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アイデア短編

ボッチダンジョン――神殺しを望む復讐者――

作者: せおはやみ

 神寇――現在ではそう呼称された怪物たちとの遭遇と闘い。

 神話世界から訪れた、正に魔物と呼ぶに相応しい怪物達。


 世界中の空や大地に浮かび上がった奇妙な亀裂から現れた竜に巨人、鬼や巨大な昆虫などの侵攻によって世界は破滅の危機を迎えた。


 銃火器が殆ど役に立たない怪物達。

 不可思議な力によって銃弾は悉く地に落ちてしまうのだ。

 巨人などに対抗できた対物ライフルで傷をつける程度、倒す事が出来たのは対戦車砲や航空機によるミサイル攻撃、戦車による砲撃という周りにも被害が出るような攻撃のみ。

 竜に至ってはそれらの兵器さえ通用せず、某大国が首都防衛の為に最終手段として持ち出した核兵器の攻撃でさえ手傷を負わせるに過ぎなかった。

 核兵器でさえ倒せない怪物の存在は世界中の人々を恐怖のどん底へと突き落とした。


 人類が絶望するのに要した時間は僅か一日で事足りた。

 或る者は最後の審判だと騒ぎ神への祈りと懺悔を繰り返した。

 また或る者は世界の終焉に絶望し自ら命を絶った。

 不謹慎にもこのような事態を待ちかねていたと叫び出す者も某国では多かったという。



 だが事態は意外な形で終焉を迎え、そして新たな世界の構築が始まった。


 何故神冦などという現象が起こったかは未だ確たる証明もされておらず謎のままだが、新たな世界の構築については遍く人々が知っている。

 即ち超常の存在による介入。


 特定の宗教に対して神託が下りた訳でもない。

 世界に現存するあらゆる宗教で祀られている存在では無いとその存在自体が否定した為に神でさえ無いらしい。


 一部では未だに判明しない神冦の原因ではないかと考えられている存在からのメッセージが頭に響いたのだ。


「生きとし生ける人の子らよ。

 我々は神と自ら称し侵略する者達と敵対する存在だ。

 残念ながら其方らが崇める神々とは少々出自が違うし、我々は異なる世界によっては神とも悪魔とも呼ばれる存在だ。


 さて、本題に入ろう。

 この世界に住む者達に抗う力を授けよう。

 この世界に侵略してくる存在は侵略する神の尖兵である。

 所謂、神話世界に存在する魔物達だ。

 故に倒さねば世界に尖兵が溢れ世界は滅亡するだろう。

 そして世界は新たに作り変えられる。

 これは世界の存続を賭けた戦争である。

 この世界に生きる人の子らよ、抗え、守れ、生き残れ。


 神々の制約により我らに出来る事は限られている。

 尖兵である神話の魔物を退治する事は出来ぬが、一時的に封じる様にしよう。

 そして汝らには対抗する術を授けよう。

 抗う力をもって自らを鍛え、挑み、倒し続けて世界を救え」


 抗う為に戦っていた人も嘆き悲しんでいた人も、そして怯え隠れていた人も全ての人々がこの声を聴いた。

 そして、世界から魔物と亀裂が消え去り、代わりに世界各地に神の塔、真なるバベルや封印の塔等と呼ばれる天を貫く巨大な塔が現れた。


 軌道エレベーターもかくやという建物は正に神の御業だとしか言えないものだった。

 その直径は僅か五〇〇メートルに過ぎないのにも関わらず揺らぎもしない構造物など在り得ないだろう。

 しかもだ、実際に内部に入るとその広さが外部とは異なるのだから摩訶不思議としか言いようがない。


 神々、或いは悪魔と自称する存在からの説明が無いために憶測でしか無いが、某国では恐らく神々が神冦の亀裂と魔物を吸収する為に作った神遺物だと断定した。

 この断定は強ち的外れなものでもなかった。

 後日判明するのだけれども、その塔には世界中に現れた神話世界の魔物が封じられており、倒しても数時間後には亀裂と共にまた現れる仕組みだった。


 某国、いや世界に名だたる異世界文明解析国家となった日本ではこの塔の事を封印のダンジョンと呼称しその攻略に乗り出す事になった。

 法案の設立には無駄に時間がかかる事で有名な与党の意外なフットワークを見せる。

 アキバ系にも理解を見せるドンや改革系の主導者やこれぞ保守と言われた現首相がタッグを組んで対策に当たったらしい。

 普段は採決に関係の無い野次を飛ばし議事進行を妨害する野党も流石に空気を読んだのか、積極的に法案設立に向かったという。

 自衛隊、警察、民間から志願者を募ってダンジョンに突入させるという無謀とも言える判断を下した。

 勿論の事だが、警察はまだしも民間からの志願に対して反対に回った議員やマスコミもあったが、とある志願者の一人の発言と行動が報道と言う名を借りた只の煽りでしか無い意見を吹き飛ばした。


