プライバシーと彼女
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同棲することが決まったことを、オレは一応オカンに報告しておいた。こうなったら、彼女が卒業したらすぐにでも結婚することを視野に入れておいてもらいたかったし、オレも同棲するということは色々と覚悟を決めないとアカンしね。
「そやけど。学校通ってて同棲ってバレたらやばいんかな?」
「それは、大丈夫みたい。親公認の付き合いやし、うちの学校は男女交際禁止とか無いし。フフフ」
「あー。それを聞いてちょっとホッとしたわ」
「あはは。せいちゃんは、心配症やなぁー」
伯母の店でユイちゃんとこれからのことを話してると、伯母にケラケラと笑われてしまった。
「誠二さんは真面目なんですよね。ものすご~く奥手やし」
「おいおい! ユイ! さすがにそういうのはここではやめとこ!」
「えーっ! 良いやん! 私はもっと聞きたい~♪」
「あかん! ママが一番アカンねん!」
オレとユイの会話を横で楽しそうに聞いていた亜夜子ママに気付いたオレがユイの口を塞いで止めたにも関わらず、ママはユイに体を引っ付けてこっそりと何かを聞き出そうとしていたので、オレは慌ててユイをオレの反対側の席へ座らせた。
「せいちゃんのケチ~! 少しぐらいいいじゃないの~♪」
「アカン! アカンで! ママに知られたら、次の日にはここの常連みんなが知ってることになるからな!」
「なんか、誠二さんがあんまり必死やから逆に話してみたくなるんやけど?」
「ユイちゃん♪ 話したかったら話しちゃって良いのよ~」
座敷に座ってたこうちゃんが、亜夜子ママの真似をして女言葉でユイを誘惑して来たので、オレはさすがにたまらんから座敷のこうちゃんの横へ座ってこうちゃんの首を後ろから軽く絞めてやった。
「冗談や! せいちゃん! ギブや!ギブギブ~!」
「頼むから、ユイを刺激せんといて! あいつ、ほんま何でも気にせず話そうとするからたまらんねん!」
「フフフフ♪ ユイちゃんは天真爛漫やからな!」
「褒めたらアカン! アカンで! 陽子さん!」
伯母にユイは天真爛漫と言われたことを褒め言葉ととらえて、嬉しそうにオレを見てニッコリと笑っていた。
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「明日のクリスマスイブはどうするん?」
「あ。ママが結婚相手と今日から新婚旅行に行ってるから、私は誠二さんの家に泊めてもらうことになってます」
「あーーーーーーーー!! ユイ。アカンって……」
「フフフフ。せ~いちゃん♪ 明日はムフフなクリスマスイブを過ごすんやね?」
亜夜子ママに上手いこと誘導されて、ユイは明日のクリスマスイブにオレの家に泊まりに来ることを皆の前で、正直に話してしまった。
「ええやん! せいちゃんも気にしすぎやで! 年頃の男と女が一つ屋根の下でするこというたら、誰かて知ってるわ♪」
「陽子さん。勘弁してください。オレ、純情やからわからへん」
「何を高校生みたいなこというてるんよ! ええかげん諦め! せいちゃんがなんぼ隠そうとしてもどこからか話は筒抜けなんやから♪ ここはそういう店やで?」
「比奈~! 頼むからやめてくれ! 全然冗談に聞こえへんやん」
オレが皆におちょくられて叫び声をあげてると、相棒が面白そうにオレの膝へ乗って来てオレの顔を覗きこんでいた。
『ミャ~ン! ミャ~ン♪』
「フフフ。チビも諦めって言うてるんちゃう?」
「あー。たまらん。マジでこの店ではプライバシーは無いんや」
「無い! そんなもん無いで! 酒飲むところでプライバシーなんかあるわけないやん!」
「皆、身内みたいなもんやしな! そやけど。ほんまに言うたらあかんようなことは誰も外へはもらさへん」
伯母は急に真面目な顔をしてそういうと、オレの横へ来てオレの背中をバシバシ叩いて笑っていた。
「そうやねん。マジで悩んでる家のこととか、言うて欲しくないことは誰も口にせえへんし、誰も外にもらさへんねん」
「そやから、せいちゃんも心配せんでええんやで?」
「ちょっと待って? それって…すでにもうユイが何か話したってこと?」
「うんうん♪」
結局……。オレの知らんところでユイはオレとのいままでの出来事をここで洗いざらい話していたようだった。
「それより、明日のクリスマスイブのパーティー! せいちゃんもユイちゃんと来てや!」
「えっ!? ここで?」
「そやで? 二人っきりになんかさせたれへんからな~♪」
「マジかぁ~!? 陽子さんにはかなわんわぁー!」
そんなこんなで、オレとユイは伯母たちに二人きりのクリスマスイブを過ごさせてもらえなかった。