結婚と将来の夢
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いつもの様に彼女が週末にオレの部屋に来ている時のことやった。彼女がオレに向かって急に胸に抱いた疑問を投げつけて来た。
「誠二さんは、私といつ頃結婚したいと思ってるの?」
「えっ!? なんで? いつ頃って……ユイがせめて学校を卒業せんとアカンやろ?」
「そやから、具体的に!」
「ほな、卒業して就職したらすぐや! もし、専門学校へ行くんやったら、専門学校を卒業して就職してからや!」
何か知らんけど、彼女があんまり答えをせかすからオレもちょっとヤケクソみたいに返事をしてしまったら、彼女は頬を膨らませて膨れっ面をして見せた。
「なんか、ヤケクソみたいに聞こえるねんけど? 今の本気?」
「そやかて、ユイがあんまりせかすからやで! 結婚は考えてるけどな、こういうことにはタイミングっちゅうか……なんかあるもんなんちゃうかな?」
「なんか? なんか?って何?」
「ようわからんけど、ずっと離れずに一緒におりたくてたまらんようになるっちゅうか……結婚せんとアカン!って思うときがあると思ってるねん」
彼女の質問にオレが必死に考えて思ってることを話してると、彼女はそんなオレに絆されたのか? クスクスと声を漏らして笑い出してしまった。
「笑うなんて酷いなぁー! ユイが最初に聞いてきたんやで?」
「ごめん。ごめん。フフフ♪ だって、誠二さん。なんか必死やねんもん。だんだん、おかしくなってしもて。フフフフフ」
「結婚はゆっくり考えたらええんや! まずは、ユイがしたいことをする。夢とかあるやろ?」
「誠二さんのお嫁さん♪」
オレの質問に彼女は屈託の無い笑顔で即答していた。そんな彼女がたまらなく愛しく感じて、オレは思わずギュッと彼女を抱きしめて彼女の唇に自分の唇を重ねていた。
「泊まっても良い?」
「ええけど……今日はなんかオレ……我慢出来んかも」
「わかってる……。でも、帰りたくないねん」
「わかった。ほな、家に連絡しときや!」
付き合い始めて半年が過ぎたその夜にとうとうオレは、我慢の限界が来てしまって彼女の卒業を待たずに彼女の初めてを奪ってしまった。
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翌朝。彼女は少し照れくさそうに笑って横で寝ているオレの首へ両手を絡めてそっとオレにキスをした。たしかに、母が言っていたとおりにあまり彼女が女子高生であるということをオレが気負ってしまうよりも、彼女が一人の女性であることを認めて付き合うほうが、オレにとっても彼女にとっても良いことなのかもしれないとなんかこの時、妙に納得してしまった。
「誠二さんには、夢って無いの?」
「えっ!? オレの夢?……考えたことないわ。平穏に暮らすことばっかり考えてきたからなぁー。つまらん男やろ?」
「そんなことない思うよ。平穏に暮らすことって大事なことやし」
なんかすごく彼女がその時、大人の女性にオレには見えた。やっぱり男よりも女の方が精神面の成長速度が速いんやね。
「子供の頃は? 何か、なりたいって思ってた?」
「ああ。子供の頃はあったなぁー。たしか、プロ野球の選手になりたかったんや!」
「プロ野球の選手? 野球好きやったんや!」
「死んだ親父が好きやったんや! いつもキャッチボールしてたんやで! そやけど、中学の頃に病気で死んでしもたから」
そうやった。オレが夢を見んようになったんは、親父が死んでしもてからやった。兄貴二人は高校行きながらバイトして家にお金入れて、オレも少しやけど新聞配達を手伝わせてもらってそれを家に入れて母を助けてたから、とにかく平穏に皆で暮らせたらそれでええって考えるようになっとったんやわ。
「ユイは? 何かやりたいことないんか?」
「誠二さんのお嫁さんが一番やけど。高校卒業したら専門学校へ行って動物病院の看護師、助手さんになりたいって思ってる」
「そうか、やっぱりちゃんとやりたいことあるんやな! 良かった。それがええ! 結婚は高校卒業してゆっくり考えたらええしな」
「ほんまに? 待ちくたびれて他に好きな人出来たりせん?」
ベッドに起き上がって座っているオレの膝の上に、彼女は腰を下ろすとすがるような瞳でオレを見つめていた。オレは質問には答えずに彼女をギュッと抱きしめて、しばらく彼女の肌のぬくもりを自分の肌に感じてその幸せを噛み締めていた。




