壊が続く中、ほくそ笑むのは破壊を望む者たちだけ。




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