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期間限定お姫様  作者: 弓原もい
第二章
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お披露目(リーゼ)

 いよいよ国民へのお披露目の日がやってきた。昨夜は緊張であまり眠ることができなかった。でも、今日はしっかりやらなければ。


「もう。昨日あんまり眠れなかったでしょ?」


 化粧をしてくれるモモがボヤく。


「目の下にクマができてるし化粧ノリも悪い。わざわざ夜に安眠効果のある紅茶を持って行ってあげたのに…」


「ごめんね」


「いいわよ。それをなんとかするのが私の仕事だから」


 ボヤきながらもモモは手際よく化粧を進めていく。モモは気が利いて仕事も早い。そうやって自分の仕事を全うする姿を見ていると私も何かしないと…と気持ちが焦る。グニエラ王は国の顔となり政治や外交をパステトは剣で国を守る。イヴァルはそんなパステトの頭脳となり働く。城を兵士が守りそんな兵士の世話をするメイド達。みんなそれぞれ自分の役割があってそれで国を支えている。私には何ができるのだろうか。


「…できた」


 モモは満足そうに微笑むとケープを外した。鏡の中の私はきちんと化粧をされて白いドレスは本当に綺麗だ。私は自分が自分じゃないようなそんな不思議な気持ちになるくらいだった。


「ふふふ、パステト様もきっと喜ぶわ」


「パステトが?」


「当たり前じゃない。自分の愛する妃がこんなに綺麗なんだから」


 「愛する」…胸がチクリと痛む。私達は期間限定の婚約者だ。パステトも私を愛しているわけではない。やっぱりみんなを騙していることに心が痛んだ。


「そろそろ時間です」


 兵士が外から声をかけてきた。


「よし、行くわよ」


 モモにリードされて私はゆっくりと部屋に出た。ドレスは綺麗だが動きにくい。外へ出ると既にパステトとグニエラ王が待っていた。


「お待たせいたしました」


 パステトを見るとパステトも普段の鎧よりも煌びやかな鎧をまとい赤いマントを付けていた。その姿を見るとパステトは王子なんだと当たり前のことを気づかされる。


「かっこいいね」


 私はそう言うとパステトに向けて笑った。何故か私を見て固まっていたパステトは私の言葉を聞いて顔を赤くして目を逸らした。


「…行くぞ」


 パステトはそのまま振り返って先に歩いて行こうとした。私、何か悪いこと言ったかな───


「ちょっとパステト様」


 そんなパステトをモモが呼び止めた。


「ちゃんとリーゼ様を支えて歩いてください。ドレスは歩きにくいんですから、ほら」


 そう言って自分の腕に絡んでいた私の手を取ってパステトの方へ向けた。パステトは顔を少し赤らめたまま、


「あぁ」


 と、言ってゆっくりと私の手を取った。


「行くぞ」


 またパステトはそう言って私の少し前を今度はゆっくり歩いてくれた。私はパステトの腕に手を絡め慎重についていった。そんな様子をグニエラ王やモモは温かく見ていてくれる。


「はじめに私が話す。その後にパステト、最後にリーゼだ」


 歩きながらグニエラ王はそう声をかけてくれる。さすがは王だ。慣れているのか落ち着いている。私は歩くごとに緊張が増してついパステトの腕をギュッと掴んだ。


「大丈夫だ。クカの民は優しいから」


 パステトは前を向いたままいつもの言葉をかけてくれる。


「…うん」


 それを聞いて少し安心して私は背筋を伸ばした。国民の前に出るときに使われるバルコニーの入り口の前に来た。


「出るぞ」


 グニエラ王は声をかけると外へと続くドアを開けた。私とパステトはグニエラ王の後に続いて外へ出た。

 わぁっと大きな歓声が上がる。ものすごい熱量を感じる。前を見ると本当にたくさんの国民が集まっていてこちらを見て旗などを振っていた。

 グニエラ王とパステトは軽く手を挙げてそれに応じる。私も軽く手を振って国民に応えた。歓声が落ち着くのを待ってグニエラ王が声を挙げた。


「誇り高きクカの民よ。今日は集まってくれて感謝をする」


 よく通る威厳のある声だ。私は側で聞いていて思わず震えた。


「今日は皆に私たちに新たな家族を紹介したいと思う」


 そして、一歩引いてパステトに譲った。パステトは前に出て、


「この度、私パステト・クカマドールはここにいるリーゼを将来の妃としてこのクカに迎えることとなった」


 と、言った。いつもより通る声でやはり強くて威厳がある。

 国民はパステトの言葉にまた沸いた。少し落ち着くのを待って言葉を続けた。


「まだ至らぬ点もあるかと思うが、皆でリーゼを守り共に歩んでいこう!」


 パステトの言葉に国民は最も盛り上がりを見せた。パステトは手を挙げてそれに応じ一歩下がって私を見た。


「リーゼ」


 少し心配そうな顔でパステトは促す。私は大丈夫、という意味を込めて頷いて一歩前に出た。一歩前に出るだけでこんなに景色が違うなんて。グニエラ王とパステトを後ろから見守っていたのとは違う景色がそこにあった。全国民の目が私に注がれるのを感じる。ざわざわとしていたのが、次第に静まり返っていく。

 私は不思議な気持ちになっていた。あんなに緊張していたのに今は妙に落ち着いている。国民はあんなに遠くにいるのにすぐ側にいるかのように感じる。しーんとした空気を切り裂くように私は静かに声を挙げた。


「皆様初めまして。私はリーゼと申します」


 国民の顔を見る。ただ静かに私の次の言葉を待ってくれている。


「私はまだクカの国に来たばかりで右も左もわかりません。ですが……」


 少し間を開けた。


「この国はとてもいい国だと、豊かで優しく誇り高き国だとすぐにわかりました。私もこの国が大好きです」


 拍手が沸き起こる。私はそれが収まるのを待ってまた言葉を続けた。


「私はグニエラ王やパステト王子を支え皆さんに寄り添う姫でありたいと考えています。まだまだ未熟ではありますが、これからも共にこのクカ国をより良き国にしていくために進んでまいりましょう!よろしくお願いいたします」


 私は深々と頭を下げた。一瞬の静寂の後、どっと歓声が沸いた。頭を上げる、嬉しそうな国民の顔が目に入ってきた。よかった。私の想いは伝わった。手を挙げて国民の歓声に応えてから私は一歩下がった。チラッとパステトを見ると少し驚いた顔をして私を見ていた。

でも、それは一瞬のことでまたパステトは前に出ると、


「今日は私とリーゼの為に集まってくれてありがとう。これにて終了とする」


 と、声をかけた。私達は最後に手を挙げて国民に別れを告げてからゆっくりと室内へ戻った。ドアを閉めてもまだ国民の歓声が聞こえてくる。それを聞いて私は安心してフラフラと力が抜けた。


「おい、大丈夫か?」


 慌ててパステトが私を支えてくれる。


「うん、ありがとう。なんだか気が抜けちゃって」


 へへへ、と私は力なく笑った。


「リーゼ、とてもよかったぞ」


 グニエラ王は私にそう言って笑いかけてくれた。


「ありがとうございます、叔父上様」


 本当に無事に終わってよかった───!

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