愛する者
勢いで書きました〜
おかしい点が多々あるかもしれませんが、よろしくお願いします
「なあ、リーニャ」
自分の口がそう言った。
「なんですか〜?」
テーブルの反対側にいる女性、リーニャさんがそう返した。
僕の口は少しの間動く事はなく、何かを考えている様だった。
「‥‥‥リーニャにも会わせとくか。隠し通すなんて、無理だしな」
僕の口が、つまり魔王はそう言った。
ドン、ともう慣れてきた、胸を軽く押す様な衝撃の後、自分が表にいることに気づく。
目の前にはリーニャさんという魔王の妻が。
‥‥‥何を話せばいいのか分からない。
おほん、とわざとらしく咳払いをして、言葉を選んだ。
「ええと、僕はこの体の持ち主だった高坂咲人と申します」
まずは自己紹介だろうと思い、そう言った。さりげなくこの体は元は僕の物なんですよ、と伝えた。いや、さりげなくでは無いな‥‥‥。
すると、リーニャさんはクス、と笑い、笑顔で言った。
「どうしたんですか?あなたが冗談を言うだなんて珍しいですね」
ぐ、通じていない‥‥‥。
「つ、つまりですね。魔王が僕の体に取り付くまでは僕は普通の高校生として‥‥‥じゃなくて、人間として暮らしていたんです。それが、ある日魔王に体を乗っ取られて」
何から話していいのか分からず、そう言う。言ってから気付いたのだが、この言い方だと魔王がとても悪く聞こえる。いや、迷惑を被ったのは間違いではないので良しとしよう。
「‥‥‥ダーティ?」
「ダーティ‥‥‥?じゃなくて、高坂咲人です‥‥‥えーと、よろしくお願いし」
ます。までが言えなかった。
それは‥‥‥リーニャさんが、怒っていらっしゃる。どこをどう見ても目が笑っていない。
にしてもダーティ、とは誰の事だろう、と考えたが、すぐに理解した。
『‥‥‥』
中で、あいつがとても深刻な事になっているからだ。いや、顔は見え無いので何となく、なのだが。
「え、何、どういう事?」
僕は何故、リーニャさんが怒っているのか、何故、魔王が項垂れているのかが分からなかった。
『悪い、また変わるぞ』
「あ?ああ」
僕が表にいた時間はおよそ1分ちょっと。なにこれ短すぎる。
再び胸を軽く押されるような感覚を体験し、自分が裏へと移動したことを確認した。
「リーニャ‥‥‥」
「‥‥‥あなたは今、ダーティですね?」
「そうだ、ダーティ•ブライズ。本人だ」
そう、魔王が言うと「そうですか‥‥‥」とリーニャさんはとても冷たい真顔になった。
と、同時に、左頬に強い衝撃が走った。その反動で、頭が右を向き、リーニャさんの顔は見えなくなった。
平手で叩かれたんだと気づくのには少し時間がかかった。
「‥‥‥見損ないました」
僕も、いきなりのことでパニックになっていたが魔王は、もっとショックを受けたに違いない。
「‥‥‥リーニャ、話を聞いてくれ」
「‥‥‥貴方は、他の王候補者達と違って優しい人でした。市民にも分け隔てなく接することのできる人‥‥‥。だから私は貴方に惹かれました。素敵な人だな、と‥‥‥なのに!」
リーニャさんは魔王の言葉には耳も貸さず、そう言った。目には涙を浮かべ、その両手は僕の、魔王の肩をギュッと握り、微かに震えていた。
だが、このおかげで何故リーニャさんが怒っているのか、悲しんでいるのか理解できた。
ーー魔王を、ダーティ•ブライズを愛しているからだ。
「‥‥‥私は、今まで何かの副作用や呪いで、その姿になっているのだと思っていました」
「‥‥‥リーニャ」
「ダーティ、貴方はその方の人生を狂わせたんですよ‥‥‥なぜ‥‥‥」
そう言ってリーニャさんは地面に膝をつき、声を抑えながら泣き始めた。
‥‥‥羨ましいなあ。
僕は、そう思ってしまった。
こんなにも自分を愛してくれている人がいるっていうのは、どんな気分なんだろうか。
僕も、そんな人と出会えたらいいな‥‥‥。
『‥‥魔王、変われ』
そう言うと、返事は無言だった。
イエスかノーか分からなかったが、胸を押す、いつもの衝撃があった。
「リーニャさん」
「あなたは‥‥‥」
「‥‥‥高坂咲人です。正直に言います。僕は魔王に体を乗っ取られて、とても迷惑でした」
そう言うとリーニャさんは暗い顔になって「すみません‥‥‥」と、顔を伏せた。
「‥‥‥でした、です。今は、目的があります。元の人間として生活していたら、知れない真実がありました。だから、僕は」
そこまで言ったのだが、続く言葉がなかなか出てこなかった。
悩んだ末、こうするしかなかった。
とても久しぶりだった。女の人の頭を撫でるのは。
「‥‥‥高坂‥‥さん」
「頑張りますから、大丈夫です」
自分らしくなく、少し笑いが込み上げてきた。




