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閑話 漫ろ物語

今まで登場した付喪神とその他多数の付喪神達による宴の様子です。

本編とはあまり関係ないかも知れません。


文中、どの台詞がどの付喪神かは伏せてます。

襖越しから覗き見しているような雰囲気でお楽しみ下さい。

 人は寝静まる深夜。

 屋敷にある茶の間の一室で、酒と肴を楽しみながら集まる付喪神達の姿があった。


「あの時は本当に肝が冷えたわい」

「今すぐ脱げなんて破廉恥なお人」

「そんな事人前で言われたら恥ずかしくて消えちゃいますぅ」

「私ならその場で叩きのめしてやるわ!」

「下心ないからとは言え、興醒めしちまうよあのボンクラは」


 ほろ酔いの面々は、思い思いに今日までの出来事を語り笑う。

 ご相伴に与ろうと、人形ひとがたに化けられない付喪神達もぽつぽつと集まり始める。


「やはりウツワノ様には、女性の気持ちを理解して貰う為にも相応の相手を用意すべきでしょうか」

「妖怪屋敷に嫁に来る奇特な娘なんているかねぇ」

「いっそのこと付喪神の中から決めちゃう?」

「何にも知らない異国から娘を連れてきてはどうかの?」

「魔法使える子ならいいかもね!」

「見合いなんてのも面白そうだな」

「私も屋敷を留守にする事が多いので気になっております」


 話題はやはりウツワノの機微の疎さであり、特に女性に対する扱いについて何らかの啓発が必要ではと以前から懸念されていた。

 同時に無頓着な面も加味すると、花嫁や側室はたまた押しかけ女房でもいいから女気があった方が良いという見解の流れになったようだ。


「陽さんじゃ()()なの?」

 集まりだした付喪神のうち、幼い声の誰かがぽつりと言った。


「陽は死んだ亭主一筋らしいからねえ」

「他の男に唾つけられたんでしょう?」

「エリアスさんが黙ってないわよ」

「三角関係とか素敵じゃない」

「あぁ~思い出すわ…私を奪い合ってかけおちしたあの…」

「美意識に欠けるわぁ。心中立てこそ…」

「あらそれなら私だって!浮世を流したあの人と…」


 付喪神達は姿を現さない時も、屋敷の中の様子は見ているようだ。特に人間の事に関しては、どの付喪神も興味津々といった所か。


「まずは具体的に進める為に、付喪神から希望者を募ってみようかね」

「面白そう!!」

「桃乃も花嫁修業と思って参加してみたら?」

「えぇっ!?お姉様!」

「花嫁修業で勝負なんてのも悪くないねぇ」

「そんなのより女は色気だよ」

「いやいやまずは恋の手解きからだな」

下卑げびた話なら向こうでやっとくれ!」


 日頃好き勝手にしている付喪神達に目標を与えるのは面白い試みかも知れない。いずれ現れるのを待つよりは、出てきて貰う切っ掛けにもなるというもの。

 今も聞き耳を立てている付喪神だって居るに違いない。


「お前達は何を勝手な事を…」


 喧騒を聞きつけてやって来た者がいることが何よりの証拠。

 こうして誰ともなく集まっては自然と宴が始まる事もしょっちゅうだ。付喪神は陽気な者が多い。


「おや珍しい。あんたが宴会に現れるなんざ、明日は雨かね」

「もしかして邪魔しに来たのか」

「いいや、嫁と聞いて来たのだ。俺の妹分を推したい」

「ええ?まぁそりゃあ妹分の綾姫は可愛いけれど、幼すぎない?」

「男は若い女がいいって云うけどさ」

「綾姫はいつでも良いと言っておったぞ」

「ウツワノの何がそんなに良いんだか」

「他にも恩義を感じて役に立ちたいと思う者がいるだろう」

「我らも推薦したい者がおるぞ!」

「異世界に散らばる仲間で、いい娘を知る者が居るやも知れぬ」


 お節介な者は何処にでもいるもので、話がどんどん拡がっていく。明日にもなれば、多くの付喪神達の間で嫁談義が伝達するに違いない。


「そうだ異世界と云えば…」

「バトラー旅の話を聞かせて!」

「皆さんに異国の酒と菓子を持って来ておりました」

「おお!酒か!呑もう呑もう」

「異国の武器で面白いのはあるか?」

「強い奴の話を聞きたい!」

「強さなら、異国時代のウツワノの武勇伝だな」

「琵琶法師は居ないか?」

「弾き語りでも長唄でも構わないよ!」


 こうして唄う者や踊る者が現れると、酒の勢いもどんどん増して宴は佳境に入っていく。

 朝日が上るその時まで賑やかに宴会は続いたのであった。



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