思いを行動に
シリアスがこれから続きます。
「おーい!霧崎さーん!」
私がフリスタスから次の街へ出発しようとしていた時、ふいに後ろから声をかけられた。
「沙羅さん‥‥‥」
「霧崎さん、もう次の街に行くの?」
「‥‥‥ええ」
この子とは少し、気まずい。
高坂咲人。彼女はこの男性の名前を私に聞き続けてきた。
でも、私はそんな人を知らない。それは仕方の無い事だ。
そう、なのだが、彼女はとても見ていて辛い表情をする。仕方の無い事だと分かっていても、申し訳ない気持ちが溢れてきてしまう。
「そっか‥‥‥ねえ霧崎さん」
「何、かしら」
「現実世界にいた時の事、覚えてますか?」
少しだけ悲しそうな顔をして、沙羅さんはそう言った。
「ええ、覚えているわ」
「じゃあ、高校2年生になって、新しく席が隣になった人の事とか‥‥‥」
新しく、席が隣になった人‥‥‥?
「‥‥‥」
当たり前の様に分かるだろうと思ったが、記憶に無い。
「ごめんなさい。それはあまり覚えてい無いわ。それに隣になったといってもたった少しの間だけだったから」
「‥‥‥そう、ですか」
そう言って、沙羅さんは下を向いてしまった。
「それも、高坂咲人‥‥‥という人なの?」
「‥‥‥霧崎さんは、自分でそう言っていました」
‥‥‥私が?
「覚えていないわ‥‥‥ごめんなさい」
私がスルトからレイクヘッドへと戻った後、沙羅さんや椿さん達にほとんど泣きながら高坂くんがどこにいるか知りませんかと尋ねられた。
事の発端は、私がスルトにいた時、高坂咲人から沙羅さんに〈スルトで霧崎に会った。相変わらず一人だった〉というメッセージが届いていた。私もそのメッセージも見せてもらった。確かに高坂咲人という人から送信されていた。どういう人なのか知らないがとても余計なお世話だ。そして、そのメッセージの続きに〈で、霧崎と一緒に行動する。帰る時もおそらく一緒に帰ると思う。予定通りに絶対帰る。レベル上げ、がんばれ〉という文があった。
このメッセージに書かれている霧崎とは、もちろん私の事なのだろう。
私は混乱した。私は知らないから。
記憶がなくなっているの‥‥‥?とも考えたが、あまりにも現実から離れているその考えには、納得する事ができなかった。
この一件以来、沙羅さんとはゆっくりと話をする事がなかった為、私からも聞きたい事ができてしまった。
「‥‥‥どんな、人だったのかしら」
どことなく、気になってしまう。
私はあまり男子が好きではない。いや、女子もそうなのだが。
というのも、私はコミュニケーション能力が少しばかり乏しい様だ。
かといって、別に人と話す事に緊張したり、恥ずかしいという事はない。私は単純に、人に興味がないのだ。
「ん‥‥‥ひまわりみたいな人、かなぁ。美化しすぎかもしれないですけど」
そう言って沙羅さんは少し笑った。
「ひまわり‥‥‥?」
「そうです。良くも悪くも、性格が捻くれてるのも含めて、真っ直ぐな人だと‥‥‥」
「‥‥‥そう」
沙羅さんは少し顔を赤く染めて、そう言った。
というより、性格が捻くれてるのなら真っ直ぐでは無いのでは‥‥‥と思ったが、それは高坂咲人に失礼だと思い、心にとどめた。
「はい」
懐かしむ様な、やはり悲しい様な、そんな目をした沙羅さんにやはり、心が痛んでしまう。
「‥‥‥本当、ごめんなさい」
「あ、いえ‥‥‥霧崎さんも、辛いでしょうし」
「‥‥‥そう、かしら」
「そうですよ。きっと」
私は、高坂咲人の存在を知っていた時の私は、彼が突如消えてしまったら悲しんだのだろうか。
今は、分からない。
『‥‥‥本当、なのか?‥‥‥』
「嘘を見せても仕方ねぇだろ。事実だ」
魔王は、そう言った。
『じゃあ‥‥‥みんなは、何の為に‥‥‥』
「もう分かってんだろ」
『‥‥‥はは、どうなってんだよ』
「どうもこうもねぇ、止めるしかねぇんだよ」
『‥‥‥おい』
「分かってるっつの。その代わり、いいか、これからお前にも協力してもらうからな」
『当たり前だ』
ドン、と胸を押された様な軽い衝撃を体に感じた。
「久しぶり‥‥‥か?」
自分の意思で高坂咲人の腕が、口が、体が動く。
すると、不思議な感覚が発生した。体の内側から声がする。
『あ、意思の入れ替わりは俺からしか操作できねぇからな』
‥‥‥むぅ。