「あの、少し宜しいでしょうか、ダンジョンに挑むという無謀な行為に志願された理由を是非!」

「俺は孤児だ、だが育った孤児院で暮らしていて幸せだった。

 だがな、あの日に俺の暮らしていた孤児院は奴らに壊されたよ。

 知り合い全ても同じようにしてなっ。

 このままだと世界が終わるんだろ。

 神だとかいう侵略者によってよ。

 グタグタ言ってねえで俺に魔物を倒させろよ。

 敵を取るついでに魔物を倒してやるさ。

 なんだよ、信じられないってか?

 反対するならお前らがダンジョンで魔物を倒すのか?

 それとも何か具体的な方策や意見があるのか?

 ねえなら黙って怯えてろ。

 少なくとも俺たちは俺と共にダンジョンに向かうと決めた奴らは世界を救いに行くんだぜ」


「これが俺が奴らを倒して得た力だ」そう叫んでカメラから視線を外した少年が手を横に伸ばして放ったのは火の弾だった。

 着弾と同時に燃え上がる炎。


 その力を彼らは魔法と呼んだ。

 神に抗う存在、同じように神と呼ばれている事もあるとは言っていたが悪魔とも呼ばれる存在から貰った神に抗うならば魔法でいいじゃないかと。



 全てを失った青年は今日もダンジョンへ向かう。

 最初の頃こそ単独でダンジョンに向かう青年に対して無謀だと諫める声もあった。

 だが青年は幾ら周囲が青年に対して善意から忠告をしても聞き入れなかった。

 国が発行するダンジョン探索者用の登録証には名前も記されているのだが、今では彼の事をソロと呼ぶ。

 他にダンジョンアタックしている面々で単独者など居ないからだろう。

「ソロのアイツが今日も一階だけに留まっていた」

「ソロだからか誘っても上に上がろうとしない」

 そんな風に広まったソロという呼び方が定着して綽名になった。

 魔物素材買い取りをしている国営組織の担当者でさえ最近はソロと呼ぶようになっている。

 見つけた獲物は必ず殺す、見敵必殺、血塗狂人などとも言われるが、彼の歩みは異様だった。


 数か月も経てば、ダンジョンへ向かった志願者の中にも死亡者も出ることからよりパーティーの重要性が話し合われる中で彼だけは黙々と一階の敵を倒し続けていた。

 二階に突入していたならば職員も無謀だともっと口調を強めて居ただろうが、彼の無謀な行為と言えば一目に映った敵だけは逃さないという事位。

 不思議に思った担当者が彼に理由を問いただした答えは奇妙だった。


「まだ敵を一撃で殺していない、肉体の格もまだ一階で上がる」


 返された答えはこの二つのみだった。

 まだ後者の一階でも格が上がるというのは理由としては判らなくもない。

 但しパーティーを組んで効率よく倒せば二階の方が確実に敵も倒せて素材も手に入り、経験値的にも悪くない。

 異様なのは先に述べた答えだろうか。

 敵を一撃で倒していないのは当然では無いのだろうかと担当者は色んな話から想像する。

 一階に現れる敵と言えど人外であり小猿鬼、所謂ゴブリンと言われる鬼も子供の様な大きさでも意外な生命力を持っている。

 相手も動くのだから攻撃が確実に入るなど中々に無い事だと聞いている。

 なのに一撃で殺していないから駄目だとソロは告げるのだ。


 多くの自称冒険者達のパーティーが固定化してきて五階へ向かい、新たな志願者達がダンジョンに入り出す頃になって初めてソロは二階へと進んだ。


 曰く、確実に見敵必殺が出来るようになった。

 曰く、もうそろそろ格の上がりが目に見えて悪くなってきた。


 担当者は此処まで慎重な男も少ないなと感心もしつつ、何故未だにソロは単独でしか潜らないのかと疑問に思った。

 あのレポーターに対する発言は未だにネットで流される程に有名人であり、流石に人には其々の事情がある事を理解していたからか担当者も深く踏み込まなかった。


 ソロが何時までもパーティーを組まないのは単純な理由だ。

 誰かの命を預かる事になる事に耐えられないからだ。

 あの日に失った全て、目の前で失った愛しき存在。

 今までの人生そのもの。


 復讐者としての行動。

 例え歩みが遅くなろうとも確実に敵を減らす。

 他人が先に進もうと確実な強さを手に入れる。

 焦らない、驕らない、より正確により強く魔法だけに頼らないでも勝てるだけの技術を手に入れるだけ。


 それは一年経とうが全くもって変化していなかった。

 いや、それどころかソロの強さを求める方向は多方面に広がっていた。


 例えば今持っている装備だが、自ら採取してきたダンジョン産の謎金属を使って鍛造した鉈の三倍は在ろうかという厚みの刀から始まって、特殊な金属や衝撃吸収材などを複合した最先端科学と錬金術の融合したような装備達。

