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1 ガラクタ同然

初めての投稿になります。

短すぎず長すぎない程度に頑張っていきますので、宜しくお願い致します。

 古くて狭い賃貸の一室。


 玄関を開けて、まず目に飛び込んでくるのは、独り暮らしの老婆にしては多すぎる家具と荷物たち。


 多すぎると言っても、ごみや雑多な生活品で溢れている等ではなく、きちんと整頓されている。

 しかし、壁を埋め尽くすように配置された家具や荷物は、狭い部屋を更に狭く見せ、思わず立ち尽くしてしまう程の圧迫感を与える。


 これでも死ぬまでには減らしたいと悩みに悩み、時には涙をのんで厳選した品物達なのよと困ったように微笑み呟いた老婆は、満足げに部屋を軽く眺めた。


「さあどうぞ中へ」


 彼女の元を訪れた者は、地域の高齢者を定期的に巡回訪問する職員。相変わらずな部屋の様子に軽くため息を吐く。


 賃貸住みで、夫に先立たれ、子供や頼れる親戚も近くに居ない孤独な老人。


 その条件を満たす彼女には当然財産の余裕はないだろうから、生前のうちに少しでも遺品整理をお願いしているのだ。

 これは既に年々社会問題となっており、担当職員としては看過出来ない。


「最近のリサイクル店では訪問して査定してくれるんですよ!」

 ――(物を大切にしておきたいなら、それなりの施設や家等の財産を確保した上で楽しむ事が望ましい)


「もし、ごみ回収に出されるのに外に持ち出せないなんて場合も、ご連絡頂ければ人材派遣とか便利屋さんの番号も調べますから!」

 ――(ごみにしかならない価値の物に縋り着いてないで、さっさと身綺麗に処分して下さい)


 という本音を透かした言葉と視線でもって、職員は苦笑いを浮かべながら何度目になるであろう同じお願いを伝える。


「少しずつ断捨離していきましょうね!」


 後は世間話を挟んで、健康管理について等当たり障りないやり取りをしたら、本日の訪問は完了となる。


「ではまた次回お伺いしますので…」


 そう言って乱暴に玄関ドアを閉めて帰って行った。


(今日お出ししたお客様用のグラス…

 麦茶が美味しそうに見えるとっておきのものだったのだけど…)


「今の若いお嬢さんは麦茶なんて飲まない…わね」


 一口も手をつけられず、グラスに付いた水滴がテーブルに溢れる様を、泣いてるみたいと思いながら拭き取り片付けた。




 彼女は最初からこの狭い賃貸に住んでいた訳ではない。夫に先立たれた為にここへ移り住んだのだ。


 そんな彼女の心の拠り所は、思い出の詰まった大切な品に囲まれた生活なのである。


 物持ちの良さは性分で、昔からこれだけは誉められてきた。


 興味のない人からは無駄に多く見える家の品々でも、彼女は家中の品全て記憶しており、日々の生活のスパイスとして整理整頓に幸せを感じている。


 とは言っても、彼女の大切に慈しむ品々が世間で価値のある物や高価なものなら、道楽として後世に遺せると喜ばれたかも知れない。


 しかし、今現在と近い将来で考えても、老婆の大切な物達に残念ながら価値が付くことはなさそうである。


 つまりは興味のない者から見たらガラクタ骨董でしかない。


 売ったところで二束三文。ゴミとして処分するとしても却って処分費が高くつく。

 それは彼女自身も痛いほど分かっている。だからこそ辛いのだ。



 これはガラクタなんかじゃない。

 ひとつひとつ、忘れずに思い出せる大切な品物達。

 記憶と思い出の詰まったアルバムのようなもの。

 写真や動画だけが思い出じゃあない。

 私にとっては命のように大切なもの。



「でも悲しいかな、あの世には持っていけないのよね」


「死に装束として着たり、棺の中に思い出の品として、とっておきの物は一緒に入れられるだろうけれど」


「私が死んだらゴミとして処分されてしまう…」


「考えただけで辛いわ……本当にごめんなさい…ね」



(あぁ、私が物としてここで一緒に処分されてしまえれば、どんなに心置き無くいられるか)


(死んでも気になって化けて出そうだわ)



 そして老婆は、好きな物に囲まれたこの狭い部屋で泣きながら眠りに落ちるのであった。


表現についてご指摘を頂いた所を訂正しました。

・グラスに水滴が滴るの行

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