もう一人の
深い森の中、1人の男が叫んだ。
「いたぞ、ヒト型だ!女だからって手ぇ抜くなよ!」
「了解です!」
15人ほどの鎧を装備した男達が、そう声を上げた。それぞれ己の武器を持ち、馬に乗っている。
彼らの目線の先には、1人の女性がいた。何とも挑発的な格好をしている。攻撃的な意味ではない。性的に、である。胸の谷間あたりが大胆にあいた鎧を着ていた。
女は、白銀のとても長い髪に透き通るような紫の瞳。手には不釣り合いな巨大な斧が握られていた。
「よし!かかれ!」
「おおぉぉ!」
リーダーと思われる男の声を引き金に、男達は馬で女性に猛接近して攻撃を仕掛けた。
「もらった!」
剣を振り上げ、そう言った男の1人に対して、女は言った。
「やっと、見つけた」
繋がっていそうで繋がっていない会話は、少し男達を動揺させたが、振り上げた剣は止まることなく女性へと振り下ろされた。
と、男達は全員そう思った。が、振り下ろされたのは剣ではなかった。
馬に乗っていた男自身だった。
剣はガランと鈍い音を立て、地面に転がった。
「がぁっ!」
馬から落ちた拍子に肩を強打した男は直ぐに動くことができなかった。
「ねぇ、あなた?」
女の艶めかしい声が、痛みでうずくまっていた男の耳の近くで発せられる。
「戦士が召喚されたって、ほんと?」
その声を聞いた瞬間、男は直感した。背筋は凍り、自分の心そのものが、この女によって支配されるような感覚が襲ったからだ。
この女は、ヤバイ。
「隊長!総員退避を!」
男が発したその言葉の重みを、隊長の男は直ぐに汲み取れた。
馬から落とされた自分を、この命を、無駄にするな、と。
「‥‥‥っ。総員退避!退避だ!」
ダダダ!という馬の足音が遠ざかっていく。
「あら、お帰りになるの?まあ、いいや。他には興味無いし」
「‥‥‥殺すなら、さっさと殺せ」
取り残された男は、そう言った。
「やっぱり、いい眼をしてる。い、いただきます」
男はぐっ、目を瞑った。死を覚悟したからだ。それは、男にできる最大限の悪あがきだった。
が、男を襲ったのは痛みでは無かった。
「むぅっ?!」
男の唇に、女の唇が重ねられていた。
何かの魔術か、と男は思ったが、そんな事は何も無かった。
ただの口づけ、だったのだ。
男は力で振り払らった。
「ぶはっ‥‥‥、何のつもりだ」
「何のつもり‥‥‥イヤだった?」
キョトンとするその顔は、どこからどう見ても人間そのものだが、こいつは違う。
「もっと、可愛い子だったら喜んでたかもな」
そう言って男は落ちていた剣を拾い、女に向かって構えた。
すると、女は少し拗ねたように下を向いた。
「‥‥‥アーシャの嘘つき」
アーシャ‥‥‥?誰だ‥‥‥?
気になったが、そんな事はどうでもいい。
こいつをどうするか、それが最大の問題だ。正直1人で勝てるとは思えない。いや、まず人間でこいつに勝つ事は出来るのだろうか。
そう、考えていると女は下を向いたまま言った。
「‥‥‥諦めないもん」
その言葉の意味は分からないが、ピンチは変わらない。
何も出来ない、殺される。こんなのは人間の勝てる存在じゃない。人間としての本能が、この存在を怖がっている。
「はぁ‥‥‥Vine of rose」
女がため息の後言った台詞の後、女の右手から刺々しい蔓が出現し、体に巻き付いた。薔薇の蔓なのか、所々に真っ赤な薔薇の花が付いている。が、刺々しいのは見た目だけなのか、不思議と痛くは無い。
「‥‥‥はぁ」
女はまた、ため息をついた。
「どうするつもりだ」
「連れて帰る」
捕虜、という訳だろうか‥‥‥。
「俺はお前らが欲する様な有益な情報は何一つ持っていない。その行為は無意味だぞ」
「‥‥‥はあーぁ」
女はまるで聞いておらず、下を向き、トボトボと歩き始めた、それに引っ張られ、俺も歩く。
「ねえ、リュージュ」
「‥‥‥なんだ」
もはや、この女が俺の名前を知っている事にすら驚く事はない。
「‥‥‥なんでもない」
なんだそれは、という言葉しか出てこない。女はまだ拗ねたような顔をしている。
「ばか」
「‥‥‥何処へ行くつもりだ」
この女の話には付いていけない。
「はぁ‥‥‥」
女はまた、ため息をついた。前を歩く女の、その白銀の髪は歩く度に揺れ、後ろを歩く俺のすぐ前を白銀に染めていた。
「綺麗な髪だな」
あいつも、そうだった。本当に綺麗な髪だった。あいつが今の俺を見たら、なんと言うだろうか。こんな泥だらけの鎧姿で、無様に敵に捕まって。
俺は‥‥‥っ。
「リュージュ‥‥‥」
‥‥‥情けない‥‥‥。
このハイスクールオンラインのもう一つの主人公?です。
リュージュ君をよろしくお願いします。




