プロローグ
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気がつくと……。ペロペロと顔を何かになめられていた。寝ぼけながらも、そいつを右手で触るとフワフワしている。そして小さくて温かい。こいつはなんやろ?
『ミャーン……』
耳元で鳴き声を聞いてオレはさすがに一気に目が覚めた。
「何や? 何や? 何で子猫?」
驚いて声をあげているオレの目の前には、手のひらサイズの虎柄の子猫がちょこんと座って鳴き声をあげていた。
「ちょっと待て……。腹減ってんのか? 減ってるよな?」
オレは子猫相手に話しつつ、状況を頭で整理しながらも起き上がって冷静にキッチンへ行くと。冷蔵庫を開けて牛乳パックを取り出していた。
『ミャーンミャーン』
子猫はオレの後をチョコチョコと付いて歩いてくると、尻尾をピンと立てて何かを期待しているようだった。
「冷たいままは……さすがにアカンよな?」
実家におった頃は猫を何匹か飼っていたので、こんなオレでもなんとなくは世話のしかたは身についている。本当なら牛乳もあまり与えたくはないけど、猫用ミルクが無いので……。仕方なく人肌に温めてお皿に入れて床へ置いてやった。
幸いやったんは、今日が休日ということ位かな?
昨夜は溜まり溜まった仕事でのストレスをヤケ酒で発散するという寂しい独身男の集まりに参加して、確かにオレはこれでもかというほどに酒を飲んで泥酔していた。
それから、帰りにあの公園のベンチでちょっと休んで……。
「あ。あの時や!」
昨夜のことを思い出して、ついつい大声を出してしもたら、ミルクを飲みながら子猫が少しビクッとして毛を逆立てていた。
酔い覚ましにと思って、公園のベンチに少し横になってオレが休んでたら、この子猫がオレの懐へ入ってきて……。そや。そのまま連れてきてしまったんやった。
オレがことの次第を思い出して子猫の方を見ると、子猫はミルクのおかわりをお皿の前に座って小さな長い尻尾をパタパタさせて待っていた。