相棒の話と彼女の話
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彼女との交際を始めてから、さらに二週間が過ぎていた。特に何も変化は無く。平穏にオレも相棒も彼女も過ごしていた。手のひらサイズだった相棒もスッカリ大きくなって、もう少ししたら去勢手術をする予定になっている。大体の目安として犬歯が大人の歯に生え変わったら、手術をしても良い月齢らしい。
この去勢手術なんやけど……。若先生の説明によると、家の中だけで猫が一生を過ごす上で、必要不可欠なことだと若先生は熱く語っていた。特に雄猫は尿石症という病気にかかりやすいので、去勢手術をしておいたほうが、その病気の発症のリスクを抑えられるので手術が出来る月齢に達した飼い猫の飼い主さんには、必ず若先生は手術を勧めているそうや。
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相棒を連れて病院へ行った帰りに伯母の店に寄って、去勢手術のことを伯母に相談すると、伯母はニッコリ笑って若先生に任せておけば大丈夫やとオレに太鼓判を押していた。
「うちのがんももミケも避妊手術してもらってるから、発情して鳴いたりせえへんねんで! そやから、この子らもストレスにならんで済んでるみたいやねん。チビちゃんも出来るようになったら若先生にお願いしたら良いと思うよ」
「そうなんや。確かに、猫の発情期ってうるさいよな。オレの実家の猫も手術してたんやろか? そんなことオレ、気にしたこと無かったから、若先生に説明してもらえてほんま良かったわ。出来ればこいつには快適に暮らしてもらいたいからな!」
オレが相棒に対して思っていることを熱く語ると、伯母はカウンターの中でニコニコ笑って仕込みを続けていた。そのまま、オレと伯母が猫話に花を咲かせていると、絵美里を連れて比奈が店の戸を勢い良く開けて買い物から帰って来た。
「ただいま~! あ、せいちゃん来てたんや!」
「うん。ちょっと、チビの去勢手術のことをな! 陽子さんに相談しててん。自分で猫を世話するんは、オレも初めてやしね」
「ああ。もう、去勢手術の話を若先生したんや。まぁ、 賛否両論やけど、うちも手術はしてやったほうがええと思うよ」
比奈も伯母と同じでがんもやミケの様子を見ていても、避妊や去勢手術は必要やと思うと親身になって話してくれていた。
店の開店時間になったので、オレは相棒を連れて店を出た。伯母と比奈は土曜日なんやから、もう少しゆっくりしていけと言っていたけど、家でオレは相棒とのんびりするからと遠慮させてもらった。
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オレが家に帰ると、すぐにスマホに彼女からメールが届いた。オレは相棒をキャリーから出してやりながら、そのメールを急いで確認した。
[病院の手伝いが終ったので夕飯の買い物してから行きますね♪]
先週の土曜日から、彼女は土曜日の夜だけという約束で夕飯を作りにオレの部屋へ来ることになっていた。これは、彼女の母親からの提案で、これは花嫁修業なんやと彼女は笑っていた。彼女の母親は本気で娘をオレの嫁にする気でいるようやった。それに付け加えて驚いたのが、彼女に母親はもしもの時のためにと『避妊具』を娘に持たせていた。彼女も彼女でそれをオレに見せて「母親公認やからね」と言って笑っていたことにもオレは驚きを隠せなかった。
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そして、彼女のメールに返信をしてオレが部屋着に着替えて洗濯物を取り込んでいると、部屋の鍵を開けて彼女が帰って来た。
「こんばんわ♪ というか、ただいま? でも良いのかな? なんかちょっと、新婚さんみたいやね♪ フフフ」
「はいはい。おかえりー♪ おつかれさん。別に『ただいま』でもええんちゃう?」
「ほんなら、おかえりの……」
彼女は荷物をテーブルに置くとオレの首に両手を絡めて背伸びして唇をそっと重ねて来た。あの日からこれ以上の行為には到ってないけど、オレが隙を見せると彼女はすぐにキスをしてくるようになっていた。三年前に付き合っていた彼女はどちらかというとこういった行為には淡白な方やったから、かなりオレは対処に悩んでいる。なんといっても彼女は女子高生やからね。
「ほんまにオレが我慢出来んようになっても知らんで!」
「良いもん。ママも成り行きに任せれば良いって言うてるし」
「それが余計に怖いわ。なんか、試されてるような気がするし」
「良いねん。成るようにしかならへんでしょ?」
オレの脅しに怯みもせずに彼女はクスクスと笑ってもう一度キスをしてから、夕飯の『肉じゃが』の支度を始めた。オレは彼女の後姿を眺めながら、マジで彼女を押し倒してやろうかという思いと葛藤していた。このままじゃ、オレの方が童貞男みたいで情けなかったしね。