戻り、そして
長らくお待たせしました。
ここから、私が本当に描きたかった部分となります(前も言いましたっけ?笑)。
次はなるべく早く更新いたしますのでよろしくお願いいたします!
もちろん感想やご指摘、誤字脱字の報告でもなんでもお待ちしております。
「貴様、どこの者だ?その服も初めて見るな」
腰に帯びている刀に手を置きながら男は言った。
というか、こいつ誰だよ‥‥‥。
「俺も聞きたいな、お前誰だ」
扉はまだゴゴゴ、と開き続けている。相変わらず時間がかかる。
男は額に青筋を立ててこっちに詰め寄ってきた。
「貴‥‥‥様!私を知らないだと?!ふざけるなよ、役職と名を申せ!この下郎!」
ちょっと、唾が飛んでるんだけど‥‥‥。
「あ、あの」
アケネがその男に恐る恐る話しかけた。
「邪魔をするな!使用人ごときが私に話しかけていいと思っているのか!」
そう言って男はアケネを手の甲で思い切りはたいた。パァン、と大きな音が響いた。
「も、申し訳ございません」
「全く‥‥‥身分をわきまえろよ」
男は、はぁ、と大袈裟に溜息をついてみせた。
「おいお前」
「なんだ、貴様はいいから早く役職と名を申せ!処刑するぞ!」
ゴンと後ろで扉が完全に開いた音がした。ヒュウ、と冷たい風が体を通り過ぎる。
そして一言。
「魔王だ」
「‥‥‥は、ははは、ははははは!ふざけるなよ!!」
何がおかしいのか、いきなり笑い出した後剣を抜き、綺麗に装飾がされたその剣を俺の首にピタリと当てた。
「もうよい。今殺してやる!」
「‥‥‥その剣でか?」
男はニヤリと笑う。
「そうだ、この剣は我がランヌオ家の家宝だ!どんな攻撃からも耐え、最強の強度と魔法吸収能力を備えた最強の剣である!」
よくしゃべる奴だ。
「魔法吸収、か」
「そうだ、どんな魔法もどれだけでも吸い取り我が力とする!」
そう言って男はククク、と笑う。
魔法吸収。あまり聞いたことがないな‥‥‥少し試してみるか。
人差し指をその剣にちょん、と当てる。
その瞬間、剣が内側から紫色に一瞬光った。
そのあと、パキン、という軽快な音が人差し指の先から聞こえた。
「‥‥‥本当に魔法吸収能力あんのかそれ」
パラパラとその剣の欠片が地面に落ちる。
「あ、ああああああああ!」
半ば発狂しながら男は地面に落ちた欠片を一つ一つ急いで集めだした。
「す、すまん」
罪悪感に駆られ、謝ってしまった‥‥‥。
「な、何をしたお前!あの紫の光は!‥‥‥紫の光?」
男の顔が面白いようにスゥ、と青くなっていく。
「紫の光‥‥‥暗黒魔法‥‥‥使えるのは‥‥‥っ!?」
目をカッと見開き、俺の顔をまじまじと見た。
「ま、ま、まま魔王、様‥‥‥?」
「‥‥‥いかにも、だ」
あ、ちょっと偉そうかなと思ったが偉いんだから良いだろう。良いよね?
「お、お許しを!」
おお、土下座。こんな綺麗な土下座は初めて見たな。
「よい。で、お前は誰だ」
「わ、私、ランヌオ家の後継、ランヌオ・セシスと申します」
ランヌオ家‥‥‥?聞いたことがないな。まあいいか。
「そうか。ああ、剣については悪かったな」
「い、いえ」
うーむ、完全に怯えてるな‥‥‥。
「それ、貸してみな」
「‥‥‥は」
セシスは折れた剣の柄を膝をつきながら差し出した。
それを右手で握り、目を瞑る。
「魔王様‥‥‥?何を‥‥‥」
アケネの声が聞こえた。
「んん、結構複雑な流れだな。でも、まあ大丈夫だろ」
頭の中に浮かぶ幾つもの線の中から、一つの線に光が灯る。
それを確認し、左の人差し指で剣の柄に触れた。
「お、おおお‥‥‥っ」
目を開けると右手には完全に元の形に戻った剣が握られていた。
「え、と何を‥‥‥?」
アケネが目を瞬かせ、こちらを見ていた。
「魔法の流れを読み解いて、元の剣の状態へと復元しただけだ。訓練すりゃ誰だってできる」
剣はセシスへ返却した。
「は、はぁ‥‥‥」
いまいち理解できていない様子のアケネは置いておくとして、セシスに聞くとしよう。
「セシス、リーニャが何処にいるか知らないか」
セシスは剣が戻った嬉し涙を浮かべながら、膝をついたまま言った。
「リーニャ様‥‥‥。ああ、センヒーズ家のご令嬢ですか。おそらく街のご自宅へおられるかと」
やっぱりか‥‥‥前は魔王城に入り浸ってたからなぁ。紛らわしい‥‥‥。
「分かった。礼を言う。ああ、セシス、魔法力学を深く勉強するといい。魔法の流れを読み解く練習をな」
「は、はっ。ありがたきお言葉」
堅いなぁと、吹き出しそうになるのをこらえる。
「アケネ」
「ひゃ、ひゃいっ?!」
「夕飯時には戻る。その時に美味いお茶を頼むよ」
「は、はい‥‥‥」
その返事を聞いて、開きっぱなしになっている扉と向き合った。
「本当、久しいな」
姿も変わった。声もだ。本当の魔王だった頃の面影は殆どないが、俺は今、此処に戻ってきた。




