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脱力系推理小説 無題03

作者: ジェニファ

C01

この世には『宗教』が存在する

彼は人々が宗教的信仰を欲するような具合に確実性を欲した

確実性は他のどこよりも宗教の中に見いだされそうであった

しかし、彼の尊師たちが彼に受け入れさせようとした多くの宗教的証明は誤謬に満ちていること、そしてもし宗教の中に実際に確実性が見いだされうるならば、それはこれまで確実であると思われてきたものよりも堅固な基礎を持つ宗教の新しい分野においてであろうということを発見した


しかし修行が進むにつれて彼は象と亀の萬話を絶えず思い出す羽目となった

宗教世界を乗せる象を作り上げると、彼はその象がよろめくのを見いだし、その象が倒れないように保つ亀を作ることに取りかかった

しかしその亀も象と同じく安定ではなかった

そして20年にもわたる非常な労力のあとで、彼は宗教的知識を疑う余地のないものにすることで自分にできることはもう何もないという結論に達した


※この物語は、前作無題01、02とは時間平面上での連続性はありませんが、深い関連性を持っています。先に、無題01、02を読むことをおすすめします


C02

ピンポーン

「笹原急便です」

「はーい」

「山下吾郎さんですね?」

「はい」

そう言うやいなや、その女は素早く室内に侵入してきた

「あたしは法務真理教の刺客です」

「・・・何の用だ」

「用があることは確かなんだけどね。ちょっと訊きたいことがあるの」

私の真正面に女の白い顔があった

「人間はさあ、よくやらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいいって言うよね。これ、どう思う?」

「よく言うかどうかは知らないが、言葉通りの意味だろうよ」

「じゃさあ、たとえ話なんだけど、現状を維持するままではジリ貧になることは分かってるんだけど、どうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき。あなたならどうする?」

「なんだそりゃ、日本経済の話か?」

「とりあえず何でもいいから変えてみようと思うんじゃない?どうせ今のままでは何も変わらないんだし」

「まあ、そういうこともあるかもしれん」

「でしょう?」

手を後ろで組んで、女は身体をわずかに傾けた

「でもね、上の方にいる人は頭が固くて、急な変化にはついていけないの。でも現場はそうもしていられない。手をつかねていたらどんどん良くないことになりそうだから。だったらもう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね?」

何を言おうとしているんだ?ドッキリか?私は押入れにでもサイドワインダー桜井が隠れてるんじゃないかと思って室内を見渡した

「何も変化しない教団に、あたしはもう飽き飽きしてるのね。だから・・・」

キョロキョロするのに気を取られて、私はあやうく女の言うことを聞き漏らすところだった

「あなたを殺して笹原蒼晃の出方を見る」


女の右手が一閃、さっきまで私の首があった空間を鈍い金属光が薙いだ

この状況はなんだ?なんで私が女にナイフを突きつけられねばならんのか

「冗談はやめろ」

こういうときには常套句しか言えない

「マジ危ないって!それが本物じゃなかったとしてもビビるって。だから、よせ!」

「冗談だと思う?」

「意味が解らないし、笑えない。いいからその危ないのをどこかにどこかに置いてくれ」

「うん、それ無理」

ありえない

「無駄なの」

嘘だろ?

「ねえ、あきらめてよ」


・・・その後のことは割愛するが、それはもう大変な大乱闘で、隣人が騒ぎを聞きつけ部屋に飛び込んで来なかったら、私はマジでこの女に殺されていたかもしれない


C03

ここはどこだろう?

