意外な
とても長いです^ ^
「おぉ?かわいーじゃん。あとで一緒に遊ばねー?」
霧崎を一目見て気に入ったのか、リョータがおちゃらけたように言う。
その返事として霧崎はウフフ、と笑い言った。
「冗談は顔だけにしたら?貴方レベルが私と釣り合うわけないでしょう。生まれてきてから一度も鏡を見たことないのかしら?」
う、うわぁぁ。ちょっと僕でも引くぞ、霧崎。あとその笑顔、怖い。
リョータはよくわからない顔をした。
「おぉ‥‥‥。じゃねえ!絶っ対あとでヤってやるからな!お前ら、こいつさっさとやっちまえ!」
なぜ最初感銘受けた風だったんだよ‥‥‥。
「お、おう!いい加減死ねよっ!」
霧崎に見惚れていたのか、取り巻きの返事がワンテンポ遅れたが、すぐに剣をふる。
「くそ‥‥‥っ!」
相手の片手剣をはじき、リョータに向かおうとするが直ぐに邪魔が入る。さっきからこの繰り返しばっかりだ。どうにかしなきゃ‥‥‥。
「それは情けのつもり?」
そんな僕を見かねてか、霧崎が口を開いた。
「どうだろう、なっ!」
返事をしようとするがそんな暇を殆ど与えてくれない。数が多すぎる‥‥‥。
はぁ、と霧崎はため息をつき、さっきよりも棘のある声で言った。
「自分で自分の性格を言ってみなさい」
どういうことやねん、と突っ込みたい!しかもそんな暇ないって!
相手の攻撃を必死に捌いていると、ドンッという発砲音がビルに響いた。
僕も含め、全員の動きが止まった。その音は、まるで「これ以上動いたら撃つぞ」という意味が込められている気がしたからだ。
「早く」
その言葉はさっきの質問の答えを要求しているという事にはすぐに気づいた。
「そ、その質問になんの意味があるんだよ」
「そんなの、私が知っていればいいのよ」
どんな答えだよ‥‥‥。
「早く」
2回目の要求が僕に突き刺さる。
「いや、流石に恥ずかしいだろ。これなんの罰ゲーム?」
こんなの現実でも経験してないっ。いや、経験あったらあったで怖いけど。
「っ、いい加減にしろよ!なんの話してんだよ!」
リョータが痺れが切れたのか、自分の片手剣を床に突き立てながら怒声を上げた。
その声には霧崎が答えた。
「少し黙って」
「は‥‥‥」
SYUNSATSU!漢字二文字をローマ字の大文字にしたら多分カッコいい。リョータはあんぐりと口を開けて動かなくなった。霧崎恐るべし。
「早く」
「‥‥‥馬鹿だよ。本当」
「喧嘩を売ってるのかしら?」
「おい、そうじゃないっての。ちゃんと答えただろ」
霧崎はまたもはぁ、とため息をついた。
「そんな事はもう分かってるわ」
え、さらっと超失礼なんだけど。
「ま、そういう事だよ。はい、質問終わり!」
「‥‥‥そう」
それから霧崎は口を開かなかった。
「すまん、続けていいぞ」
まだあんぐりと口を開けているリョータに言う。が、全く聞いてないようだ。しばらくしてリョータはボソッと声を漏らした。
「‥‥‥かっけぇ」
え‥‥‥?俺かっこいいこと言ったかな。やっぱりどんな人に言われても嬉しいな。でもちょっと照れるな、うん。
そのあと言葉を続けるようにリョータが言った。
「女でそこまで言える奴、いるんだな」
「リョータッ?!」
明美とその取り巻きが仰天したように言う。ついでに僕の純情も返して欲しい。
「いやー、うん。名前は?」
若干霧崎が引きつつ、顔を歪めながら言った。
「霧崎、咲子」
いや、名前言うだけでそんな嫌そうな顔すんなよ‥‥‥。
「咲子さんか‥‥‥。世の中って広えなぁ」
そう言ってリョータはどこか遠いところを見ながら少し涙ぐんだ。
「え、これどういう状況?け、決闘は‥‥‥?」
誰に聞いていいのかわからず、僕の目は霧崎に向いた。
「ちょっと、私に聞かないでくれる?」
「いやいや、感服したぜ‥‥‥姉御」
姉御とか生で初めて聞いた。言う奴いるんだなぁ。
「その呼び方やめなさい。絶対よ」
霧崎の切り捨てる態度にも負けずリョータはビシッと気をつけをした。
「了解です!ほら、お前らも!」
「え、え?」
「オラ!早くしろ!」
「お、おう!」
そう言って俺と明美以外がビシッと並んだ。ホントこれどんな状況‥‥‥?
