オレの本音
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彼女が卒業を迎える日が目前に迫っていた。結婚式は後回しにして先に卒業式の翌日に入籍することを彼女と話し合って決めていたけど、オレは未だに彼女にとってほんまにそれで良かったんかと、毎日のように自問自答を繰り返していた。
「せいちゃん、もしかして……まだ悩んでるんか?」
「あ、わかります? なんかね。いざとなると、ほんまにこれでええんやろかってね……。ユイが若いだけに考えてしまうんですわ」
仕事帰りに相棒を迎えに伯母の店に寄ったオレが、飯を食いながら溜め息をつくのを勘の良い伯母が見逃すはずがなかった。
「そこは、ユイちゃんやないやろ? せいちゃんに自信が無いだけやわ!」
「きっついわー! 比奈は相変わらずストレートやな!」
「こんなこと、オブラートに包んでなんかよう突っ込まんわ!」
「すんません……」
比奈に鋭い突っ込みを入れられてオレが苦笑してると、隣の席で飲んでいた健ちゃんがオレの背中を叩いて渇を入れてくれていた。
「誠二がしっかり、ユイちゃんを幸せにしてやればええだけや! 何も難しく考えることやない!」
「ほんま、そうですよね。しっかりせんとあきませんね! 情けないこと言うてすんません!」
「せいちゃんは、真面目過ぎるんや!」
的確なアドバイスを受けてオレは、ほんま自分が情けない男やとカウンターに突っ伏して凹んでたら、伯母がオレの肩をポンポンっと優しく叩いて慰めてくれていた。
「なあ、せいちゃん?」
「な、なんや? どうしたん?」
「ユイちゃんが結婚やめたいって本気でせいちゃんに言うて来たら、ショック? それとも……ホッとするん?」
これ以上は無いやろうというような、究極の質問を比奈にされてしまった。そして、オレはその時やっとハッと目が覚めた気がした。
「あっ!?」
「あっ!? じゃなくて、どうやの?」
「嫌や!! オレはユイと結婚したい!」
「良かった! やっと、せいちゃんの本音が出たわ♪」
比奈はカウンターの向こう側でニヤリとオレの顔を見て満足そうに笑っていた。
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オレはやられた! と言う思いでいっぱいやったけど、それと同時に自分で思っていた以上にユイがオレにとって、こんなにも大きな存在になっていることに気付かせてくれた比奈に感謝していた。
「オレが思うにはや、誠二は先に籍を入れることに疑問を感じてるんちゃうか?」
「あああ、そうかもしれん! それや!」
「やっぱり結婚式って女の晴れ舞台やろ? そやから誠二は責任みたいなもんをユイちゃんに感じてるんやろ?」
「健ちゃんすごい! 大人やわー! せいちゃん、そんなことで悩んでたんかいなぁー」
さらに追い討ちをかけて健ちゃんにオレのモヤモヤした気持ちの原因を指摘されてオレはぐうの音も出んかった。
「式のことは任しとき!! ちゃんと亜夜子ママとうちらで計画立ててるから、ユイちゃんには内緒にしとくんやで!!」
「計画って!? 陽子さん? 式ってオレとユイの?」
「そうや! 先に籍を入れるんもええかもしれんけど、やっぱり盛大に皆でお祝いしてからでもええやろ? 光江ちゃんとも相談して色々予定してるから、楽しみにしとき!」
「陽子さん、比奈、皆もありがとう~♪」
オレとユイが式を先延ばしにして籍を先に入れることを聞いた時から、伯母や比奈はオレとユイに内緒で亜夜子ママたちと結婚式の計画を立ててくれていたらしい。
「そらな! 男としてケジメみたいなもんもあるやろからなぁー。誠二が悩むんも無理ないわ!」
「そやけど、相変わらず不器用ちゅうか何て言うか……せいちゃんは、こういうのには頭が回らんみたいやね♪(笑)」
「オイオイ!! そこまでハッキリ言い切るなよ! 今のはだいぶ傷付いたわ~」
「あはは! ごめんごめん!」
比奈にハッキリとオレの欠点を指摘されて、大袈裟なリアクションをとってオレが座敷の方に倒れる振りをしたら、相棒が遊んでもらえると勘違いして嬉しそうに側に走って来て、オレの顔を見上げていた。
伯母や比奈と健ちゃんのおかげで、何とかオレは腹を決めることが出来た。これで何も迷うこと無くユイを嫁にもらえそうやと思ったら、家に帰るまでずっとオレはユイのウエディングドレス姿を思い浮かべて何とも言えん幸せな思いに浸っていた。




