彼女の卒業式
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彼女の卒業式の当日は、平日とたいして変わらない時間から起こされて、ドタバタととても朝から慌ただしかった。
何でこんなに慌ただしかったかと言うと、土曜日で休日やったはずがオレも彼女の卒業式に彼女の母親の理緒さんと叔父の若先生と一緒に出席することになってしもたから、相棒を伯母に預けたり着ていく服を決めるのに時間がかかったりしたからやった。
「ほんまにオレまでユイの卒業式に行っても大丈夫なんですか?」
「大丈夫! 大丈夫!」
「卒業式が済んだら、結婚パーティーなんやから! 堂々と出席してやって♪」
身内と言えばオレも彼女の身内なんやろけど、さすがにオレは何回も一緒に行って大丈夫なんかと、理緒さんと若先生に確認して手には緊張で汗をかいていた。
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卒業式の最中は緊張で目眩までしてしまって、彼女が卒業証書を檀上で受け取る姿はまるで夢でも見ているかのようなほんまにおかしな気分やった。
「誠二さん、緊張しすぎやわ!(笑)」
「すんません。どうもこういうのは、苦手やから……」
「そんなこと言うてたら、夕方から結婚パーティーやのに! もっと、緊張するんちゃう?」
理緒さんと若先生に突っ込みを入れられたオレは、夕方からの結婚パーティーのことを考えて余計に身体が強ばってしまった。
無事に式を終えた彼女は、友人たちと一緒に楽しそうに談笑しながら、校門の前で待っているオレを見つけて笑顔で手を振っていた。オレが彼女を見ている横から知った声がして見てみると、あのイケメンくんやった。
「何でおじさんが、卒業式に来てるんや? もしかして? 保護者なん?(笑)」
「うるさい! 一応やな、嫁さんになる彼女の卒業式なんやから、何もおかしなことやないやろ!」
「えっ!? それってほんまなん? い、何時や!?」
「今日や!」
イケメンくんがオレに向かって、案の定……言うやろうと思ってた嫌味なことを言うてきたから、オレもついつい腹が立ったから、彼が一番知りたくなかったことを教えてやったら、その場で地団駄を踏んで涙目になって悔しがっていた。
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そんなことをしている間に、彼女は友人たちと記念撮影を済ませて、オレのところまで走ってきて、スマホで撮った友人との写メを見せるとオレの横でまだ悔しがっているイケメンくんに声をかけていた。
「あ、八城も記念に一緒に写メ撮っとく?」
「ちょっ!? ユイ?」
「撮る! 記念でも何でもええわ! おじさんが撮ってや!」
「マジか? ……(苦笑)しゃーないな!」
想像もしてなかったであろう彼女からの笑顔での申し出に、イケメンくんは半分やけくそで答えながらも、まだオレに張り合おうと頑張っていたんやけど、それが何でかオレには可愛く見えて笑ってしもた。
「八城にもきっといつか良い彼女が見つかるよ!」
「お前……今日、結婚するんやろ?」
「そうやねん♪ あ、結婚パーティーに八城も来る?」
この、何とも言えない二人のやり取りを黙って見守りながら……。
女という生き物は、ほんま残酷な生き物なんかも知れんと……この時にオレは心からそう思って、イケメンくんにかなり同情してしまった。
さすがにイケメンくんも、結婚パーティーへの彼女からのお誘いには、顔をひきつらせながら丁重にお断りをして背中に哀愁を漂わせながら、友人たちのところへと戻って行った。
「今のは、かなり残酷やで!」
「そう?(笑)」
「確信犯やな? この悪女め!」
オレが彼女に突っ込みを入れたら、彼女はてへへと笑って舌を出して笑った。
「ユイ! 誠二さん! そろそろ引き上げて帰らんと、仕度あるやろ!」
「はーい! わかってる~♪」
「あかん、また緊張してきたわ。せっかく忘れてたのに……」
「別にそんなに緊張せんでもええのに。誠二さんって可愛いね♪」
結婚パーティーのことをまた、あれこれ考えて緊張してるオレを見て、彼女はクスクスと声をもらして笑いながらオレの右手を優しく握りしめていた。
「そや! ユイ、卒業おめでとう!」
「ありがとう~♪ 誠二さんに卒業式に来てもらえて、ほんま嬉しかった! ありがとうございます」
あらためてオレは彼女にお祝いの言葉を伝えてから、彼女の手を強く握り返してこの何とも言えない幸せな気持ちを噛み締めていた。