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姉ちゃんとの夕食に来た奴は。


あれから30分経った今も、姉ちゃんは黙ったままだった。姉ちゃんと俺が会っても会話しないなんて、滅多にない。姉ちゃんは視線をそらすばかりで、沈黙が続く。それが妙に居心地悪くて耐え切れず、俺は立ち上がりキッチンに向かった。



「あなたは、人間よ」



俺がお茶を飲んでいるとき、姉ちゃんが口を開いた。俺はお茶を一気に飲み干した。



「奏斗は、ただの人間。みんなと同じ人間」



まるで姉ちゃんは、自分に言い聞かせているように言った。

俺だって、そんなことは分かっている。けど、仁希から言われたときなぜか”そうだ”って思った。否定じゃなくて肯定してしまった。



「なら……いんだ」



仁希が言っていた言葉は本当か分からないけど、このことは聞いてはいけないと思う。それに、あの言葉を真に受ける方が可笑しいのだ。どうかしていた。

俺はリビングに戻り、ソファーに座った。まだ、姉ちゃんは目を逸らしたまま。



「姉ちゃん、どっか食べに行かない? ちょうど腹減ったし」



会話を変えようと、俺は違う話題を振った。姉ちゃんは、ゆっくりと振り向きいつも通りの笑顔を見せた。



「ええ、そうね。今日はイタリアンの気分だから、あそこの店に行きましょ」

「あそこの店って、どこだよ…… 」



姉ちゃんは、カバンを持ち玄関の方にスタスタ歩いて行っている。俺は慌てて財布を持ち、玄関に向かった。





”あそこの店”というのは、駅前にある三ツ星のレストランだった。値段もそこそこ高い。でも、まあ姉ちゃんにとっては、ある意味100円のバーガーを買う感覚だろう。俺も前はそうだった。前というのは、俺と姉ちゃんが一緒に暮らしていたとき。つまり、親が離婚していないときだ。

父さん、白桜(はくおう) 伶蒔(れいじ)は白桜グループのトップ。白桜グループは様々な企業に携わっていて、俺が通っている私立白桜学園も白桜グループによって建てられたものだ。つまり、金持ちというわけだ。姉ちゃんは、父さんに引き取られたからあの馬鹿でかい家に住んでいるのだろう。


俺は、店のなかで一番安いパスタを注文した。別に家が貧乏なわけではない。私立白桜学園に通えるのだし。私立白桜学園は、まあまあ金持ちの人達が通う学校。でも、なかには学力で入った奴もいるらしい。



「ねえ、奏斗。聞きたいことがあるのだけれどーー 」

「お待たせいたしました。魚介入りトマトソースパスタとイタリアンカルボナーラです」



姉ちゃんの言葉を遮り、俺と姉ちゃんが注文したパスタが店員によって運ばれた。

俺はフォークにパスタを巻きつけ、それを口に運んだ。



「お母さん、元気? 」



突然、姉ちゃんの口から母さんの言葉が出たから驚いた。そういえば、姉ちゃんは母さんと最後に会ったのは8年前ぐらいか。



「多分、元気なんじゃない? 」

「何よそれ。一緒に住んでいるんでしょ? 」

「母さんとあんま顔を合わせてないからさ。家には帰ってきているんだと思うんだけど、夜遅くて…… 」



俺はフォークに巻きつけすぎたパスタを、口いっぱい広げ食べた。

別に、寂しいわけじゃない。俺は母さんのことがあまり知らない。何の仕事をしているのかとか、好きな物や趣味とか。知らないことがありすぎて、母さんがいないように思えてしまう。例え、会ったとしても母さんだ!なんて思えないだろう。



「 ……そう。あと、もう一つ聞きたいのだけど仁希に最近会ったかしら? 」



危うく飲んでいた飲み物を吹き出すところだった。

言うべきなのか?……いや、言わないない方がいいだろう。もし言ったら、姉ちゃんに詳しく聞かれそうであの話に戻ってしまう。



「いや、会ってないけど」

「そう、ならいいーー」

「あれー? レナ先輩と奏斗君じゃないか。偶然だね〜 」



このゆるい喋り方。こいつは……



「仁希……。あなた何しに来たのかしら?」

「レナ先輩、何そんな怒っているんですか? 」



姉ちゃんが怒っているのに対して、仁希はヘラヘラと笑っている。

そういえば、前から姉ちゃんは仁希を敵視というか嫌っていたよな。まあ、性格は正反対って感じするしな。真面目で、表も裏もなさそうな真っ直ぐな姉ちゃんに対して仁希は、何を考えているか分からない不誠実な感じだ。



「あっ、ちょうど良かった。先輩、奏斗君借りますね」

「えっあの、ちょっと! 」



仁希は俺を自分の胸に引き寄せた。また、この展開。本当なんなんだよ、この人は。



「仁希、あなたいい加減にしなさい? おふざけも良いところよ」

「ふざけてなんか、ないですよ? 先輩、その過保護さも限度ってものがありますよ」



俺もそう思う。仁希の言葉に、俺は思わず頷いてしまった。

その時、姉ちゃんの真っ黒なオーラーが後ろから感じた。やばい、やばい。何とか、この場を鎮めないと。



「ねえ、奏斗君。今日はスイって子はいないのかい? 」



仁希は、俺の耳元で小さな声で聞いた。姉ちゃんには、聞こえていないようだ。



「いませんけど…… 」



何でそんなことを聞くか気になった。だって、スイは関係ないだろう。何で急に、スイが出てきたんだ?



「それは、ちょうどいいや。じゃあ先輩、奏斗君を借りますね」

「に、仁希! 」



仁希は、真っ直ぐ俺の瞳を見た。何か企んでいるかのような、笑みを浮かべた。そして仁希は、俺の顔に手を近づけた。



「Please sleep well 、奏斗君」



仁希がその言葉を発した瞬間、まぶたが急に重くなった。

眠りにつく瞬間、姉ちゃんの声と仁希の笑い声が聞こえた。


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