リンゴ農家は絶望しない、小説家もまた
来年、60歳になります。
ついこないだ30歳だったような気がするのに。
今年も小説講座を受講しました。六年目・五回目です。今回は、新しい受講生が増えてとても刺激的でした。
先生が「何でも質問して」とおっしゃるので、「あの、人生相談というか」とわたしが手を上げました。
「自分の年を考えると、あと何年書けるか何作書けるか、とても不安になることがあります」と。
わたしは蛇年。来年2025年で還暦となります。
それで、アマチュアでのろのろと小説を書いているのです。
書籍化してプロデビューしたい、という気持ちはあまりなくて……と、こう書くとほんと「負け犬の遠吠え」としか思われないほど、長く書いているのですが。
周囲がどんどんプロデビューするなかで、いつまでもぱっとしない状況の中でいるヒトと思われているかもしれません(くだらいほど、ちいさなプライドが傷つく)。
先生は、「何歳からでも書く人はいるし、六十過ぎてからでも公募で受賞する人もいるから、気にしなくていいと思うよ」と。それに先生は数年前に大病をされたのです。
「ご病気になられた時、どう思いましたか。あれを書かないと、とか思いませんでしたか」と続けて質問しました。
「そんなふうには思わなかった。注文された順番に仕事をこなして、それでも書きたいと思うのは一気に全部書いて出版社に売りに行くんだけどね」
「なるようにしかならないよ」と。
自分はいくつまで書けるだろう。なっとくいく作品はいくつ書けるだろう。
アガサ・クリスティーのように80過ぎても書けるだろうか。
あるとき、テレビを見ていたら地元の番組でリンゴ農家さんへインタビューをしていました。そのかたは、40歳くらいでした。
「リンゴが採れるは年に一回でしょう。だから、自分がリンゴの出来を見られるのは、あと30回か40回かでしょう」
たしかに、年に一回しか結果を見られない。彼は、リンゴの栽培だけではなく品種改良もしています。一度のチャレンジの結果を見るためには一年かかるのです。
わたしは、その有限である回数にドキリとしました。いつか終わることが悔しいと思うのではないか。
しかし、彼は違いました。
「30回・40回見られるのは、楽しみですね」
明るく、あっけらかんと答えたのでした。
いつか終わることには変わりないけれど、時間の経過さえも楽しみといえる彼はすごいなと。
わたしはどうだろう。いつか書けなくなる時のことを考え怯えています。
この先、私生活が急変することもあると思います。
自分自身の健康を損なうことがあるかもしれません。
そんなわたしは、忘れずにいようと思います。
なるようにしかならない、という先生の言葉も、楽しみですねというリンゴ農家の彼の言葉も。
健康に気を付けて、細く長く書きたいと思います。
皆様も、お体には気を付けてくださいね。




