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あしたの糧  作者: たびー
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番外編 最高で最低の2016年のこと

しんどい時には、どうしたらいいんだろう。


 2016年の夏、もうダメだと思った。

 夏のホラー企画で、書き始めたものがまったく進まなくなったのだ。いつも通りに、書けると思った。たいして長いものではないし、粗筋もおおむね決まっているし。ふだんの書き方となんら変わりがなかった。だから、書けると思った。けれど、書けなかった。筆が止まってしまった(現在も未完の『雨の繭玉』)。


 2016年の始め、わたしは『エトワール』を書いていた。当初はなろうの公式イベント冬の童話向けに書いていたのだが、こちらも締め切りには間に合わなかった。

 ただ、全力で書ききったと思う。たくさんのかたに読んでいただけたし、過分なほどに感想やレビューなどもいただいた。

 ちなみに書き終わった翌日ぶっ倒れ、心配した旦那がウナギのかば焼き弁当を買ってきてくれた。

 それはともかく、締め切り間際だった『ネット小説大賞』に何の気負いもなくエントリした。

 ぼーっとしていたら、一次を通過してしまった。ああ、うれしいなあ、程度にしか思わなかった(罰当たり)。

 次はないだろう、とぼんやりしていたら、ピックアップで紹介されて、なぜか二次まで通過してしまった。

 自分でも思う。


 あれは、まぐれだったのでは、と。


 ま、最終では落ちた。当初は、気が抜けただけだったが、ジワジワと落ち込み始めた。

 ちょうど、そのあたりからツイッタ経由で、N氏というユーザーに軽く粘着されてしまった。N氏はわたしの作品三本に感想を寄せてくれたが、すべてどこか上から目線で、皮肉がまじっていた。感想をいただけたのは嬉しかったが、なんとなく距離を置いていた。その後もなにかとあり(エアリプでの冷やかしというか揶揄)、わたしは徐々に消耗していったんだろう。


 そして、6月の文学フリマ短編小説賞への応募作を書いた。自分ではよく書けたのではないか、と思った。しかし、一次にもかすりもせず終了。毎年恒例の夏バテも加わり、気持ちも体もさらに落ち込む。


 そして、夏ホラが書けなかった。

 その時のわたしは、小説の書き方がまるで分らなくなってしまっていた。

 投稿のリストを見ても、2016年の夏以降に書いたものは、とても少ない。あまりに書けなくなったわたしは、苦肉の策として過去作をアップした。

 四半世紀近く前に書いたものから、独身時代に投稿したBLなど、すべて過去作。秋から冬はそれで過ごした。


 わたしは、自分の中に物語が何もなくなって、空っぽになった箱を抱えているような気持ちになった。

 まわりのみんなは次々に新作を書き、更新をしているのに、わたしは何も書けず、だからといって読む気にもなれず、呆然としていた。

 そんな中でも、第一回文学フリマ岩手開催を記念して発刊されたアンソロジーに『路面電車と花の町』が収録されるという喜ばしいこともあった。

 そうだ、本を作ってみようかな。小さな灯りが心にともった。

 せめて本を一冊作りたい。

 当時はそれにすがるような気持ちでいた。

 アップした過去作は、幸運なことに好評だった。嬉しい反面、あくまでも過去作であって今の自分ではないという歯がゆさを感じた。

 相変わらず、何も書けずにいた。

 そのうち、秋になり当時中三だった娘の受験勉強のために、塾への送迎が始まった。

 N氏からの粘着は薄れていったが、あまり心は晴れなかった。


 11月11日、娘を塾へ送り届けて帰宅途中のコンビニでミルクティーを買った。車に戻ったときにツイッタを覗いたら、リプが来ていた。「おめでとうございます」と。

 意味が分からず、とりあえず帰宅してパソコンで確認したら、『フルサトRadio』が新紀元社社長賞を受賞したことを知った。

 何もいいことがなく、何も書けなくなっていたわたしが受賞した。

 嬉しかった。ツイッタで皆さんからお祝いの言葉をいただき、ひとり嬉し泣きした。

 そうだ、知らせたい人がいる。

 読み聞かせの師匠と、仕事でお世話になっていたKさんへ知らせたい。そう思っていた矢先に、師匠の奥様から欠礼葉書が届いた。

 師匠は、亡くなっていた。

 あわててKさんへメールを出したら、すぐに戻ってきた。宛先不明で。

 知り合いに問い合わせたら、Kさんは師匠より早く二月に亡くなっていた。

 わたしは、知らせたいと思った二人を亡くしていた。


 人は死ぬのだ。


 あたりまえのことを、突き付けられた。

 ああ、書こう。下手でもいいから書こう。

 わたしはまた少しずつ、書き始めた。『花の簪』と『冬の王女』。

 その後、娘の受験が終わるまで自重したが、年が明けて春からまた書くようになった。

 相変わらず、筆は止まり勝ちだ。早くは書けない。うまくも書けない。コンテストはのきなみ落ちまくり、これといった華やかな話題とは縁遠く。

 それでも、のろのろと、のろのろと。


 2018年の春からは、地元文学館主催の小説講座を受講している。プロの先生のお話はいつも楽しく、とても勉強になる。幸運なことに、秋からの上級者コースに推薦していただき、引き続き受講中だ。

 なろうの公式イベントや、ユーザーの自主企画等に参加して作品を仕上げていって、気づけば書けないと落ち込んでいた頃から二年が経っていた。


 大切な人たちを亡くした。

 コンテストはいつもかすりもしない。


 それでも、書いてきた。

 書くのが楽しいと思えるようになってきた。

 念願の本を作り、イベントにも参加した。


 停滞していると思っていたのに、2017年からは短いものばかりだけれどずいぶんと書いている。


 歩みを止めなければ、進めるのかも知れない。

 ものすごく、ゆっくりとではあるが。

 最高で最低、最低で最高だった2016年。

 今ではそんなふうに思う2018年の秋に。



結局、N氏はわたしへの感想を自身で削除、なろうもツイッタも退会していった。

Kさんは「たのくるしい」という言葉をいつも言っていた。「楽しいと苦しい。合わせて、たのくるしい」。

小説を書くのは、そんな感じです。

楽しくて、苦しくて、そして狂おしいです。

戯言にお付き合いいただきありがとうございますm(__)m

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