ここは・・そうだ。正志の家だ

友人、池田正志の部屋に私はたたずんでいた

「あれ?正志?」

足元に、正志が横たわっていた

「し、死んでる・・」

なにが起こったのか

辺りを見回すと、そこには小汚い冊子が転がっていた

「法務真理教じょいふる・はぴねす・・?」

そうか、そういうことか


山下家に伝わる呪われた血統

それは、法務真理教じょいふる・はぴねすを目にすると、我を忘れて殺人を犯してしまうというものだった

ついに、私もこの手を血に染めてしまったというわけか・・

私は、音もなくその部屋を去った


「うわああ、大変だー!!」

「何事だね?斉藤君」

「正志さんが・・正志さんが!!」

「な、なんだってーー!?」


C04

木々の緑が視覚的に鮮やかな好季節

モンスーンが屏風のように、そして鳩時計の秒針のように零れ落ちる早春の午後

サイドワインダー桜井は、新学期に現を抜かす愚かな学生達の希望に満ち溢れた瞳をみて、自分の優位性をまた実感していた

彼は探偵である。そして、私の雇い主でもある

昨夜起こった池田御殿での殺人事件の調査のために、警察の依頼の下やってきたのだ

どうやらこの難事件に警察はお手上げのようである

まあ、桜井ならたちどころに事件を解決するだろう。犯人は私なのだから


桜井は、新世界の神を自負していた。「私に逆らう者は宇宙文明方程式に則り、刺殺の刑に処する!」

そう、彼はノートを持っている

その、世にも恐ろしいノートは日々の退屈な出来事を取り留めもなく書き綴る、殺人日記帳なのだ

【今日は友達の笹原君がカレーを作ってくれたよ。そのあと、レトルトカレーを食べました】


池田御殿は一見してとても住宅とは思えないような、感慨深さを放射状にはなっていた

邸内はまるで迷路のような複雑な構造をしており、素人が一度迷い込んだら白骨死体となって発見されるという逸話も、あながち大袈裟過ぎるともいえない

桜井は、七転八倒しながらも、なんとか主人・池田和重の元にたどり着く事ができた

「あなたが泣く子も黙る名探偵・サイドワインダー桜井さんですね。わたしがこの屋敷の主人の和重です」

「いやはや、泣く子も黙るだなんて・・。それは過小評価ですよ。池田さん」


C05

挨拶も早々に池田は事件のさわりを話始めた

池田の話を要約すると、大体こんな内容だった

彼の長男、池田正志が昨夜何者かに殺されたか、あるいは自殺した

警察も自殺と殺人の両方の線から捜査を行っている


しかし、彼は信じられなかった

なぜなら、正志は誰からも好かれる心優しいさわやかな好青年で、誰かに恨まれるなどということは物理的にありえないという

また、彼が最近なんらかの精神的ストレスを抱えていたようには遺伝子工学の面からみてもとても見えず、自殺というのも芸術的にありえないという

また、通り魔的犯行も邸内環境を位置天文学の面から鑑みても経済的にありえないという

また、病死の可能性も応用倫理学の面から観測しても驚異的にありえないという


・・自分で言うのもなんだが、私で決まりじゃないか

殺害当時現場に居たのは私だけだし、動機も十分だ

警察も随分無能なものだ

しかし、そんな事は口には出さない


桜井はその依頼内容を聞き慄然とした

「これでは、正志が死ねる可能性すら・・・」

しかし、こんな障子に穴を空けたような状況下でこそ、その卓越した能力を発揮させるのが名探偵サイドワインダー桜井という人物だなのだ


C06

桜井は早速、正志の部屋の調査に乗り出した

その部屋は何の変哲も無い、煌びやかな邸内の隅ある

部屋の中は、正志が生前に暮らしていた時の状態がそのままに保たれていた。ずいぶん豪勢な部屋ですこと

「いったいこの部屋で何が・・」

そんなスリルと不安をつぶやきつつ調査を進めていくと、彼はある一つの結論に達した

「犯人は、あの男だ。第一に彼が犯人であると推奨される証拠が、この部屋には多く残され過ぎている。いったいどういう事だ?彼が犯人だなんて・・。私は何か大切なことを見落としているのだろうか? ・・・現場の状況からみて、殺したのは彼。これはもう間違いない。動機も十分だ。しかし・・、いや、ありえない・・」


彼は、その場に硬直しその懸案事項を考えあぐねて閉口していると、ふと事件当時の現場の状態の伝聞情報を思い出した

正志の部屋は、執事の斉藤が合鍵でドアを開けるまでは、完全な密室だったという

その瞬間、妙な感覚が桜井の全身を駆け巡った。

「なるほど。そういう事か」


池田和重の部屋に飛び込むや否や、桜井は口を開いた

「池田さん。犯人が解りました。今からここに邸内の人間全員を集めてください」


C07

豪邸に相応しいゴシック調の豪華な家具で彩られた、主人・池田和重の部屋に、妻、池田良子、次男・池田雄二、三男・池田耕作、長女・池田美由紀、執事・斉藤太郎が次々に入ってきた

桜井は、和重、良子、雄二、耕作、美由紀、斉藤太郎に一人一人に丁寧にアリバイを尋ねた。

その結果、その全員に完璧なアリバイが存在した


もはや、私にはアリバイすら聞きに来ない

聞く必要もないということか・・・

また、邸内の誰もがすでに、私が犯人であるとわかっているのか、誰も私に話しかけてくる者はいなかった


一応、私以外の全員のアリバイは次のようなものである

和重は良子と共にナビエーストークス方程式の解の存在と滑らかさを議論していた

雄二は耕作と共にバーチ・スウィンナートン=ダイアー予想を解き明かしていた

美智子はポアンカレ予想を解き明かしていた。しかし、ポアンカレ予想は、グレゴリー・ペレルマンによってすでに解決済みである

そして、斉藤はグーグー寝ていた

実にに完璧っぽいアリバイである

しかし、桜井は全てを悟ったかのように重い口を開いた


「全員にアリバイがあるのはわかりました。実のところ、そもそも、皆さんのアリバイを聞く必要などなかったのです」

「どういうことだね?」

「それは、正志君の部屋が完全に密室だったからです。ドアも窓も内側から鍵が閉められ、他の抜け道は皆無。アリバイを聞くまでもなく、皆さんみはこんな完全犯罪は不可能なんです」

「しかし、実際に正志は殺されているんだぞ?」

「一つだけ可能性があります」

「それは?」









「それは、犯人が幽霊だったという可能性です」

「・・・え?」

「恐らく、先日何者かに刺殺された、山下吾郎の怨霊が起こした事件だったのでしょう」



私は絶叫した






※この物語はフィクションであり実在する人物、団体、事件、その他の固有名詞や現象などとは何の関係もありません。嘘っぱちです。どっか似ていたとしてもそれはたまたま偶然です。他人のそら似です







一応解説

の必要は無いですね

脱力系に相応しいオチだったと思います

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― 新着の感想 ―
[一言] びっくりしました!がんばってください!次回も期待しています!!!
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