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苦手なことと好きなもの

********


 彼女と一緒に暮らすようになって一ヶ月が過ぎようとしていた。卒業を控えた彼女は、最後の高校生活をしっかりと楽しんでいるようやった。オレも相棒も彼女との生活にはすぐに順応してそんなに不自由さを感じることも無かった。


 それと、この一ヶ月彼女と暮らしてみてわかった面白いことがある。これは、ほんま一緒に暮らしてみんとわからんことなんやけど。今まであまり知らんかった彼女の苦手なことや好きなものが、何となくやけど見えて来て…これがなかなか面白いねん。


「誠二さん? 今、笑ったやろ?」

「あ。いや……笑ってない。笑ってないで?」

「嘘や! 笑ってた!」

「クククク♪ アカンわ! ユイがあんまり面白いことしてるんやもん。笑わんとこって思うんやけど…ククク」


 料理は凄く得意な彼女の苦手な物は、アイロン掛けと裁縫やったみたいで、今も目の前でオレのカッターシャツにアイロン掛けしてくれてるんやけど、四苦八苦しながらやってる姿がついつい面白くて笑ったら、彼女がほっぺたを膨らまして怒って拗ねてしまった。


「ごめん! 悪かった。もう笑わんからそんなに怒らんと…」

「そんなに面白かったん?」

「面白いというか、ユイのその必死になってアイロン掛けを頑張ってる姿を見てたら、何か可愛いなぁーって思ってやな…」

「そんな風に誤魔化しても許してあげへん!」


 彼女はオレに向かって舌を出してあかんべーをしてから、それでもアイロン掛けは続けて何とか終わらせていた。


「これでも、だいぶマシになったと思うねんけど…まだ何か私のアイロン掛けっておかしい?」

「そやから、ユイの必死にやってる顔が面白いねん!」

「え!? 嘘? 私、そんなに変な顔してるん?」

「変じゃないで? 可愛いんやわ♪」


 使い終わったアイロンを片付けて、彼女がオレの横へ座って不思議そうに聞いてくるから、正直に教えてやったら彼女は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにして相棒を抱きかかえて笑っていた。


********


 そんな彼女が可愛くてオレが相棒も一緒くたに抱きしめたら、相棒に鬱陶しいと言わんばかりの表情でにらまれてしまった。


「チビちゃん抱っこしてるのに、そんなことするからチビちゃんムッとしてるやん!」

「そないにあからさまに嫌な顔せんでもええのに」


『ニャ~!』


 オレが相棒に文句を言うと、わかってるみたいに一声面倒くさそうに相棒はオレに向かって鳴き声を上げた。


「フフフフ♪ チビちゃんと誠二さんってやっぱり言葉が通じてるみたいに見える」

「そやろ? こいつ、オレの言葉の理解度がめっちゃ高いんや!」

「子猫の時からずっと一緒やから、わかるんかもしれへんね♪ チビちゃんはお利口さんやから」


 相棒には、何となく自分が褒められているのもわかるみたいで、満足そうに髭をピンとさせて尻尾をゆらゆら機嫌良さげに動かしていた。


 

 それから一時間程して、オレの足元で寛ぎ始めた相棒を見ながら、彼女は急に何かを思い出したように立ち上がった。


「あーーーー! 忘れてた。プリンが無かったんや~」

「プリン? ああ。いっつもデザートに食べてるやつか?」

「うんうん! 学校の帰りにコンビニで買って来ようと思ってて忘れててん。あーん。あれが無いと勉強が頭に入らんのに~」

「そうなん? プリンがそんなにユイの重要なアイテムやったなんて初めて知ったわ! ほんなら、今から一緒に買いに行こ!」


 プリン一つに大騒ぎしてる彼女に、オレが一緒にコンビニへ行こうと笑うと。彼女は嬉しそうにはしゃいでオレに抱きついて来た。


「ほんま、一緒に暮らしてみんとわからんことってあるな~」

「うん。私もそう思う……。ずっと一緒におらんとわからんことってほんまあるあるやわ!」

「まぁー。それに幻滅するんか、受け入れるんかでお互いの愛情の深さを確認出来るんかもしれへんな~」

「そしたら、誠二さんも私も受け入れてるからすっごく愛情深いんやわ♪ 良かった~」


 オレと彼女は寒空の中、仲良くコンビニでオレの重要アイテムのビールと彼女のプリンと相棒の猫缶を買って、少し雪のちらつく夜道をひと月一緒に暮らした感想をお互いに話しながら家路に着いた。


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