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期間限定お姫様  作者: 弓原もい
第八章
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歴史が変わる時(モモ)

 私達はすぐにグニエラ様のところに向かい、リーゼは同じ説明を繰り返した。グニエラ様はそれを黙って聞いた。

 説明が終わるとグニエラ様は慈しむような表情をリーゼに向け、


「大変だったな……」


 と、労いの言葉をかけた。


「洞窟の中で記憶をどうやって取り戻したんだ?」


「正確には思い出したわけではないんです。直接電流を流し込まれていますから」


「そうだったのか?」


 パステト様も驚きの声を挙げた。


「えぇ。洞窟というのは大地を感じやすい場所、精霊の力を引き出しやすい場所なの。だから、昔から私はそこで修行していた。その場所に戻って、私はまず精霊の力を取り戻した。そして、風の精霊に私の記憶を教えてもらったの」


 不思議な話だ。そんなことが洞窟で行われていたとは。


「精霊の力を得るのは大変だっただろう」


「はい。風の精霊とは割とすぐに仲良くなれましたが、他の精霊とは時間がかかりました。未だに完璧に力を引き出せているわけではないですし」


「そうか……」


 グニエラ様はじっとリーゼを見つめた。何を考えているのだろうか。


「リーゼ。クカの妃という立場、建前や世間体。そういうのをすべて置いて素直な気持ちを聞かせて欲しい」


「……はい」


 リーゼは姿勢を正した。


「一族を追いつめ逃げざるを得なくさせ、リーゼの父上の命を奪ったフュースト。そのフューストをリーゼはどうしたい?」


 リーゼは無言でグニエラ様を見つめた。恨んでいるのは当たり前だ。一族は逃げの道を選んだが、リーゼは一体どうしたいのだろうか。リーゼは口を開いた。


「もちろん恨みや憎しみの気持ちはあります。でも……」


 拳をぎゅっと握った。


「お父様や一族は対抗したり力を使って自ら攻撃することはありませんでした。その気持ちは私も同じなのです。私達の力はあまりに大きい。でも、それは人を傷つけるものではなく、人を豊かにするために使う力です。精霊の力を借りるのは人を守る時であるべきです」


 リーゼは一族の想いを背負っている。それは気高く美しいものだった。


「私だってフューストに殺されたくはありません。でも、殺すべきでもありません。ただ平和に生きたい。それだけです」


 あんなに酷いことをされて尚恨みの気持ちに屈しない。リーゼはなんと素晴らしい人間なのだろうか。その神々しさに私は心からの尊敬の念を抱いた。グニエラ様も表情を少し和らげた。


「私にそれを叶える考えがある」


 リーゼは驚きと期待の表情でグニエラ様を見た。


「まずはこの事実をサシノールとケイエに伝える。そして、もしフューストがリーゼを殺そうとしたりクカに攻撃をしかけてきた時には協力してもらえるよう要請する」


 こくり、と頷いた。


「そして、その確約が取れ次第、フューストと直接の交渉に入る」


「!?」


 フューストと直接対話をする。それは今まで行われて来なかったことだ。


「目指すのはお互いに攻撃をしないという安全保障条約の締結。それに伴いフューストとの定期的な対話の場を設けること。最低条件はリーゼの身の安全の確保。もしリーゼを傷つけるようなら三国が黙っていない、と伝えること」


 グニエラ王はパステト様に目を向け、


「それが私の最後の仕事になるな」


 と、告げた。


「では……」


「あぁ、婚礼の後、正式にクカの国王をパステトに譲ろう。期間は短いが、いいな?」


「……はい、叔父上。……いえ、グニエラ王」


 パステト様は剣を立て、グニエラ様に跪いた。


「今まで本当にありがとうございました。これからは私がクカを守り、導きます」


 グニエラ様は頷いて立ち上がった。


「兄上から図らずも譲り受けたこの座、パステトに返そう。お前なら必ずクカを良き道へと進めることができる。私は遠くから見守ろう」


「……ありがとうございます」


 その光景に私は思わず涙ぐんだ。パステト様は本当にご立派になられた。その姿はもう王と呼べる程のものだ。そして、私達はその新国王について支えていく。改めてその重みを感じた。


「まぁまだしばらく時間はある。私も最後の仕事を何としてでもやり遂げてみせよう」


「……はい」


 パステト様の声にも熱いものを感じた。ここから歴史が変わる。私はその歴史の真ん中にいる。そう思った。

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