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帝国記

男装令嬢と悪役令嬢

拙作『筋肉嫌いなのに筋肉の国に転生して~』と、同じ世界、同じ時代、隣の海の国が舞台となっております。

ここは乙女ゲームの世界だ。

中世ヨーロッパ風の世界観の海に面したマゼッティ公国。

前世日本人のわたくしが悪役令嬢に転生して早十五年。

自分で言うのも何だけど、悪役令嬢なだけあって絶世の美少女だ。濃い金髪の縦ロールに空のような水色のつり目、身長は低いけど巨乳!やったね!!

破滅ルートを回避するために、いろいろやって来たけど、残念ながら第二公子の婚約者にはなるし、ゲームの舞台である王立学園にも入学してしまった。

まだヒロインは転入して来ていないが、義理の弟には何もしていないのに嫌われ、頑張っているのに第二公子には疎まれ、宰相の息子の侯爵令息には嫌みを言われ、騎士団長の息子には睨まれている。大商人の息子にはいつも売り切れと言われ商品を購入する事が出来ないし、異国からの留学生には無視されている。隠しキャラの第一公子にはまだ会った事が無いがこの分だと嫌われていそうだ。

しかし、謎だ。

何故か、ヒロインは出て来ていないのに、わたくしアンジェリカ・メーダ侯爵令嬢は、攻略対象者から軒並み嫌われている。


そんな中で、わたくしに一人だけ親切にしてくれる男爵令息がいる。

恐らくモブキャラのマリアーノ・ソレンギ。

モブキャラの割には中性的な美人さんだ。青みがかった黒髪に海のような紺碧の瞳。スラリとしていつもオシャレでキラキラ王子さまみたいな感じ。もしかして、わたくしが知らないだけで第二の隠しキャラだったりして。

口調は演技かかってナンパなマリだけど、心配性で優しい良いヤツなのだ。

わたくし達は互いに「アン」「マリ」と呼び合う仲だ。

マリがいるから、わたくしはこの学園で生きていける。

第二公子に婚約破棄されたら、マリに結婚してもらおうかしら。




そうして何だか分からない内に、先輩方の卒業パーティ、つまりいわゆる断罪イベントを迎えてしまったんたけど……。

まだヒロインは出ていない。

え?ヒロインどこ行った?

何コレ?

もしかして、わたくし婚約破棄されないの?

いや、婚約は破棄されそう。

第二公子の目、怖いくらいわたくしを睨んでる。

宴もたけなわになって、第二公子とその仲間達(攻略対象者)がわたくしをとり囲む。


「メーダ侯爵令嬢、アンジェリカ!君との婚約を破棄する!!」


うん、突然だね。何の導入もなく、意味が分からない。


「理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「理由?よく分かっている筈だろう。僕という婚約者が居りながら君はソレンギ男爵令息と仲睦まじく過ごし、僕を裏切っている!」


ええ!?

何言っているのぉ?

第二公子の方がわたくしを疎ましく思って避けているんでしょ!?

それなのに、わたくしがマリと仲良くするのはいけないって訳!?

他の男どもも何よっ!

まるで、わたくしが悪いみたいな目をしている。

ヒロインを苛めた訳でもないのに、何故断罪されなくちゃいけないのよっ!


「わたくしとマリは友達ですわ。それに……殿下の方がわたくしを疎み避けてらっしゃるでしょう?」


婚約破棄されたらマリに結婚してもらおうと思っていたのは黙っておく。面倒くさいことになりそうだからね。でも、責められて黙っているわたくしでは無い。

ただ、ヒロインが居ないので破滅ルートは免れたとは、思う。

まあ、言い掛かりとはいえ不貞を疑われての婚約破棄なら、没落や処刑は免れても一生独身かも。これでマリと結婚したら「ほれ、見たことか」って言われちゃうよね。


「僕は、疎んでなんか――」

「いえ、殿下は姉を大変疎んでますよね。何時だったか『アンジェは何もかも完璧で僕には相応しくない』と仰っていたではありませんか」


失礼にも第二公子の言葉を遮ったのは、わたくしの義理の弟だった。

あれ?弟のせいで没落したりして……。


「あ、あれはっ――」

「確かに頭の回転の速いアンジェリカ嬢は殿下には相応しくないかも知れませんねぇ」


次に第二公子の言葉を遮ったのは、宰相の息子である侯爵令息だ。

公子の取り巻きの癖に失礼なヤツラだ。

でも、バカな義理の弟の失言は軽減されたかも。没落回避?