 様々な認可待ち状態の魔法薬や術式と言われる方法を用いた肉体強化や攻撃方法の開発、使用。

 知らない魔法を使う者が居れば教えを請いに伺い、敵に関する情報は様々な伝手を用いて調べつくす。

 広がるというよりも悪化していると表現した方が似合いそうな程だ。



 ソロが潜ればその階層の敵は居なくなるとまで言われ始めている。



 攻略スタイルは様々な強化や成長を遂げても一切変更がなかった。

 だがソロに助けられた冒険者達も多い。

 どんなに危ない状況で彼と出会っても、出会えたらそれは確実に安全地帯が其処にある事を意味するからだ。

 しかも戦闘狂かと思われる程の男なのにも関わらず回復手段を多数所持していて、回復魔法においては専門職に引けを取らないとまで言われている始末だった。


 其の為か最近では彼の事を「ソロさん」「ソロ様」と敬称を付ける後輩冒険者達も多い。

 そして実は先行する同期の冒険者達が一番ソロの活躍には助けられている。

 助けられている内容は多くの分野に渡る。

 簡単に述べていけば、ダンジョンアタック用の備品等の開発や武器防具の開発、そして魔法の開発だろう。


 ソロで潜るだけにダンジョンアタックに使う備品は良い物を用いようとメーカーに要望書を送りつけて開発の資材を提供してでも良い物を作らせた。

 特に警戒、野営、休憩道具、便所用品に関してはアイテムバックやインベントリの魔法を開発しても拘っただけあって素晴らしい物が出来上がった。

 先に述べた特注の刀にしても希少金属によって魔力の通りを良くして敵の障壁を貫きやすい物を作るために素材の提供を惜しみなく行って貢献したのはソロだ。

 そうして開発した商品からもたらされる利益は全て次の備品の開発費へと投資されるのだから世界でも有数の装備開発協力者となってソロブランドが確立する程だった。


 最後の魔法に関してはソロが単独だからこそ発現しやすい魔法があったとも言えるし、必要に迫られた事で能力が開花したのではないかとも言われている。

 魔力で空間を切り裂いたり、荷物袋にもっとドロップ品を詰め込めることは出来ないだろうか。

 そう思ったのがきっかけだったとソロは語ったという。

 偶々、いや、殆どソロだからこそと言えるのだろうが、激しい戦闘行為によってドロップ品を入れる袋が魔物の返り血で染まった事が事の初めだったのだそうだ。


 魔物の血を吸った魔物の皮製の袋に何故か魔法が掛かるのではないか。

 ふと思いついたソロが中身がこの塔の様に広くなればいいのにという願いを込めて魔力を通した。

 それがアイテムバックと言われインベントリの魔法に辿りつかない冒険者には必須、物流業界だけでなく世界を震撼させるアイテムの生まれた瞬間だった。

 一部の推論から目玉怪物や粘液生物のドロップ品で作られるのではと目されていただけに衝撃的な出来事だったと言える。

 これもまた特許を取りながらも多くの冒険者に利益を齎し、そして又もや開発資金が増えただけという結果だったのは語らなくてもお解り頂けるだろう。


 そしてアイテムバックすら必要としないインベントリ魔法も同時期に作り上げている。

