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あしたの糧  作者: たびー
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『ポーの一族の世界 漫画の魅力』の講演会

2018.4.22のレポート

 去る4月22日、岩手県立博物館へ萩尾望都先生による『ポーの一族の世界 漫画の魅力』の講演会へ行ってまいりました。

 これは、特別展「未来への約束―いま語りはじめた気仙のたからもの―」の一環として開催されたものでした。

 東日本大震災以来、萩尾先生が被災地の子どもたちへの支援活動をされていること、特別展では被災した博物館資料を展示していましたが、その中に漫画雑誌があったことなどがご縁となっての運びとなったとのことでした。


 被災した資料、マンガ雑誌ですがこれは一人の学芸員が「浮世絵のように、いずれは未来の人たちが過去の人々の生活を知る貴重な貴重な資料になる」と収集していたと。学芸員の方は、震災で亡くなってしまったことなどが、講演のまえに博物館長より伝えられました。


 講演は、ポーの一族の作品を中心にしたものでしたが、創作活動についても触れられて、濃いものでした。


 以下にその内容のメモ書きを(たいしたものじゃなくてスミマセンが)


『ポーの一族』について


〇ストーリーが浮かんだきっかけ

 十七~十八世紀の服飾が好きで、資料を見ていた時にふと「マントを羽織った少年」が思い浮かんだ。ミステリアスな雰囲気で、吸血鬼なんだと思ったけれど、自分自身は怖いものが苦手で、悩んでいたが過去に怖くない吸血鬼物を読んだ記憶に思い当たった。石ノ森章太郎の「きりとばらとほしと」は、怪奇ものではなくロマンティックな内容だった。自分にもそういう路線ならば、描けるのではないかと思った。


〇名前について

 エドガー・アラン・ポーが好きだったので、主人公は「エドガー」で吸血鬼の一族名は「ポー」、エドガーが余ったからもうひとり男の子を出そう。「メリーベル」は「メリー××」にしたいと思ったから。「メリーベル」のベル(belle)には「美しい」という意味が含まれているので、自分でもぴったりとしたものがつけられたと思った。


〇世界観

 吸血鬼という者たちを設定したのは、大多数ではなく「除外されたもの」たちを描きたいと思ったから。それは、自分自身も除外されたもの(その他)のような気持ちがあるから。


〇四十年以上を隔てて、続編を描いた理由

 続きは、「いつか描こう、いつか描こう」と思っていたが、気付いたら六十を過ぎていた。自分が描ける残り時間を考えたら、もう「絵が違っているから」とかそんなことで躊躇していられなくなった。「わたしも六十過ぎちゃったから、もう許してね~」って気持ちで描いた。


〇連載当時のことなど

 一回31ページだったが、ネームではいつもそれ以上になってしまっていた。掲載するために規定に納めたが、コミックになるときに取って置いたネームをもとに加筆した部分が多々ある(実際に雑誌に掲載されたものと、コミック版とで同じシーンがスクリーンに投影されたので比較できた)。いまなら、パソコンでしてしまうところ、当時の作業は切り貼り。

 予告カット、小さなスペースにイラストと文字。欄外に「返却希望」の走り書き。小さなカットなどは、行方不明になる事が多かったから(戻らなかったものもあったとのこと)。


〇舞台化と、その他のことなど

 宝塚で舞台化されたが、ファンからは「エドガーがアランの靴ひもを結ぶシーンはあるのか」という声が多く上がっていたとのこと(舞台では、なかった)。

 打ち上げの時に、主役のエドガーを演じた明日海りおさんが、靴紐を結んでいるところを目撃した萩尾先生、興奮して友人にその旨を伝えると「そういうことじゃない!!」と言われたそう。

 シリーズ作『小鳥の巣』について

 ギムナジウムを舞台にしたのは、ヘルマン・ヘッセが好きで、その関連でドイツが好きだった。また、ギムナジウムが川の中州にあるという設定も「閉じられた場所」ということで自分好み。表紙に水鳥がたくさん舞っているのは、川の中にある学園ということで水鳥がいるだろうな、と思って。

 舞台設定の植物の植生などを調べる(司会の方が、「先生は植物図鑑とかもお好き」と補足)。例えば、日本に生育している大島椿は原種に近く一重咲だが、海外のものはほとんどが八重咲以上。なので、エドガーの背景(コミック『春の夢』の表紙)に描いたものは海外の椿(素人目には一見バラのように見えたが)。


