告白
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相棒との生活がスタートして、二週間が過ぎた。毎朝。一時間早く起きることも当たり前の生活になりつつあるし、彼女のボディーガードも続いていた。チカン常習犯らしき、あの二人組なんやけど。オレが伯母の知り合いの刑事に相談した翌日には、あっけなく現行犯逮捕されたと伯母からオレのスマホにメールで報告があった。
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今日は午前中に相棒の感染症予防のワクチン接種の予約を病院にしていたので、朝から溜まっていた洗濯と掃除を済ませて相棒をキャリーに入れて病院へ向かっていた。
二週間の間に相棒はふたまわりくらい大きくなったような気がする。良く食べてよく寝るし。(寝るのは猫やからあたりまえなんやけど)なんかこいつはでかくなりそうや。
そんなことを考えて歩いているうちに病院に着いて、入り口を入ると受付では、彼女がニッコリこちらを見つめて笑って手を振っていた。
「おはようございます。今日はチビちゃんの予防注射ですね」
「おはよう。こいつめっちゃ大きくなったやろ? 猫って二週間で結構。育つもんやな」
オレはキャリーの中の相棒を彼女に見せて、伯母が心配したように名前に反してでかくなりそうや。と言って笑ったら、彼女もそうですねとクスクス笑っていた。
診察室に入ると相棒をオレから受け取りながら、この前とは違ってすごくフレンドリーな笑顔で獣医はオレに話しかけてきた。
「姪のユイがお世話になっているみたいで。ありがとうございます。姉にも……。ユイの母親にもよろしく伝えてくれといわれたんです。すごく感謝してました」
「いや。そんなん。当たり前のことしただけですし。気にせんといてください」
あらたまって彼女を助けた礼を言われて、オレはどう答えたらええか困ってしまった。
「実はね。ユイの奴。藤田さんに惚れてしまったみたいなんですよ。毎日と言って良いくらいユイの口から藤田さんのことを聞かされるって姉が笑ってました」
「あはは。それは考えすぎでしょ? こんなおじさんに惚れるやなんて。ないない!」
予想外の彼女の叔父からの告白にオレは慌ててそんなことはありえないと否定しておいた。
ところが。予防注射を終えて待合いにオレが戻ると彼女はオレに小さなメモをそっと渡してきた。オレはなんやろう? と思ってメモを開いて見たらそれは彼女のメールアドレスやった。
メールアドレスを記したメモを彼女から手渡されたオレはかなり動揺していた。おいおい……どうするんや。これは、どう受け止めたらええんやろ? オレがメモを見て固まっていると彼女はクスクスと横で笑ってなんか楽しそうやった。
「毎朝。ボディーガードしてもらってるでしょ? でも、風邪とかで休む時にメルアド位は知ってるほうが連絡も取りやすいし。そやから、登録したら私にメールもらえます?」
「ああ。うんうん。わかった。家に帰ってからすぐに登録してメール送るわ」
さすがに、こんな三十路男にこんな美少女の彼女が恋なんてするはずもないわな。オレはそう自分に言い聞かせて、少しホッと胸を撫で下ろしていた。
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オレは病院を出て、真っ直ぐ家に帰ると相棒をキャリーから出してやって相棒に良く頑張ったなと頭を撫でて声をかけてやった。少し、疲れたのか? 相棒はゴロゴロと喉を鳴らしながらソファーの上で丸まって眠ってしまった。オレも相棒につられて夕方までそのまま寝入ってしまった。猫という生き物は催眠作用でも持っているんやろか? オレは相棒と暮らすようになってから眠れなくて困るようなことがまず、なくなっていた。安眠万歳や。
平穏な休日を終えようとしている時にオレはふと、彼女のメルアドのメモを思い出して慌ててスマホに登録してから、念のため[テスト]と題して彼女にメールを送っておいた。
オレが風呂に入って缶ビールを片手にいつものようにテレビを見てくつろいでいると、スマホのメールの着信音が鳴った。多分、律儀な彼女からの返信だろうと軽い気持ちでオレがメールを確認すると確かに彼女からの返信だった。だったけど……。オレは固まった。心臓のドクドクという音が耳元で聞こえているような感じになって、その場の空気は張り詰めていた。
[メール無事に届きました♪ 登録ありがとうございます。大好きな誠二さんとつながっているような気がしてめっちゃ嬉しいです。誠二さんが大好きです♡****ユイより愛をこめて♪]
「な、なんや……なんや? これは……」
返信されてきた彼女のメールの内容はとんでもない。彼女からの冴えない三十路男への愛の告白やった。