 血まみれの装備品を収納したいと思ったら自然と体から装備が無くなっていたと言うのだから驚くというよりも呆れる他無いだろう。

 そこで判明したのが魔力を纏わせた状態を作り上げればインベントリにアイテムを収納する事が可能だと言う事だった。

 魔力の操作と一定以上の格などが必要なのではないかとされているが、適正もあるようで誰でも使えないが、この魔法の開発は彼に一つの可能性を思い浮かばせる事になる。


 一般的に言われるところの転移門的な魔法である。

 そもそも亀裂から現れる魔物は何故亀裂から現れるのか。

 某宇宙船ドラマで地上に降りる為の粒子になって再構築するなどというSFも仰天するような吃驚魔法では無いのだ。

 ならば自由自在とまでは行かないまでもダンジョン内部ぐらいならば移動が出来るのではないか。


 この着眼点は冒険者の世界を変えた。

 残念ながらダンジョンの外では今の所不可能と公表されているし膨大な魔力とコストが必要だという難点は存在するけれども、ダンジョンの壁に特定の処理を施した魔物の血液を流す事によって行き来する事が可能になったのである。



 こうしてソロは攻略階数では無くその功績と未だに単独で潜り続ける変わり者として世界でも有数の冒険者となった。


 そして月日は流れ、五年の歳月が過ぎた。

 日本は世界でも有数の冒険者大国となっていて最先端攻略階層は二五三階と世界でも一番の攻略を果たしている。

 しかしながら内部の広さが変わる事もあるだけに一体何階が最上階なのか、更に言えば其処まで行きついたとしてもこのダンジョンは消滅しないだろうと思われるのだ。


 敵は自称していると教えられたが神という存在なのだ。

 人である者が人ならざる超常の存在に幾ら鍛えても打ち勝てるとは思えない。

 だがそれでもソロはひたすらに己を磨き続ける。

 己の全てを奪った存在に一矢でも報いる為に。

 嘗ては離された最先端攻略者との進行速度だが、この五年磨き上げ続けた彼の格と技量、装備は見敵必殺を続けて尚攻略速度の上昇を遂げるに至っていた。


 最強の単独冒険者。


 それが現在のソロの評価だ。

 地竜と言われる飛べないながらも竜種に数えられる存在ですら彼は既に一撃必殺の元に切り伏せる。

 そんな真似は最先端攻略者ですら不可能な事だ。


 一〇〇階辺りを過ぎたころから攻略速度が各段に早くなったのだけれども、それは単純にソロが強くなっただけでは無かった。

 階層を登れば上る程強い魔物になっていく訳だけれども上位種に置き換わるだけの場合や属性と言われる物が変かするだけの魔物が現れるパターンが増えてきたのだ。


 ロールプレイングゲームでよくあるような色違い、大きさだけの変化などと言えば判りやすいだろう。

 そうした魔物は体の構造が殆ど変化せず、弱点も同じ部位にある事が多かったのだ。


 必ず見つけた魔物は一撃で殺す事を目指していたソロだけあって少し位強くなっただけの敵など全く恐れるに足りなかった。


 それにだ、通常のパーティーは通路の広さなどから四人から六人の編成で挑んでいるのだけれども、それは経験値的な物、所謂格を上げるための要素も等分されているに等しかった。