〇創作全般について

 どんな主人公にしようか、と何度も何度も描いてみる。ちょっとモブでも……と描いてみたら、そちらのほうがしっくりきて主人公にしたこともある。

 たいがい、顔を描いたときに名前も同時に決まるとよいキャラになる。

 決まらない時には、あれこれと考えて頭を悩ます。

 発想の抽斗は……コンプレックス、それの言い訳。

 世界は不公平で不平等、理不尽なもの。「どうして?」「なぜ起きるのか?」と考え続けて、自分にとってバランスのとれたもの、整合性を取り戻すためには物語が必要だから。


〇なぜ漫画家になったのか

 なれるとは思っていなかったし、なろうという強い意思もなかった。けれど、であってしまった。

 手塚治虫の『新選組』を読んだのは高校二年の時。手塚作品の中では決して名作といわれる

 作品ではないが、自分自身には大きく影響された。物語の中で主人公は親友を殺してしまう、それがなぜなのか、他にみちはなかったのか。物語に没入し、ただそのことだけに心を奪われてしまった。その答えを出すために漫画を描くことに決めた。


〇スランプについて

 四年に一回くらいのペースでスランプの時期が巡ってくる。

 そんなときには、お休みをいただいて旅行へ出かける。休んで充電。しばらく描かない。描かずに休んでいると、じきに休むことに飽きて「描きたい気持ち」になってくる。それまでのんびりする。


〇道具について

 丸ペン、Gペン、ベタ用の面相筆はデザイン学校時代から使っているもの。

 ホワイトはミスノン。乾きが早い。

 白のポスターカラーには、より細かい作業の時に使う。

 開明墨汁、ミリペン。ケント紙。

 ミリペンやサインペンで描いたところは、薄くなったり消えたりするが、墨汁で描いたところは消えない(海水につかっても墨でかかれたものはきえませんでした、と文化財を修復している博物館側からの補足)


〇場面構成など

 心理描写の効果がある場面構成、たとえば服の皴などは感情表現にも使える

 物語への導入。映画のように、カメラを引くか近づけるか、どんなセリフを配置するか(名前を呼ぶ→人物→セリフから得られる情報、読者があるていど推測をつけながら入れるように。いつまでも名前が出てこないとか、目的が分からないと読者はついていけない)

 テンポがあり、リズムがある漫画は、音楽に近いものがあると思う。

 小説などを読んでいるときに、頭の中でコマ割りをしていることがある。実際に描きはしないが、そんなことも考える。


〇制作時間

 カラーイラストなら下絵に一日、主線を入れるのに一日、色を付けるのに一日。計三日。

 原稿は腱鞘炎のため、一日二枚が限界。


〇質疑応答より

 漫画を教えている講師の方から

 Q 同じような場面構成でメリハリがないばあい、どのようにアドバイスすればよいか

 A 映画を参考にする。場面展開ではどのように表現しているのか、参考に。あるいはオーソドックスな手法の作家の作品を参考にする(先生が挙げられた作家は、横山光輝・ちばてつや、里中満智子(?)←ちょっと不確か)


 Q 先生が注目している小説や漫画、作家などを教えて欲しい

 A 『刑事ヴァランダー』シリーズは、大好きでずっと読んでいる。

 『都市と都市』チャイナ・ミエヴィル/著 (ハヤカワ文庫SF)、発想が面白い。


 Q 新作で、アランが「蜂蜜が好き」と言っていたが

 A バンパイアは人間とは味覚が違うとおもうけれど、血の味の違いに気づくなら、多少の味覚あると想像して、蜂蜜を好物にしてみた。



 会場は、70年代からのファンと思しき先輩方と80年代あたりに私淑したとおもわれるご同輩方、中にはご夫婦でいらしている皆さんも。平均年齢はおおむね高めですが、若い方もチラホラと見えました。今回のイベントを私が知ったのは、遠野嫁さまのツイートからでしたが、ほとんど宣伝らしきものはなく県立博物館のホームページにちょこっと載っただけらしかったです。それでも、全国各地からの応募があったようで、萩尾先生の熱心なファンがいかに多いか実感しました(しかし、全国の内訳は説明されず!)


 当日の先生は、ベージュのワンピース・スーツにベレー帽(なんかもう、漫画家のコスプレというか期待を裏切らないというか)。

 あっという間の一時間半でした。


 伝わりにくくて、すみません。

 子どもの頃から大好きだった先生にお会いできて、イッパイいっぱいのわたしでした。


当日のメモをもとに書きましたが、またあとから思い出したところなど書き加えるかもしれません。

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