進む、進んだ
少し笑みを浮かべて霧崎が口を開いた。
「怒ってはいないわよ」
怒ってるだろ。だってその笑顔超怖い。
「ひ、一つ言わせてもらうとだな。まだ10分もたってないだろう。そんなに怒ることも」
「怒ってないわよ」
依然と笑みを浮かべたまま霧崎が言う。僕のライフはゼロよ!もうやめて!
「‥‥‥すまん」
何でローイとその母親の前で公開処刑されてるんだよ‥‥‥。恥ずかしいんだけど。
「三回よ」
「‥‥‥は?」
霧崎が無表情になり呟いた言葉の意味が分からず、思わず聞き返した。
「あなたがいなかった間に三回も男子から声をかけられたわ」
「え、なに。自慢かよ」
いきなりなんの話だよ。僕が一回も女子から逆ナンとかされたこと無いからなの?嫌がらせ?
「私がこういうのを嫌うのは知ってるわよね?今日言ったものねカーキ君?」
「まあそりゃ覚えてるけどさ。それと僕がどんな関係があるんだよ。あとカーキ君って何だよ」
そう言うと霧崎は少し、ほんの少しだけ顔を赤くして言った。
「‥‥‥あなたがいるとそういうの無くなるでしょう」
「お、おおう」
‥‥‥こういうのやめてほしい。何て返せばいいのか分からないし。中学生の時とかも女子に「この髪型似合うかな」って話振られた時も「お、おお」としか言えなかった。なんて答えれば正解なんだよ‥‥‥。
あとカーキ君って何だ。全身カーキだからだと思うけどそういうのイジメに繋がるからやめた方がいい。あれは小学校の時、全身真っ赤の格好で行った時も散々いじられた。
「あら?あらあらあら。修羅場かしら〜?」
ローイの母親が子供のような顔で霧崎とローイを交互に見る。その後に僕を見てこう言った。
「二股はバレないようにしなきゃダメだよ〜?」
「誤解に誤解が重なってますよ‥‥‥僕はどちらとも付き合っていませんよ」
そう言うがローイの母親はまるで聞いておらず、霧崎を見ながら笑顔で言った。
「お茶もう一人分持ってくるわね〜」
霧崎は無表情のままだが、どこか柔らかい表情になった。
「ありがとうございます」
ローイも母親のマイペースに懲りたのか笑顔で肩をすくめた。
その後少しだけローイ達と雑談をした。この世界のこと、ローイの子供の頃のアルバムを見たりした。この世界にも写真があるのかと知った。それと現実世界のことを話した。勿論法律については触れなかった。
みんなで店の中で和んでいると外から女子の甲高い叫び声が聞こえた。
「キャーーーッ!!」
霧崎がいち早く駆け出し、僕はそれに続いた。
店の外に出ると50メートルほど先で人だかりができていた。僕も霧崎も迷いなく走り出し、すぐにその人だかりに到着した。
「くそ、人で見えない‥‥‥」
人がとてつもなく集まっていて何が起きているのか分からない。何が起こっているんだよ‥‥‥。何か事件でも起こったのか‥‥‥?未だに集まっている人たちはキャーキャー叫んでいる。
どうするか考えていると霧崎がぐっとしゃがみ、翔んだ。
「‥‥‥は?」
3メートル以上を地上から飛んだ霧崎は人だかりの中心に華麗に着地した。
確かにAGIを上げればゲームの頃ではとても早く走れたし高く飛べていた。この世界でもそうなんだろう。しかし、この世界では飛ぶのはアバターでは無い。自分自身だ。女性の垂直飛びの平均はおおよそ60センチ位だったはず‥‥‥。普通に考えて約5倍以上飛ぶのは怖いだろう。
シン、と突然の乱入者に全員が静まり返った。僕はその瞬間を逃さず人混みを分けて前に進んだ。
「あ、すいません。通ります」
なんとか中心にたどり着くことができた。
「ん、え?」
事件、なのかも知れないが何が事件なのか分からない状況。
その中心には大人びた感じの男子が立っていた。しかしNのマークは出現しないので僕達と同じ高校生だろう。
「誰‥‥‥?」
「さあ‥‥‥」
霧崎に問いかけても霧崎も分からないのか、首を軽く曲げた。
その瞬間、周りの人たちが僕と霧崎に詰め寄ってきた。
「ちょっと!なんなの?!」
「勝手に入ってこないでよ!」
よく見るとほとんど女子しかいない。
「え、なに?どういうことですか?」
その女子に戸惑いながら聞くも返事は
「いいからどいてよ!」
だった。そのまま押され押され、輪の外にはじき出された。
「いたっ」
ええ、何これ。意味が分からない。
「あんたも誰よ!勝手に割り込まないでくれる?」
「え、ええ」
霧崎も訳が分からないと言う様に輪から出てきた。
「‥‥‥よく分からないけど事件とかじゃ無さそうだったな」
「ええ‥‥‥」
そう言って2人でまたジーラの薬草屋へ歩き出した時、機械音のような声が聞こえた。
「ナニヲシテイル」
「は?」
「ナニヲシテイル」
周りを見回すも、その声の主は見つからなくかった。
「霧崎か?」
「なんの話かしら?」
霧崎は足を止め、顔をこっちに向けた。
「いや、さっきの声だよ」
「声‥‥‥?」
霧崎にしては珍しいキョトンとした顔があった。空耳かな、と思った瞬間。
「 」
「ガアアアぁぁぁッ?!」
頭の中でこだまする声、というより音がいままでに体感したことの無い痛みを発生させた。それは体の中であらゆるものが暴れまわるような感覚だった。
叫び声を上げた瞬間、僕は気を失った。
とある一室、と言うには広すぎる部屋の中。そこは薄暗く、如何にも妖しい雰囲気を出している。
「なあなあ、本当にこれで目醒めるのか〜?」
体格は小さく、声もまだ幼い男が言った。
「そうじゃないと困るわ」
その問いに胸元だけ大胆に開けた鎧を着た女が足を組み替えながら返えした。
「そうともさ。目醒めなければ此処は終わりだよ」
髪がとても長い中年の男が赤色の液体の入ったグラスを回しながら言った。
その三人を少し見下ろす位置にいた女が、目を閉じ、静かに言った。
「早くお目醒めを‥‥‥魔王様‥‥‥」
やっと書きたいところまで書けましたです〜。
これからもよろしくお願いします。