「あ、アンジェリカ嬢、は剣の成績も、上位だから……王族はもったいないと、思う」


ぎゃいぎゃい言い合っている三人の横で騎士団長の息子がボソッと言った。いつも無口だから珍しい。大商人の息子がそれを受けて続ける。


「ウンウン。王族はもったいないよね!いっそ、貴族も辞めちゃえば!?」


いつものような意地悪な笑みで宣う、童顔の少年。

貴族は辞めたくない。現代日本程、発展していない世界で平民の生活とか無理だ。それも、最初から平民じゃなくて、貴族から平民に、なんて……むーりー。ごめんなさい、だけど。


「そもそも、この国がお前に相応しく無いんだろうよ。アンジェリカ、俺の国へ来い」


へ?

今初めて名前呼ばれて話し掛けられた上に、呼び捨てっ!?

って、異国の留学生さん、何故急に無視するのを止めたの?


「ルッ、ルトガー!?何を言ってるんだ、急にっ!!」


「急に、じゃない。お前の婚約者だから遠慮していてだけだ」


え?っと……これは、もしかして……プロポーズ?

わたくしの驚きポイントは他の攻略対象者達と違っていたようだ。


「ルトガー!殿下に『お前』なんて、不敬な」


あ、そっか、皆は異国の留学生ルトガーが皇太子という事を知らないんだ。

でも、君達もちょっと不敬な発言してたよね?


「内緒にしていたが、今日で最後だからな、問題ないだろう。俺はルトガー・エルドランド・ローヒメティ、一応皇太子だ」


そう、ルトガーは北にある隣の大帝国ローヒメティの皇太子だったのだ!

攻略対象者だけではなく、野次馬も驚愕に目を見開いている。わたくしも真似をしてビックリ知らない振り。


「第二公子の嫁より皇帝の妃の方がお前には相応しいだろ」


呼び捨てを通り越して、お前呼ばわりか。

そして、やっぱりプロポーズか!

土下座でお断りさせて頂きますっ!!

北の帝国ローヒメティの皇帝妃なんて、むーりー。


「こここ婚約破棄は無しだっ!!」


第二公子は鶏と化した!

じゃ、なくて。何なの?何がしたいの、第二公子は。

婚約破棄がしたかっんじゃないの?止めるの?

ざわざわしている会場を静まらせたのは――。


「一度言った事を取り消すなんて王族のする事では無いと思いますよ」

「マリッ!」


わっ、ちょっと、出て来て欲しくなかったかも!

わたくしとマリの仲が疑われての断罪イベントなのだから。

面倒くさい事にならなきゃ良いんだけど……無理そう。

攻略対象者達がマリを見る目は、わたくしを見ていた目の比では無く、なんか殺気こもってるみたい。

一応婚約者の第二公子やプロポーズしてきた皇太子は分かるんだけど、他の攻略対象者は何故?


宰相の息子で侯爵令息が気をとり直して同意した。


「全く、その通りですねぇ。殿下は御自分の仰った事に責任を持ってちゃんと婚約破棄してくださいねぇ。アンジェリカ嬢には王族でも皇帝の妃でもなく是非とも私の妻に――」

「いえいえ、姉さんは誰にも嫁ぎませんよ。さあ、姉さん、家に帰ろう。僕がずっと面倒みてあげるから、ね?」

「あ、アンジェリカ嬢は、俺と、一緒に、戦場行こう?俺の、背中を、守って欲し、い」

「違うよ~!アンジェリカちゃんの頭脳は未来の大商人(予定。は、未定)の僕に必要なんだよ!毎日、新商品使い放題だよ!!」

「だ、駄目だ駄目だ!アンジェとは婚約破棄しないんだからなっ!!」


なんか第二公子、涙目になっている?

うーん、やっぱり面倒な事になった。

何故この流れでプロポーズタイム?

と、いうか。

皆さん、わたくしの事、嫌いじゃなかったんですか!?


「アン、君ってモテモテだね。さすが私の美しい友人」


マリがわたくしの腰を抱いて爽やかにウィンクする。

おや?今だかつて腰を抱かれるなんて事なかったんですけど!?

涙目だった第二公子がキッと睨んで抗議する。


「マリアーノ・ソレンギ!僕の婚約者に触れるな!!君にはアンジェを誑かした罪を償ってもらう!!!」


第二公子は高らかに宣言する。

あれ?

