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期間限定お姫様  作者: 弓原もい
第三章
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素直(クグリ)

 朝。僕はパステトとの手合わせのためにいつもより早く起き上がった。昨夜はパステトとの会話のせいかミュマを部屋に呼びたい、と思ったが疲れているだろうと思いやめて一人で寝た。ミュマは安心しただろうか。それとも寂しいと思ってくれたのだろうか。

 訓練所に行くと既にパステトがいた。


「おはよう。早いね」


 僕が声をかけると、


「あぁ、おはよう」


 と、パステトは僕の顔を見ずに答えた。昨夜何かあったのだろうか。僕の顔を見れない程に。僕はニヤッと笑って、聞きたい欲求を抑え手合わせの準備を始めた。何があったのかは手合わせをすればある程度わかるだろう、と思った。


----------------------


 手合わせを終え僕たちは朝食に間に合うように片付けを始めた。僕は手合わせで感じたパステトの昨夜について素直に伝えることにする。


「昨夜はあんまり眠れなかったみたいだね。意識して眠れなかった?」


「うるせぇな」


 パステトは照れたようで僕の顔をまったく見ない。この姿をリーゼが見たらどう思うだろう、とくすっと笑った。今日の手合わせは珍しく僕の方が勝ちが多かった。パステトは精彩を欠きいつもより反応が遅かった。そんなパステトを見たのは初めてのことでどのくらいリーゼを想っているのか伝わってくるようだった。

 一緒に寝た。でも何もなかった。意識して眠れなかった。そんなところだろうか。答え合わせをするとパステトが怒りそうなので、やめておこうと思った。


「今日だけど」


 パステトは先に片付けを終え僕に向き直って口を開いた。


「城下に出ないか?無理か?」


「うーん、大丈夫だと思うよ。どこか行きたいところでも?」


「どこでもいい。あいつにサシノールの城下を見せてやりたい」


 僕は思わずふふっと笑った。


「…なんだよ」


「いや?」


 バツの悪そうなパステトをこれ以上いじめないでおいておく。


「じゃあ城下を見てからサシノール公園に行くかい?今は花が一番見頃な季節だよ」


「あぁ…そうだな」


 パステトは納得したように頷いた。僕も片付けを終えて立ち上がると、


「クグリ」


 と、パステトが僕を呼び止めた。


「お前、本当にたまには素直になった方がいいぞ。ちゃんと自分の気持ちを口にするべきだ」


「なんだよ、急に?」


「いや、友としての助言だ」


 パステトの顔は真剣だ。


「伝えたらどう思われるか、とか考えるな。とりあえず当たり前のことでも伝えた方がいい」


「その言葉、そっくりそのまま君にお返ししたいよ」


 僕はふふっと笑ってから、


「ありがとう、パステト。そうするよ」


 と、お礼を言った。


 朝食はまた4人で取った。リーゼはとても元気そうに見えたがミュマはいつものように控えめな印象的だった。でも、僕が今日の日程を伝えるとリーゼもミュマもとても嬉しそうにした。そういえばミュマと城下に出るなんて初めてのことかもしれない。

 僕たちは最小限の臣下だけを連れて街へ出た。サシノール公園は申し訳ないが数時間人払いをしてもらった。観光スポットではあるが今日は国民は仕事をしているのでさほど影響はでないだろうという判断だ。

 まずは城下へ。僕たちにとっては何も変わり映えのしない普通の城下だ。クカと違い活気のある市場はなく代わりにたくさんの住居と少し離れたところに武器を製造する工房がたくさんある。サシノールの経済はそうした武器の売り上げが多くを占めている。代わりに食料などは国だけでは賄えずクカ国からの輸入にも頼っているような状況だ。

 そんな何もない城下をリーゼはさも珍しそうに楽しそうに巡った。そんなリーゼを眩しそうに見つめるパステトを見ているとこっちまでくすぐったい気持ちになるのだった。

 住居区と工房地区を歩いて回り僕たちはサシノール公園へ向かった。レンガや煙ばかりの城下とは違い少し高台にあって緑が多く花も美しい。公園へ入るとリーゼは、


「わぁ…」


 と、声を挙げた。色とりどりの花が見える。ミュマをチラッと見ると声には出さないがとても嬉しそうな顔をしていた。花を好きなのは知っているので連れてくることができてよかった、と思った。


「それじゃあ私たち2人で回りますので!また後で!」


 突然リーゼは僕たちにそう言うとパステトの腕を取ってぐんぐんと進んで行ってしまった。パステトはリーゼに腕を取られたことに動揺したのか耳まで赤くなっていて、その後ろ姿を見てふふっとまた笑ってしまった。リーゼのあの慣れない無理矢理さを見ると2人きりになりたい、というよりは僕たちを2人きりにさせたかったのだろう、と思った。パステトと同じでリーゼも優しいんだと感じる。

 朝のパステトの言葉を思い出した。

「お前、本当にたまには素直になった方がいいぞ。ちゃんと自分の気持ちを口にするべきだ」

 今ミュマとちゃんと話をしろ、ということなのだろう。僕たちはしばらくそのまま立ち尽くしてからミュマを見て、


「じゃあ行こうか」


 と、声をかけた。ミュマは少し顔を赤らめて、


「…はい」


 と、応じてくれた。

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