保健室で出会った女の子は。
周りからの冷たい視線。
女子達の黄色い声。
ひそひそと話す人達。
「最悪だ……」
「どうしたの、奏斗? 」
「いや、姉ちゃんは関係ないよ」
俺が姉ちゃんと会いたくない原因は、ブラコンの事ともう1つある。
それは、今の状況だ。
姉ちゃんは、美人で人柄もよく頼れる存在であり尚且つ生徒会長で勉強,運動もできる。
姉ちゃんは完璧過ぎるんだ。
それは昔から思っていた。昔から姉ちゃんは何でもできた。ピアノやバイオリンとか何でもこなしてきた。
だから……
俺は姉ちゃんが嫌いだった。
周りから姉ちゃんと比べられ、哀れみの目で見られてきたから。
「ねぇ、奏斗。もうあの人とは関わらない方がいいわよ」
「何の話? あの人って」
「仁希の事よ。会ったでしょ? 」
あぁ、あの王子様か。
「あー、うん。何でだよ? 」
「……あなたに……悪影響を与えるから」
あ、姉ちゃんイラついている……か悩んでいるな。
姉ちゃんの癖。怒っているか悩んでいる時に人の事を”あなた”と呼ぶ。
てか悪影響って何だ?
仁希が俺に悪影響を与えるってどういうことだ?
「まぁ、とりあえず奏斗は仁希と関わらなければいいのよ。……それじゃあ、私はこっちだから」
と姉ちゃんは、3年生の校舎に向かった。
俺は1人、新しいクラス2-cに向かった。
白いドア。このドアノブを、左に引き教室に足を入れた瞬間から、俺の高校2年生の生活が始まる。
”よし、1年生ではなぜか出来なかった彼女を作るぞ! ”
と意気込んだ3秒後、俺は視界が真っ暗になった。
「ん……」
目をゆっくり開けると、見覚えのある天井が見えた。
あぁ……ここ、保健室か。
起き上がり、辺りを見回した。
右はカーテン、左には女の子がいた。
ん……?
「お、女の子⁉︎ 」
隣には女の子が寝ていた。
いやいや、何でだよ。
てか何で俺は、保健室にいるんだよ。
あ、もしかして貧血で倒れたのか?
それでこの女の子が、心配してくれたのか。
「あ、目が覚めたのね」
目を片手でこする彼女は、
キャラメル色のボブパーマに
右に赤色のピンを2つさしている。
そして、
ぱっちり二重のクリクリのまつ毛。
「その……」
「ん? 」
「っ……! 」
彼女は突然、驚いた顔を見せた。
「そんな睨まなくてもいいじゃない」
「睨んでねーよ。ただ、目つきが悪いだけだよ」
「あっそ。てか私にとって、そんな事はどうでもいいのよ」
どうでもいいって……
彼女は突然立ち上がり、吸い込まれそうな大きな瞳が俺を真っ直ぐ見つめていた。
何だが妙に緊張してきた。
「ご、ごめんなさい。あなたを突き飛ばしてしまって、本当にごめん」
彼女は深く頭を下げ言った。
「いや、いきなり謝れても、何があったのか説明してくれないと……」
「仕方ないわね……」
彼女説明してくれたことをまとめるとこうだった。
どうやら俺は貧血で倒れたのではなく、
女の子が俺を心配して側にいてくれたのではなく、彼女は俺に謝罪するためにいたそうだ。
彼女が俺に謝罪する理由。
それは、ある男子と口論になり突き飛ばした時と同時に、俺は運悪くドアを開けてしまいその男子と一緒に突き飛ばされたらしい。
あぁ……
なんて運が悪いんだろう?
俺は強く頭を打ち、気を失って倒れた。
新学期そうそうついてない。
「その……だから、関係ないあなたを巻き込んでしまったのは悪いなって思って」
「まぁ、いいや。俺は三咲 奏斗。えっとー……」
彼女はそっぽを向いて言った。
「春川 綾乃よ」
「よろしく、春川」
俺は仁希と同じように手を出した。
春川はその手を見たが、
くるっと後ろを向き俺の側から離れていった。そしてカーテンを閉めた。
「ホームルームは9時からよ。でも、先生が”しばらく安静にしときなさい”って言ってたから休んでなよ」
バタンと大きな音を立て閉まるドア。
静まり返る部屋。
春川……綾乃。
1つだけ気になることがあった。
何であんなに必死に謝ってたのだろう?
心配というよりは焦りを感じた。
まぁ……別にいっか。