何故かマリの断罪イベントになってる!?

わ、わわ!これは不味い!

止めなきゃ!!

でも、マリがわたくしを制止して一歩前に出る。


「誑かしたとは人聞きの悪い」


マリは第二公子、そして攻略対象者達を順々に一瞥して笑う。


「私は女ですので、不貞には当たりませんよ」



「えええぇぇぇぇぇっっーーー!!?」


一番、叫んだのは何を隠そうわたくしでした。




マリはわたくしを見てにっこりと笑った。イタズラが成功した子供の様に。


これ(男装)は私の趣味でして。因みに男よりも可愛い女の子が好きなので今まで美少女達を侍らかしてまいりましたが、そのせいでアンが疑われるのは困ります」


「な、なんだ……女だったのか」


ほっと安堵の溜め息を漏らした第二公子にマリは爆弾を投下する。


「もっとも、そちらのヴェント侯爵令息殿はこの事をご存知だと思いますが」

「なんっ!?アルッ!?」


第二公子は宰相の息子、アルフォンソ・ヴェント侯爵令息を振り返った。

アルフォンソの目は泳いでいる。口笛でも吹きそうなくらい狼狽している。


「姉さん、良かったね。疑いが晴れて。勿論、僕は姉さんの事信じていたけど」


義理の弟が初めて会った時以来の天使の笑顔を向けて言う。

うう、なんか眩しいよ!

義理の母(わたくしにとっては実母)に苛められていた貴方を助けようともしなかったわたくしに、こんな笑顔向けてくれるなんて、なんか逆に怖いんですけど!?

騒がしい二人と、悪寒が走っているわたくしを余所にルトガー皇太子が宣言した。


「婚約破棄は婚約破棄だからな。アンジェリカ、さあ未来の夫を選べ」


ルトガーは皇太子らしい余裕の表情である。対して第二公子は慌てふためき、何度も同じ事を繰り返すのみ。


「してないしてないっ!婚約破棄なんかしてないよっ!!」

「往生際が悪いですよ、殿下」


第二公子の矛先がずれた事に安堵するアルフォンソ侯爵令息。


「そうですよ、殿下。姉さんは僕と一緒に家に帰りますよ、ね?」


義理の弟が妖しく笑う。


「あ、アンジェリカ嬢、一緒に戦場、行くか?」


騎士団長の息子が犬のような円らな瞳でわたくしを見る。

てか、何故に戦場?

無いよね、今戦争してないよね?


「商人だよ!お菓子もドレスもアンジェリカちゃんの思いのまま作り放題だよ!!」


大商人の息子がキラキラした瞳で言う。

これ、わたくしのアイデア目当てでは?


何故か。

マリが茶目っ気たっぷりなスマイルで。


「それとも、私とめくるめくる百合の世界へ行ってみる?」

「ゆゆゆ百合って!!」

「おや、ご存知ない?百合というのはね」

「いえッ、知ってますからっ!」

「そう?悪い子だね」


クスクスと愉快そうにマリは笑う。対してわたくしは羞恥に真っ赤。


そんなわたくしを皆が取り囲む。

なんだこれはなんだこれはなんだ……。




「「「「「 「で、誰を選ぶ?」」」」」」

「だから、婚約破棄してないからっーー!!!」




悪役令嬢に転生したと思ったら何故かヒロインのポジションに居ました。

モブキャラだと思っていた男装の麗人マリも何故か参戦していました。











てか、マリがヒロインだったっ!!!!!!!









タイトルネタバレ!!


この話を考えたのは作者の勘違いからです。

『なろう』さんで乙女ゲーム転生物ばかり読んでいたのですが。

あらすじに『男装』令嬢と書いてあるのに、それらしい少女が出てこず、おかしいなぁと思っていたのです。

もう、お分かりですね。

『男爵』を『男装』と読み間違えていただけだったのです、うう。


男装したゲームのヒロインも面白いかなと思って作った作品てすが、如何だったでしょうか?


ルドガーの名前を間違えてまして 『 ルトガー 』 に変更しました。

卒業パーティを『先輩方の』卒業パーティに変更しました。 2015.12.26


ちょこちょことショボい間違いがあったので訂正しました。内容に変わりはないよう2017.11.10

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― 新着の感想 ―
[良い点] わ、私も「男装令嬢」を「男爵令嬢」と勘違いして読みました。 最初から堂々とネタバレしてるのに、気づかなんだぁ。
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