 ソロは常に独りだから気づいていないけれども、単独攻略によってロスの無い吸収が行われていた分軽く二倍近い量の要素を独り占め出来ていたのだ。

 しかも見敵必殺であるから戦闘階数は先行冒険者の比ではない。

 一匹でも逃さないという彼の信条がとんでもない結果を生み出していた。


 冒険者の中でも最多のスキルホルダーで、見敵必殺の為に開発したと言っても過言ではない検索魔法に引っ掛かった敵と遭遇したのはソロだからこそと言える。


「あ、なんだテメエ、独りで挑む馬鹿がいるとは思えないが……」


 見るからに異形。

 頭に角の生えた人類は流石に地球上には存在していない。

 いや、万が一にも存在していても此処には居ないだろう。

 故に敵である。


「死ね」


 余裕を持った舐めた態度、それに見合うだけの斬撃がソロを襲った。

 喋る敵は初の相手、もしかすれば何か神を自称する諸悪の根源に近しいのかも知れないと考えながらも、敵と認識して構えていたのが良かったのだろう。

 なんとか驚異的な踏み込みからの袈裟懸けに振り下ろされた剣を横っ飛びに躱すことが出来た。


「チッ、雑魚が一撃で死ねば苦しまないものを」

「いきなりの攻撃とはずいぶん自称神の眷属とやらは礼儀正しいようだな、いや眷属ですらないのかな」

「あん? 何、人間風情が対等だと思ってんだ。

 蟻にテメエは礼儀を尽くすのか、違うだろう。

 それと同じだけの事だ、人間如きに払う礼儀は持ち合わせていないだけだ」


 随分と傲慢で不遜としか言いようのない敵だ。


「まあ、確かに俺は眷属の中では位階も九五一位と低いがな、それでも人間に舐められていいような存在じゃあねえんだよ」

「ほう」


 頭も悪いのかベラベラと喋る、いや殺せるという自信があるからこそこうして情報を何も考えずに喋っているのかも知れない。


「俺を倒したければ人間なら一〇〇人は連れてこい、残念ながらお前にその機会は訪れないがっなっ」


 喋り終わると同時に突き、それも連撃。

 体の中心線にある急所を狙っている。

 二撃目までは躱し、最後の攻撃を刀で往なして相手の懐に入り込む。

 少なくとも今までに対峙した鬼や不死者、鎧系の魔物達はこれで隙が生まれている。

 伸びきった体勢であり一撃を入れるには最適だと思われた。

 刀では無く魔力によって強化された体から繰り出す掌底を突き出す。


「チッ」


 舌打ちと共に合わせて来た左手で作り出した爆発の魔法。

 戦闘系の鬼などでは使って来ない魔法という技術。

 此方も障壁を展開して体を左下へと放り出すようにして爆発の衝撃を逃す。


 殆ど相打ち、いや人外と人の違いを考慮しても――否人外の域に達したソロとであれば、ソロの方がダメージは低い。


 衝撃を綺麗に障壁で分散させたうえに自らも爆発に逆らわない方向へ逃れている。

 戦士系の鬼の上位種と魔法を使うウィスプやリッチ系の魔物を同時に相手にするだけの事だとソロは相手の力量を図る。


「運のいい奴め」

「……」


 見敵必殺で積み重ねてきた戦闘経験は侵攻側である筈の神冦の眷属達のそれを遥かに上回っていた。


 自分の得意不得意は関係なく常に殺し続ける修行を積んできた男。

 片や常に殺す相手は格下の人間でしかなかった眷属。

 どちらの経験が有利かなど語るまでも無いだろう。


 しかもソロは戦闘経験だけでなくその修行の成果とも言える肉体スペックを誇り、更には魔法にまで研鑽を積む復讐の為だけに生きて来た人修羅。


 それを運が良いなどと評した時点で勝負は決まった。

 この時点で相手の力量を見抜いていなかった事をソロは理解した。

 侮られているならば好都合。


 敢て判りやすい突きの姿勢から繰り出す攻撃。

 ただそれだけと見せかけたいるのに相手は気が付いていない。

 来る攻撃が判れば避けれるだけでなく更に反撃までも可能だとすら思っていた。


 だが普通に魔物を一人で狩り続ける程の狂人が普通の攻撃を繰り出す訳が無い。

 ソロを知る者ならば絶対にしない。

 もう少しだけでも人間を知る者ならば油断しない。

 強者ならば通用しないかも知れない攻撃。


 剣の柄に仕込まれた術式が突然起動、爆発による推進力を得た刀はパイルバンカーの如き一撃を眷属の頭部へと繰り出した。


「ウケ?」

「喜べよ最初の一人目だ……」


 言葉にならない声だけを発しただけでも上出来と言えるかもしれない幕切れだった。

 いやもしかすればただ単なる突き入れられた刀によって引き起こされた肉体の反応だけだったのかもしれない。


 仮に捕まえれたとしても情報が引き出せるとは思えない相手として処理したが、これがソロの本格的な闘争の開始を告げる出来事になったのは間違いなかった。



 敵対勢力の眷属を確認と撃破。

 世界を震撼させた出来事でさえソロにとっては仇である神に対する一矢になり得ない。

 高が九〇〇番台の格でしかなかったのだから。

 更に己を磨き続ける。

 神に一矢報いる為だけに。

 例え人からその身が、魂が逸脱してしまおうとも。

 神殺しを為すがためにソロは今日もダンジョンへと向かう。

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