イケメン君再び……
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彼女との交際が始まって二週間が過ぎようとしていた。彼女はオレとの交際を包み隠さず伯母にも麻由美ちゃんにも話していたので、オレと彼女の交際が彼女の母親公認の真剣な交際だということが、伯母の店の常連客なら誰もが知っているというような状況だった。
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「せいちゃんがまさか、ユイちゃんと付き合い始めるなんて思わんかったから、二人が付き合い始めたって聞いた時は何かのドッキリかと思ったんやで!」
「私は、直接ユイちゃんにせいちゃんのことを相談されてたから、もしかしたらこうなるかもって思ってた。思ってたけど、黙って見守っててん」
伯母の店に仕事帰りに相棒を迎えに立ち寄って、週末ということもあってのんびりしてたら、いつの間にか店は満席になっててオレはこうちゃんたちと座敷で夜定食を食べながら、ちびちび日本酒を飲んでいた。オレとこうちゃんの横では、美花ちゃんと麻由美ちゃんが、オレと彼女の話で盛り上がっていた。
「せいちゃん、ユイちゃんとやっぱり結婚とか考えてるんやろ?」
「一応は考えてる。そやけど、ユイちゃんの歳を考えるとな……。あんまり、結婚っていう言葉でお互いを縛り付けたくない気もしてる」
「せいちゃんは、ほんま真面目やな。真剣に自分のことよりもユイちゃんのことばっかり考えてるもんね」
美花ちゃんも麻由美ちゃんもええ風に受け止めてくれてるけど、真面目なんだけが、オレの取り柄なんよね。悪い言い方をすれば、オレはただの臆病者なんやと思う。後で傷つくのが嫌やから、出来るだけ物事は慎重に進めて相手にはまず、過度な期待をしないように生きてきた。三年前に別れた彼女も、多分こんなオレにしびれを切らしてしもて、他の男のとこへ行ってしまったんやろな。
酒に酔っているせいか? オレは少し自己嫌悪に陥っていた。そんなオレの気持ちに気付いたのか? 相棒が膝へ上がって来て、ゴロゴロと喉を鳴らして丸くなってしまった。家でも同じで、オレが少し考え事をして思い悩んでると決まって相棒が膝へ上がって来て喉を鳴らしてから丸くなってしまう。猫って不思議な生き物で人の不安や寂しさを感知出来るように出来ているのかも知れないと、オレは相棒と暮らし始めてから真剣にそう思うようになっていた。
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日曜日。彼女との約束で映画へ行って買い物に付き合うという予定だったので、伯母に相棒を預けてから駅へ向かった。伯母はニコニコ笑いながら、ゆっくり楽しんでおいでと言っていたけど。オレは出来るだけ早めに切り上げて帰るつもりでいた。
待ち合わせ場所の改札を少し離れた所から見てみると、約束の時間の十分前やのに、すでに彼女が待っていてオレを見つけて彼女は満面の笑顔で手を振っていた。
「誠二さん♪ おはよー!」
「ああ。おはよう、ユイちゃん。早かってんなぁー」
「えへへ。もう、早く会いたくて会いたくて、少し早いかな? とは、思ってんけど……家を出て来てしもてん」
頬を少し赤くして彼女は嬉しいことを言ってくれていた。そして、オレの右腕に自分の腕を絡ませてニッコリ笑うと彼女は歩き始めた。
駅のホームで電車が来るのを二人で待ってると、後ろから聞き覚えのある声がしたので振り向くとそこには、あのイケメン君が立っていて、オレたちを……いや、オレをかな? 睨み付けていた。
「オイ! おじさん。なんで? ユイと腕組んで歩いてるんや? ただのボディーガードやなかったんか?」
「いや。これには、色々と事情があってやね。ボディーガードから恋人に昇格したんや……スマン」
「嘘やろ!? マジで? ユイ! なんでやねん?」
イケメン君に責められたオレは、一応本当のことを彼に告げた。すると、今度は彼女になんでなんやとイケメン君は詰め寄っていた。
「なんで?って、好きやからに決まってるやろ? 八城君には関係ないやん。別に付き合ってたわけでもないし、もう私のことは放っておいてくれる?」
「いやや! オレと付き合ってくれるって一度はOKくれたやん。なんでやねん! そんなおっさんのどこがええねん。絶対おれの方がイケてるやん。……オレは諦めんからな! 絶対にユイの目を覚まさせたる!」
唇をワナワナさせて彼は絶対に諦めんからと叫ぶと、どこかへ走り去ってしまった。その様子を黙って見ていたオレも彼女も顔を見合わせて、アカンと思いつつもついついおかしくなってしまって声を出して笑っていた。
「そやけど、ストーカーとか困るからな! なんかあったら言うんやで!」
「うん。多分、大丈夫。八城……根は良い子やから(笑)」
オレは彼女に念のために彼には気をつけるように釘を差しておいた。