結婚パーティー
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オレが…こんなに緊張したのは、もしかしたら生まれて初めてやったかもしれない……。
「せいちゃん! 緊張しすぎやわ! リラックスして~」
「そない言われても……陽子さん、何か招待客多くないですか?」
「ええねん、ええねん! どうせ会費制にしたし、ほとんどがうちの店の常連さんやしな!」
「マジか……」
彼女の卒業式を終えてから、結婚パーティーの会場の亜夜子ママのお店『ローズマリー』に入った瞬間……オレは、自分の目を疑った。
オレの想像では、せいぜい20人から30人くらいの招待客と身内みたいな…こじんまりとした結婚パーティーやったのに。
「誠二くん! おめでとう!!」
「ユイちゃん! おめでとう!!」
「「おめでとう~♪」」
オレの目の前には、人人人…パーティーが始まる30分前やというのに…すでにこの広い店内いっぱいに招待客が集まっていた。
『ミャーン♪』
「えっ!? ちびもおるんか?」
「ほんまや! ちびちゃんもがんももミケもクマちゃんもおる♪ 可愛い~~!!」
斜め後ろのカウンター席から、猫の鳴き声が聞こえたので振り向くと…そこには、首に蝶ネクタイやリボンをした相棒とがんもとミケとクマちゃんがカウンターに並んで座っていた。
「可愛いやろ? うちらの結婚式の時にもがんもとクマちゃんが出席してくれてんで♪」
「そうなん? その時も蝶ネクタイしてがんもはリボンしてもらってたん?」
「うんうん♪ ついでにがんもとクマちゃんも結婚式してんで!(笑)」
猫らのあまりにも可愛い姿に彼女が声をあげていると、麻由美ちゃんがニコニコ笑って彼女とオレに浩二との結婚式の時のことを話しながらがんもの頭を優しく撫でてやっていた。
「ほらほら! せいちゃん、ユイちゃん! 早くこっちで着替えてや! そろそろ始めるよ!」
「あっ、すんません! ユイ! 着替えやて…先に行ってくれ…オレ、ちょっと…トイレ…」
「誠二さん? まだ、緊張してるん?」
「だ…大丈夫や! 大丈夫! でも、念のためにトイレ行って来るわ…(苦笑)」
そろそろ始めると言われた途端にまた…緊張の波がオレを襲って来たから、彼女に先に着替えに行かせてオレはトイレへ駆け込んでいた。
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オレがトイレから出てくると…すぐに比奈に腕を掴まれてスタッフルームへ連れて行かれて真っ白なタキシードに着替えさせられていた。
「春らしくてええやろ? ふふふふ♪」
「こんなもんまで用意しとったんかい!?」
「当たり前やん! ユイちゃんなんか、めっちゃ可愛いんやで♪」
タキシードを着せられ、髪をムースで整えられてオレは比奈と麻由美ちゃんに背中を押されながら彼女の待っている会場の中央へ出た。
「孫にも衣装やな♪(笑)」
「確かに…せいちゃん、普段あんまりおしゃれせんからなぁー」
「今日は、めっちゃ男前に見えるわ! ふふふ♪」
「勘弁してくれ……オカン…恥ずかしい」
伯母と母親と亜夜子ママに囲まれているオレの肩を…後ろから誰かが叩いたので振り向くと……春らしい薄いピンクのウエディングドレスを着せられた彼女がニッコリと微笑んで立っていた。
「アカン…オレ…倒れそうやわ…眩し過ぎる…」
「誠二…さん? 大丈夫?」
「あ、ははは。大丈夫や……ユイ…めっちゃ綺麗やな♪ よう似合ってるで!」
「ありがとう~♪ まさか、こんなん着せてもらえるって思ってなかったから…びっくりした…でも、嬉しい♪」
彼女はオレにそう言うと…また、すごく幸せそうに笑っていた。
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式の進行は、もちろん浩二が慣れた様子で進めてくれたので何の問題も無くオレと彼女は無事に夫婦になった。
式の締めくくりにあの大勢の前で誓いのキスをするのにオレが戸惑ってためらっていたら、彼女の方からオレの唇に自分の唇を重ねてきて会場がドッと沸いていた。
「これは、もうすでにせいちゃんはユイちゃんに敷かれてるね♪」
「ふふふ♪ ユイちゃんがしっかりしてるから、ほんま…私は安心やわ~」
「何か、オカンも比奈も好き勝ってに言うてる。けど…まぁ、確かに…ユイがしっかりしてくれてるからこうして結婚出来るんやけどな…」
無事に式を終えた後は、皆で朝まで飲み明かしてオレと彼女はたくさんの人に祝福されて晴れて夫婦になることが出来たことを歓び合っていた。
「これから、どんなことがあるかわからんけど…一緒に頑張って行こうな♪」
「不束者ですが……末永くよろしくお願いします。旦那さま♪」
オレと彼女は朝陽を浴びながら、あらためて抱き合ってそっと誓いのキスをしてお互いの温もりを確かめ合っていた。