戦士の目醒め
ついにここまで書けました〜
引き続きよろしくお願いします
「‥‥‥そうか、魔王が‥‥‥」
顔に深いしわと長く白いひげが目立つ老いた男性はそう呟いた。
その声を聞いた妙齢の女性が返答した。
「どう、なさるおつもりですか」
「どうするも‥‥‥〈戦士〉を、送り出すしかないだろう‥‥‥」
それを聞いた別の老いた男性は、はあ、と溜息をつきながら言った。
「何を言うか。我々人間が倒せる魔物といったら精々イノシシレベルでは無いか‥‥‥魔王なんぞ何百人で行っても倒せる訳なかろう」
こめかみに手を当て、何かないかと模索する。我々人間ではどうすることも出来ない。魔王が復活した今、もはや手だてはないのか‥‥‥
いや、待て‥‥‥。
「奴らは、使えんのかね」
「奴ら、とは誰のことでしょう」
「‥‥‥決まっとるだろう。あの化け物どもだ」
あの忌々しき化け物共は、我々人間が手も足も出なかった魔物をあっさりと倒して行った。今ではスルトやカフト周辺の野や草原は商人たちが心配なく通れるようになったと聞く。
「そうですわね‥‥‥では、彼らの中から選出を?」
「ああ、それしかあるまい」
「で、だ。どうやって選ぶつもりだ。奴らは大量にいるぞ。素質のあるものを選ばねば」
それが問題である‥‥‥何を基準に選ぶのか‥‥‥。
「現在、彼らはシグルーンとフリスタス付近に、中でも強者達が集まっているらしいですわ」
「そうか‥‥‥」
さて、どうするかの‥‥‥。
思わずフッ、という笑みがこぼれる。が、ここにいる2人は気づく事はなかった。
まだ、ほとんど人が見当たらないフィールドに、その草原に似合わない銃声が響く。
今のレベルは21。もうフリスタスに滞在するレベルではなくなった。このフリスタス付近のフィールドの敵も、苦戦をすることは無い。
ただ問題なのは、このフリスタスから先のフィールドではスタン効果(麻痺効果)を持つ攻撃をしてくるモンスターが多数出現する。
私は1人だ。スタンになってしまったら、仲間からの補助も受けることができない。スタンには一層気をつけなければ‥‥‥。
前に、誰かにも忠告された気がしたが、どうでもいいなと思い、頭から振り払った。
「キエェェ」
色々と考えているうちに、巨大なアリ型のモンスター〈ビッグアント〉を難なく撃退した。ビッグアント、とはまた安易なネーミングだ。
ビッグアントはレベル14の敵だ。前に一度戦ったMBクイックゴリラと同じレベル。といっても、HPも技の強さもクイックゴリラには及ばない。
日がほとんど沈み、辺りが青暗くなってきた。草原の緑が空の青暗い光に当てられ、なんとも言えない色になる。
戻ろう、と街の方へ足を動かした。
その瞬間
「キシャャャャャァァァッ!!」
鼓膜が破裂しそうな、けたましい鳴き声が背後から響き渡った。
「ーーっ!」
振り向いた瞬間、目に入ったものは
「MB.ジャイアント・アント‥‥‥」
ゲームの頃には嫌という程戦った覚えがある。が、やはり実際に見るのではその大きさに恐怖する。その黄色と黒色の入り混じった色をした体を動かし、私をターゲットとしたのが分かった。
そんな考えを振り払い、銃を構えた。恐れるな。私のレベルがあれば倒せるは‥‥‥ず‥‥‥。
「レベル‥‥‥26‥‥‥?」
‥‥‥ゲームの頃はレベルは20程度だったはず‥‥‥。
「っ!」
敵が、腹部についている針で私を器用に突いてくる。それを横に飛び、回避。このまま逃げれるか‥‥‥
そう、考えた瞬間、背中に衝撃が走った。
「うっ」
首だけを後ろに向けると、ビッグアントが私の背中へ体当たりをしていた。私のHPゲージがわずかに減少したのが目に入る。
「しまった‥‥‥っ」
背後のビッグアントに気を取られ、はっとして正面に向き直った。すると
目の前に、黄色と黒色の、巨大な蟻の頭。
「シャャャャッ!」
避ける間も無くジャイアントアントの噛みつきを貰ってしまった。またもHPゲージが減り、残りが8割程になった。
‥‥‥らしくない。いつもなら、こんな事には‥‥‥。
そう思った時、私のHPゲージの隣に奇妙なマークが存在した。
ーースタンッ?!
ピリ、と静電気が発生するように体が痺れる。ゲームの頃はジャイアントアントはスタン攻撃は持っていなかったのに‥‥‥
体が、動かない。
スタンの効果はゲームの頃だと約5秒。その時間耐えれば‥‥‥。
ジャイアントアントが有無をいわさず私の右腕に噛み付いた。
独特の痛みが右腕を襲い、思わず顔をしかめる。この世界の痛覚は現実の痛覚に比べたら随分と楽だが、痛いものは痛い。
HPゲージは残り7割となった。
あと、3秒。
さらに攻撃は続き、背後のビッグアントからの噛みつき、ジャイアントアントからの突き刺しで、HPゲージが残り5割近くまで減った。
あと、1秒‥‥‥よし、スタン回復ーー
おかしい。HPゲージの横のスタンマークが、消えない。
体は、依然として動かなかった。
残り、4割弱‥‥‥。
早く治れと願っていると、その意思に反してもう一匹、ビッグアントが私をターゲットにした。
さっきまでに比べ、HPの減るスピードが速くなる。
まさしく、ソロ殺しという奴だ‥‥‥。
残り、1割。
目の前が真っ白になった。
こんなところで、死ぬの‥‥‥?
でも、やれる事はやった。仕方ない‥‥‥仕方ない。
私、頑張ったよ、褒めて、くれるかな。よくやったって。また、頭撫でてくれるかな。
「私、頑張った‥‥‥よ。さ‥‥と」
Ashamed(情けない)
Your power is not such a thing
(あなたの力はそんなものではない)
You will notice
(もう、気づいているでしょう)
go out of there
(そこから出るのです)
To follow the place
(その場所を、守るために)
「ーーー」
蟻に囲まれていた女は、目に淡い青色の光が宿り、装備していた漆黒の防具が消滅した。消滅して出現した青白い光の粒子は、彼女の体へと吸い込まれるように巻き付き、新たな防具へと姿を変えた。メタリックブルーの装飾が入った光り輝く白色の鎧が彼女を包み込んだ。
持っていた拳銃は、その代わりに彼女の鎧と同じ色の光り輝く剣が握られていた。
蟻達は、彼女に見惚れた様にその様子をジッと見つめているだけだ。
「I am a sacred soldier」(私は聖なる戦士)
「Get a sacred single blow」(聖なる一撃をくらえ)
「Distance of the light!」(光の彼方へ!)
目を見張るほどの光が剣から発せられ、叫びと同時に横に振るった。




