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ハイスクール•オンライン  作者: みまたく
59/71

あなたは

引き続きよろしくお願いします〜

「前衛A!後ろに下がって回復!その間中衛B、前へ!」

私の前から男の鋭い指示が飛ぶ。私は、手に持っていた拳銃に弾を込め直しながら敵を見た。

サーペントクワイヤ。巨大な蛇の形をしたそれは、今までフィールドで戦ってきたどんな敵よりも大きい。

ボスモンスターなのだから当たり前と言ったら当たり前なのだが、ディスプレイ越しに見るのと実際に目の前にするのでは訳が違う。それに加えて、歌っていてとても不気味だ。

「とめろとめろぉぉっ!」

前衛Aパーティの屈強な男たちが、盾で敵の攻撃を受け止める。

「やああああぁぁっ!」

「はあああっ!」

そして、女子の声。飛び出したのは細剣を持った女子と片手槍を持った女子。

片方は白銀に染まった細剣で目にも留まらぬ速さで10連撃を行った。その空間に、綺麗な白鳥座の形が刻まれる。

もう片方は灰色に染まった片手槍を巨大化させ、遠心力を利用しながら器用に振り回す。

「やっぱ、すげえな‥‥‥」

誰かは分からないが、中衛の誰かがポツリと声を漏らした。

「空音ちゃん、片桐ちゃん!もう一発いけるっすよ!」

また、前から鋭い声が響く。その声の主の持つ片手剣は黄金色に染まっていた。

そして、まるで翼でも生えているかのように、高さは5メートル以上ある敵の目へと片手剣を突き刺した。

「了解!」

その女子2人の息のあった返事が聞こえる。

「お、俺たちも攻撃するぞ!」

「おおぉ!」

士気が上がったのか、男たちの野太い叫び声がさらに響いた。

各々、称号スキルや基本スキルを使い、攻撃を始める。

2人の短剣使いの女子が、敵の尻尾の辺りを素早く動きながら切りつける。

「月華!」

また、女子らしくは無い鋭い声で叫ぶ者もいる。長い黒髪をポニーテールにしているその女子は、細い両手剣を横に振り、衝撃波の様なものが敵に命中する。

「はははははははっっ!散れ散れ散れぇぇ!!」

ある男子は狂ったように短剣を両手に持ち、乱舞を繰り広げている。

ひとしきりスキルを発動した後、指揮を飛ばしていた男子が叫ぶ。

「毒霧くるぞ!範囲内の者は解毒薬準備!範囲外の者は噴射後の硬直時にスキルを叩き込め!」

「了解!!」

その返事を待ったかのように、サーペントクワイヤの口から毒々しい赤紫色の霧が噴射された。

少量のダメージとヴェノム効果が付与される。

前衛と中衛の一部は、あらかじめ指示通りに解毒薬を準備していた為、ヴェノム効果もすぐに回復した。

その間に、中衛の残りと後衛は各々スキルを叩き込んだ。

私も、スキルを発動させた。銃口の少し先に黒い光の球を形成。口を開けたまま硬直しているサーペントクワイヤの口の中にその光の球をすっぽりと入れた。

「ファイアー」

誰にも聞こえないであろう声が自分ほ口から出る。

その瞬間、その光の球はサーペントクワイヤの口の中で巨大な爆発を起こした。

「ギェエエエエエッッ!」

耳をつんざく呻き声がサーペントクワイヤから発せられる。

ボスのHPは円状になっていて、それが全損すれば勝ちだ。現在、残り6割といったところだ。

そのHPが私の攻撃だけで1割以上も削れる。

「き、霧崎さん?それ連発はできないんですか?」

隣で弓を射ていた眼鏡をかけた男子が恐る恐る話しかけてきた。

「それが出来ればこんなに苦労しないわ」

「そ、そうですよね。すみません」

なぜ謝るのだろうか。悪い事をした訳ではないのに。

「硬直終わるぞ!前衛は盾を!」

「あいよぉ!」

ほとんど前衛Aパーティの声しか聞こえないが、威勢の良い返事が前衛から返ってくる。

「取り巻き班!問題はないか?」

「‥‥‥問題ない。気にするな」

とても低い声が取り巻き班から返ってくる。

「そうか、無理はしないでくれ!よし、このペースで行くぞ!俺も中衛に加勢する!」

指揮をしていた男子が中衛の方へと駆けて行った。




約10分後、サーペントクワイヤは最後まで歌を途切らせることもなく、消滅した。

ボス部屋は今や互いを讃え合い、笑顔になる者で一杯になった。

「MVPは‥‥‥君か、霧崎ちゃん。まあ納得だな」

細い両手剣を背中ではなく腰にある鞘に戻しながら1人の女子が話しかけてきた。笹森一葉だ。

「ボス討伐成功、おめでとうございます」

「うむ、犠牲者も出なくてよかった」

「ええ、そうですね」

皆、安全マージンをこれでもか、というほど取っていたのでそこまで危ないと思うところはなかった。

「みんな、ありがとう!早速スルトに行ってくるよ!」

草葉が涙目で私達を見ながらそう言った。

スルトにフレンドがいればメッセージを飛ばして事を伝えればいい話なのだが、草葉からするとそうもいかないのだろう。

希望を与えるという大きな大きな願いは少しだけだが、今実現した。

「高坂くん‥‥‥どうして‥‥‥」

沙羅さんがボソッと呟いた。

「沙羅ちゃん、それは‥‥‥外では言わない約束ですよ‥‥‥」

椿さんも、沙羅さんの肩に手を置きながらそう言った。

「バカ咲人‥‥‥」

「‥‥‥」

鳴海さんも、苦々しく言う。片桐さんも何も言わないが、そう思っているのだろう。

この人達、リーティさんや笹森さん、桜庭さんなどが言う〈高坂咲人〉とは誰なのだろう。

私がレイクヘッドに戻った時に、皆に「高坂くんはどこ?」と聞かれた。私は「誰かしら、その人は」と答えるしかなかった。

信じられない、といった顔をされたが、知らないものは知らないとしか言えない。

私と同じブラックシーズを着ていて、童顔で、デュホークブレイドを装備している男子。

そもそも信じられないのが、沙羅さんたちが言うに、そのブラックシーズもデュホークブレイドも私が彼へ譲ったものだと言う。

私が他の人へ自分の物を譲る?‥‥‥そんなことがあるだろうか。

「‥‥‥ごめんなさい」

しかし、どうしても彼女たちの顔を見ているといたたまれなくなり、足早にボス部屋を去った。

次の街へ続く道を、一番乗りで歩く。

「誰なの、あなたは‥‥‥」

心の声がぽろっと出てしまい、自分でも少し慌てたが、聞いている者は勿論いなかった。

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