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期間限定お姫様  作者: 弓原もい
第五章
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重なる姿は(パステト)

 俺は部屋で支度を終え、落ち着かないまま部屋をうろうろとしていた。クカの祭りは小さい頃から何度も行っているが女性を連れて歩くのは初めてだ。一週間位前から何度もどういう順番で祭りを周るか考えてきた。まずはメイン通りで屋台を見る。疲れたら食べ物を買って休憩。クカの端まで行って、帰りは別の道を通って返ってくる。暗くなるまでに城の近くまで戻ってきてある場所に連れて行く。それが俺が考えた今日のプランだ。


 部屋でずっとうろうろしているのもおかしい。俺は椅子に座った。リーゼは最近ずっと忙しくしている。クカのために働いてくれて正直とても嬉しいし助かってもいるのだが、さすがに頑張りすぎだ。あれから一度もベランダに出てきてもくれない。


 真っ直ぐなリーゼのことだ。周りに本当のことを告げずに期間限定でクカの姫になったことに罪悪感があり、それを少しでも晴らすために必死でもがいているんだと思う。それもすべてわかっていながら自分の元から離さない俺が一番たちが悪い。でも、俺がフューストからリーゼを守りたいとそう思ってしまう。


 コンコン


 部屋のドアがノックされ外からリーゼの、


「パステト、準備できたよ」


 と、いう声が聞こえてきた。ふぅ、と息を吐いて気合いを入れてから、


「今行く」


 と、答えてドアを開けた。ドアの前には普段と雰囲気の違う水色のワンピースを着て、顔の横の髪の毛を上げて花の髪飾りをつけたリーゼが立っていた。あまりの可愛さに俺は絶句して立ち尽くしてしまった。


「あ…あの……お待たせ……」


 何も言葉を発しない俺を見てリーゼはもじもじしている。その後ろで、


「どうだ!かわいいでしょ!」


 と、言わんばかりの顔をしたモモが立っていて俺は我に返った。そして頭を掻いて、


「行くか」


 と、辛うじて言ってリーゼと部屋を後にして街へ向かった。


----------------------


 しばらくぶりにリーゼと二人きりだ。いつもと格好が違うし余計に意識してしまう。何を話したらいいかと頭をぐるぐるさせていると、


「パステトは毎年お祭りに行っているの?」


 と、リーゼから話題を振ってくれた。


「あぁ、まぁ見回りも兼ねて、だけどな。クグリが王になる前は毎年遊びに来ていたから二人で遊んだりもしていたが、最近は来られないからな。だから、俺もこうやって純粋に祭りを楽しもうとしているのは久しぶりだよ」


「そうなんだ……。あ、もう声が聞こえてきた!」


 城を出てまだ街が見えないところからもう祭りの声が聞こえてきた。クカは商業の街。屋台の活気はものすごくて国外からの観光客は多く来るし、商人も買い付けや品定めでやってきたりする。祭りでありながらクカの商人にとってはチャンスでもあるのだ。


「わっ……!」


 街が見えるとリーゼは声を上げた。普段と違い屋台や街は色とりどりに装飾されていてとても華やかだ。メインの通りにはたくさんの人が溢れている。


「すごい……!」


 リーゼは興奮気味に辺りをキョロキョロ見回している。


「パステト様!リーゼ様!」


 一番手前の商人が俺たちに気がついて声をかけてきた。周りもその声で俺たちに気がつき、たちまち囲まれてしまう。


「パステト様!屋台見て行ってくださいよ!今年は気合い入ってるよ~!」


「お妃様お綺麗……!」


「パステト様も立派になられて」


「リーゼ様!ご成婚記念で安くなってるからどんどん買って行ってください!」


 周りの人に一気に話しかけられてリーゼはあたふたとしている。


「皆、今日は俺たちはプライベートで来ているから俺たちに構わず楽しんでくれ」


 俺がそう声を上げると、


「そうですよね。クカに来て初めての祭りですもんね。邪魔しちゃ悪い」


「失礼しました!」


「お二人で楽しんでくださいね!」


「後で店寄ってください!」


 と、口々に言って輪は解かれた。


「ふー、大丈夫か?」


「う、うん。ちょっとびっくりしたけど、楽しいね」


 リーゼは笑ってくれたので俺は安心した。


「さ、行くか。見たい屋台があれば言えよ」


「うん、わかった」


 そうして俺たちは人の流れに乗ってメイン通りを歩き始めた。それでもやはり人は多い。歩いていてもすぐに人と触れ合ってしまうくらいだ。俺は少し悩んでから、


「ほら、はぐれないように」


 と、言ってリーゼの手を取った。


「あ…うん」


 リーゼも遠慮がちに握り返してくれる。周りの人たちは仲が良さそうだと思うだろうが、やってるこっちはドキドキだ。男のくせに情けない。そう思いながらもやっぱり触れ合えるのは嬉しい。混み合った祭りに俺は感謝するのだった。


 そのままメイン通りの屋台を見て回る。普段より加工品が多く見ていて楽しい。リーゼも興味深そうに眺めては気になったものがあれば店主と会話を交わし、ここでも知識を得ているようだった。今日くらい仕事を忘れてのんびりしてほしいと思うが、好奇心旺盛なリーゼなので難しいだろう。それに、楽しそうにしている姿を見ると、まぁいいかと思ってしまう。


 どのくらい時間をかけて見ただろうか。これでもセーブしたのだろうが、興味のある物は都度購入していたので、俺の手は袋でいっぱいになっていた。屋台で食べ物を買って何処かで座って休もうかとも思ったが、休むよりもリーゼは屋台を見ていたそうだったので、買い食いをしながら見て歩いた。俺たちはクカの端まで辿り着いた。


「ここで屋台は終わりかな?」


「メイン通りのはな。路地にも小さな屋台が出ているぞ」


「そっちも見たいな……!」


 リーゼは目を輝かせている。こうしてクカを気に入って楽しんでくれている姿を見るのは王子としても嬉しいことだった。


「じゃあそっちも見るか」


「うんっ!あ、でもさすがに買いすぎかな……」


 リーゼは俺が持つ荷物を見て照れたように笑った。


「いいさ。まだ持てるよ」


「パステトに持ってもらっちゃってごめんね」


「いや、これが男の役目だろう」


 思えば母様も昔たくさん買い物をしては父上が両手いっぱいに荷物を持って帰ってきたっけ。母様と買い物に行くと大変だ、とボヤいていたが、表情は笑顔だった理由は今になってわかる気がする。


「ふふ、ありがとう」


 リーゼもにこやかに笑ってくれた。今の俺を見たら父上と母様は喜んでくれるだろうか。


「じゃあ折り返すか。この辺りの路地を行くか」


「うんっ!」


 もうさほど混んでいないだろうとは思ったが、俺はリーゼの手をぎゅっと握り直して路地へと進んで行った。

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