交際スタート
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彼女との熱いキスを交わしたオレは、後悔よりも男としてこのまま彼女を失いたくないと、心に強く感じていた。
「降参やわ。参りました。もう、綺麗ごとはナシや。マジでオレと付き合う覚悟出来てる? お母さんに反対されるかもしれへんで! それでも、ええか? オレは覚悟決めた。ユイちゃんのこと、他の誰にも渡したくない」
「出来てる。覚悟なんかとっくに出来てるもん。私も誠二さんを他の誰にも渡したくないって思ってる」
オレは彼女を真剣に見つめながら、お互いの気持ちに揺るぎが無いことを確認していた。
「わかった。これで、決まりや! とりあえず、交際を始めてみよう。ユイちゃんのお母さんにも挨拶に行くわ。これは、遊びじゃないからな! 結婚前提の真剣な交際やで? ほんまにええねんな?」
「はい……。嬉しい。でも、なんか緊張する」
「ところでや! ユイちゃんは進学するんか? それとも、就職するつもりなんか?」
「あ。就職か専門学校です。大学に行くつもりは、ありません」
少し冷静さを取り戻したオレは、彼女にこれからの進路についてどうする気持ちでいたのかを聞いてみた。
「オレはな、ユイちゃんには色々と経験してほしいから、結婚を急ぐつもりは無いからな!」
「そうなんですか? 私は早く誠二さんのお嫁さんになりたいのに。なんで?」
大きな瞳をオレの顔に近づけて、彼女はオレの気持ちに疑問を感じたようで少し膨れっ面をしてみせた。
「オレと付き合いながら、ユイちゃんはユイちゃんのやりたいことをやってほしい。まだまだ、何にでも挑戦したらええんや!」
「なんか、保護者が増えただけのような気がする……」
確かに、どちらかと言うとオレも保護者のような気持ちではあった。彼女の将来を見守っていきたい。そして、いずれは結婚出来れば良い。まずは、彼女には、オレと付き合いつつ、やりたいことを存分にやらせてやりたいとオレは真剣に考えていた。
「あの。それより、お願いがあるんやけど……」
「なんや? どうしたん?」
「えっと……あの。もう一回……」
彼女は、モジモジしながらオレの首に両手を絡めてきてもう一度、熱いキスをして満足そうにニッコリ笑った。
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このまま部屋で二人でおると、どうにも理性を保てそうに無かったのでオレは彼女を家まで送っていくと立ち上がって、外出着に着替えて彼女を連れて部屋を出た。相棒には申し訳ないが、ケージに入ってもらってオレの帰りを待ってもらうことにした。
「チビちゃん。大丈夫かな?」
「ほんのちょっとやから、大丈夫やと思うで! ご飯もあげたから寝てると思うわ」
彼女の家は思っていたよりも近くて、オレの家の二つ筋違いの同じ町内にあるマンションやった。
「ほんまにお母さんに会っていくの?」
「うん。早いほうがええからな!」
部屋の前まで来ると、彼女はオレの後ろに回って少し顔を強張らせて緊張しているようやった。オレは覚悟を決めてインターホンを鳴らした。すると、返事よりも先に玄関のドアが勢い良く開いた。
「ユイ! もう~! めっちゃ心配してんからね! 藤田さん? ですよね? ユイがご迷惑をおかけしてしまってほんまにすみませんでした」
「いえ。あの。初めまして、藤田誠二です。ユイさんと良く話し合わせてもらって、真面目にお付き合いさせてもらうことになりました。その、ご挨拶もかねて伺わせて頂きました」
「ほんまに? ええんですか? こんなガキンチョですよ? ユイを傷つけんとこうと思って気を使ってはるんやったら、そんなんやめて下さいね」
彼女の母親が玄関を開けてオレを見て、何度も頭を下げて誤るので、オレも勢いで彼女との交際のことを告げて頭を下げて挨拶をした。すると、一瞬。目を丸くして母親は驚いていたが、オレが彼女を傷つけんとこうと思って気を使って彼女と付き合うことになったんやと勘違いしたようだった。
「そんなんちがうもん! 誠二さんも私のこと、好きって言うてくれてる。真剣やで!」
「本当に良いんですか?」
「今すぐどうこうは、オレも考えていませんが。彼女とユイさんと付き合いながら、将来のことを考えていきたいと思ってます」
オレの話を聞いた彼女の母親は、オレの両手をギュッと握り締めると、彼女のことをお願いしますとその瞳には薄っすらと涙を浮かべていた。
「ママは、反対じゃないの?」
「反対するわけないやん! こんなええ人。今どきおらんもん。ママが再婚したい位やわ」
「いや。あはは。ご承諾、ありがとうございます」
こうして、オレと彼女の交際がスタートした。