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耳元で囁いた言葉は。


日曜日。昨日のことが嘘みたいに、平凡ないつも通りの朝。

テーブルの上にあるサンドイッチを口に入れる。



「これ、奏斗が作ったの? 」

「いや……違う」



何となく、母さんと言いづらかった。母さんとは、ここ何年も顔を合わせていない。だから、たまに本当に母さんはいるのか?とか、このサンドイッチは本当に母さんが作ったのか?とか考えてしまう。そういえば、スイは母さんのことを知っているのか?……いや、知るわけないか。



「あれ、スイどっか出かけるの? 」



首元にリボンが付いた真っ白な膝丈のワンピース。いつも下ろしていた髪をポニーテールにし、まるでこれからデート行くみたいな格好だ。



「うん、今日大切な用事があるんだ」

「大切な用事……か」

「時間、たくさんかかるから先に寝てていいよ」



大切な用事。しかも、時間がかかる。これは……もしや、デートってやつか⁉︎



「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」



白いヒールの靴を履いて、スイは家を出て行った。






「んっん〜、寝てたのか」



スイが出かけた後、俺はいつの間にかソファーの上で寝てしまったらしい。窓に目をやると、空はオレンジ色に染まっていた。



「そういえば、スイと出会ったあの日もこんな感じだったよな…… 」

「スイって誰なんだい? 」



突然、声が聞こえ胸をどきりと音を立てた。恐る恐る振り返ると、そこにいたのはクリーム色の髪をした、あの王子様だった。



「あっ、仁希さん。何でここに…… 」

「それは秘密。それより、ボクの質問に答えてよ奏斗君」



それよりって……。これは、立派な不法進入だろう⁉︎



「単なる同居人ですよ」

「ふーん、そうなんだ」



仁希はニヤリと笑い、俺の側にゆっくりと歩み寄ってくる。そして、俺に覆い被さるように身体を乗り出した。仁希の手は相変わらず白く、その女の子のような白い手が俺の頬に触れた。



「キミは、幸せだね」

「どういう意味……ですか? 」



ていうか、これどういう状況だよ⁉︎ 何で俺は仁希に押し倒されているんだよ。

仁希は、俺の動揺を察したのかクスッと笑った。



「キミは何も知らない。だから、先輩を……いや何でもないよ」



仁希は一瞬怖い顔をしたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。



「何も知らないって、どういう意味なんですか? 」

「知りたいのかい? 」



何となくだけど、言葉では説明できないけど知らなきゃって思った。なぜか、それを知れば全て分かるような気がした。スイのこととか、母さんのことや姉ちゃんのこと。

俺は深く頷いた。



「けど、これは秘密にしておくように言われてるんだ。 だから、ボクが言ったというのは秘密にしておいてくれれば教えてあげる」

「分かりました」



仁希はフッと笑い、俺の耳元で小さな声で囁いた。



その言葉を聞いた瞬間、嘘だと思った。仁希は、俺から離れ嬉しそうに笑った。



「キミが嘘にしたいなら、嘘にすればいいんだよ。ボクの言葉を信じるかは、キミ次第なんだからさ」



仁希はそう言いドアの方に歩いて行き、バタンとドアの閉まる音が聞こえた。


仁希言った言葉。

それは、キミは悪魔。詳しくは姉ちゃんに聞けって……。俺は悪魔なのか?って聞くなんて単なる頭が狂ってる奴だろう。聞けるわけない。聞ける勇気なんてない。

悪魔なんて信じるわけないはずなんだが、なぜか何かが心に引っかかって簡単に信じないわけにはいかなくなる。何か忘れている。何か……何かを忘れている。思い出せ、思い出せ。心なかで誰かがそう叫んでいる。






ーーピンポーン


不意にチャイムが鳴る。

誰が来たのだろう?視界が右左と揺らぎながらも、ドアに向かう。



「はい、どなたですか? 」

「私よ、白桜レナ」



姉ちゃん? 何で俺の家知ってんだよ。教えた覚えもないし、連れてきた覚えもない。

俺はゆっくりとドアを開けた。白のフリルがついたブラウスに、黒のフレアスカートのお嬢様スタイルの姉ちゃん。



「奏斗、どうしたの? そんな顔を青くしーーって奏斗⁉︎ 」



突然、身体が重くなった。動けない。


姉ちゃんに支えてもらいながら、俺はソファーに横たわった。

そうだ、姉ちゃんに聞きたいことがあるんだ。でも、なんて聞けばいんだ? でも、知らないと知らなくてはならない。



「姉ちゃん、俺ってさ……一体なんなの? 」



俺の言葉を聞いた瞬間、姉ちゃんはもともと大きな瞳をさらに大きく開き視線をそらした。


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