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期間限定お姫様  作者: 弓原もい
第三章
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友を想い(クグリ)

「クグリ様お疲れ様でした。朝食は既に準備できております」


「ありがとう」


 朝。僕は久しぶりに時間を作って朝から剣術の稽古をした。今日はパステトが来るからしっかり感覚を取り戻しておきたかった。

 昔からパステトとは剣の手合わせをしてきた。パステトの方がパワーがあり力では敵わないが僕は代わりにテクニックを身につけた。勝敗率ではパステトに軍配が上がるがそれでもパステトに負けをつけられるのは世の中に数人しかいないだろう。僕はサシノールのため、そしてパステトと対等な友でいるために今でも時間を作っては稽古を続けている。

 食堂に入ると既にミュマが席についていた。


「待たせたかい?」


「いえ。朝からお疲れ様でした」


 ミュマはいつものように控えめに微笑んだ。ミュマとはできるだけ食事を共にするようにしているのだが、それでも王というのは忙しいものでなかなか時間が作れない。なので、せめて朝食だけは必ず一緒に取ることにしている。パステトがグニエラ王とそうしていると聞いたことがあったので真似ただけに過ぎないのだが。


「食べよう」


 いつものように僕が声をかけると、


「いただきます」


 と、ミュマも言って食べ始めた。


「今日はパステト達が来るね」


「そうですね…」


 心なしかミュマは元気のないように見えた。


「気が重いかい?」


 思ったことをそのまま口にすると、


「いえ、そんなことは…」


 と、少し慌てた様子で否定した。ミュマが僕の妃として城に来て一年になる。妃はサシノールの貴族の娘を募り最終的に僕が面接をして決めた。臣下達はミュマではない別の娘を勧めたが僕はそれを押し切ってミュマを妃に迎えた。面接の時ぐいぐいと主張してくる女性が多かった中、ミュマは控えめで好感が持てた。それに、面接で見せた悲しそうな瞳が忘れられなかった。

 ミュマは一年経つ今も控えめで僕にもまだ気を許しているように見えない。僕はなるべくミュマに気を配っているつもりだが自分の気持ちを伝えてくれないミュマの本心を知ることは難しく、なかなか距離が縮まらない。子供も出来ないので臣下からはもう一人妃を、と言われているがそれを僕は頑なに拒否している。僕は僕なりにミュマを愛しているのだ。ただ、それをどうしたら伝わるのか、どうしたら距離が縮まるのかわからず今に至っている。僕も恋愛に関しては不器用なのだろう。

 僕はミュマを見ながら、


「ミュマには気を遣わせてしまうからね。すまない」


 と、気遣いの言葉をかけた。


「と…とんでもございません」


 ミュマは気を軽くするどころか申し訳なさそうに俯いてしまった。


「僕としてはミュマとリーゼが仲良くなってくれるといいな、と思っているよ。既に面識もあるし僕の大切な友の妃だからね。まぁもちろん無理にとは言わないが」


「クグリ様…」


 ミュマは少し笑顔を見せて、


「はい」


 と、返事をした。


「それにしてもパステトが…ね。今日は楽しみだな」


 僕は独り言のように呟く。


「ずっと独り身でいらっしゃいましたものね」


 ミュマが反応してくれた。


「僕も人のこと言えないけどパステトはもっと恋愛に関して奥手そうだからな。大丈夫かな」


 僕の言葉に何故かミュマは驚いた顔をして顔を赤らめた。


「そうだ、ミュマ。パステト達の部屋のことだが……」


 僕は不思議に思いながらもミュマにあるお願いをした。後でパステトに怒られるかもしれないなぁ、と思いながら。

 朝食を終えると僕は定例である臣下達からのサシノール情勢についての報告を受け、民からの嘆願書に目を通した。落ち着いて安定してはいるがやはり至らぬところも多々ある。それをどうしていくか臣下達と相談しているとパステトが到着したとの報告を受けた。


「もうそんな時間か」


 僕は仕事を切り上げ迎えに行くためにロビーへ向かった。そこにはミュマが正装をして既に待ち構えていて、僕の顔を見ると少し安心したような表情を見せた。程なくしてパステトを先頭にクカの者達が城に入ってきた。


「よう、クグリ!わざわざ悪いな」


 パステトが手を挙げて近づいてくる。


「久しぶり…でもないね。最近会ったばかりな気がするよ」


 僕はそう言って出迎えた。パステトの少し後ろからは身なりの整ったリーゼが歩いてきて、僕たちを見ると少し怯えたような顔をしたがすぐに頭を下げた。リーゼにとってサシノールはあまりいい印象がないのだろう。それをなるべく払拭できるように、僕はできるだけ優しい笑顔を浮かべた。


「さぁクグリ!やるか!」


 僕の前まで来るとパステトはキラキラ目を輝かせながら言った。


「何言ってるんだよ。今日は別の用事で来たんだろう。リーゼだって疲れているはずだ。まずは昼食を食べよう」


 僕はパステトを諌めて食堂へと案内した。パステトは少し不満そうな顔をしたが、リーゼを想ってか何も口にはしなかった。パステトは本当に剣術が好きなんだなぁと改めて感じる。

 食堂に4人で座るとすぐに昼食が出てきた。来客用にいつもより少し豪華なのはミュマが指示をしてくれたのだろうか。リーゼも笑顔を見せて昼食を食べ始めた。


「クグリ、食べたらすぐにやるからな」


 パステトが釘を刺してきた。僕も元よりそのつもりだったので、


「はいはい」


 と、返事をする。こういう時のパステトは子供のようだ。


「リーゼはクカの国には慣れたかい?」


「あ…はい。皆さん優しい人たちばかりなので、だいぶ……」


 リーゼは笑顔を見せた。サシノールで初めて会った時よりリラックスした表情をしているので、その言葉に偽りはないのだろうと思う。


「パステトは優しくしてくれる?」


「お、おい…っ」


 僕の言葉にパステトが少し動揺した声を出すが、僕は気にせずリーゼに微笑みかけた。


「あ、はい!大丈夫です」


 リーゼは普通の表情で笑顔を見せたが、パステトは少し顔を赤くして居心地の悪そうな顔をする。やっぱりパステトはまだまだリーゼに対して照れがあるのだと確信が持てた。ただ、そんなパステトを見るのが面白くて僕はついさらにからかってしまう。


「あ、部屋だけど2人同じ部屋を用意したから」


「…はぁ!?」


 パステトは大きな声を挙げてさらに顔を赤くする。


「問題ないだろう?婚約したのだから」


「ぐっ…クグリ……」


 パステトは僕を睨んだ。想像通りの反応。僕は楽しくてさらに笑ってしまった。こんなパステトは見たことがない。リーゼは少し困惑した顔を見せたものの、パステト程の反応は見せなかった。サシノールで2人がもっと仲良くなれたらいいんだけどな、と思った。

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