「ちょ、リョータ。ど、どしたの〜?」
明美が未だ信じられないような顔をしながら話しかけた。
「明美、俺はなぁ、憧れてたんよ。女頭って奴によ」
そう言ってへへ、と笑う。うん、かわいくないよ。それを聞いた明美はワナワナと震えながら僕を指差した。
「な、なにそれ。じゃあこいつは?こいつだけでもさぁ!」
「今から俺は姉御の言うこと以外は聞かねえ。どうします?姉御」
霧崎は依然と姿勢を変えないリョータを見て、本日3回目かのため息をついた。
「その呼び方止めてないじゃない‥‥‥。戦う理由があるならやればいいわ」
「ないです!ムカついただけなんで」
‥‥‥正直にどうもありがとう。
「り、リョータ〜、ホントどうしちゃったの〜?ここ来た時とかはマージでカッコよかったよ〜?ほら、こいつらやったらあの件もさ」
明美はまだ状況が掴めていないのか、言葉を並べる。あの件、とは抱かせるうんぬんというやつかな。
「もう卒業した。俺は今から真っ当に生きる。姉御のためにも!」
「な、なにそれ、意味わかんないし‥‥‥」
明美が正に意味不明という顔をした。安心しろ、僕もだ。
「私のために生きられても困るのだけど‥‥‥」
霧崎は無表情だが、どこか疲れた様な顔で言った。
「待ってくれ。えーと、リョータか。お前は何があった?15分前とキャラ変わりすぎだろ」
「あ?キャラ?意味わかんねーよボケ」
あ、変わってなかった。あと僕に当たり強くない?気のせい?
「私も知りたいわ。あなた何?正直言って気持ち悪いわ」
その切り捨てる様な霧崎の言葉に、リョータは何か話し始めた。
「はい、俺は昔見たドラマに憧れてヤンキーやってました。でも、なーんか違うなっつか‥‥‥。俺ぁ、自分の命張れるよなでけぇ器持った人を探してたんす」
ほうほう‥‥‥。命って、ちょっと重いよ、君。
「どいつもこいつも弱え。眼力もねえ、喧嘩も弱え、女は媚びを売るしかしねぇ、まあ明美は同じ目線で話してくれてたんで最初は気に入ってたす。こんな奴もいるんだなって」
こんなセリフ僕は一生言う事はないだろう。完全に強者のセリフである。だが、僕はそれを羨ましいとは微塵も思わなかった。
「けど、こいつも途中からは媚びしか売れなくなりやがって‥‥‥。女はみんな、そうっした」
どこか、リョータは辛そうに話す。おい、なんか実はいい奴でしたみたいな空気になってない?取り巻きの何人かに至っては涙ぐんでる。
「チッ、この腰抜け!」
明美が叫んでビルから急ぎ足で出て行った。
「‥‥‥俺と対等に、それよりか上から、モノ言える女が、欲しかった」
ほほう。だが言いたいこともある。
「ちょい待て、お前僕に多数で攻撃してきただろ。強いんなら1人でやりゃ良かっただろ」
さっきの話からするとこいつ、喧嘩が強いんだろう。プライドも高そうだ。じゃあなぜ多数で攻撃してきたのかが疑問だ。
「あぁ?うっせーよ」
おう、カチンときたよ。かっちーん。
「答えなさい」
霧崎がいかにも面倒くさそうに言った。おつかれさまです、あねご。
「うす、まあここ訳わかんないですし、もしかするとそいつがレベル10とか超えてる様ならヤバいっすからね。まあ、ねえと思うすけど」
おい、さりげなく馬鹿にしたな?お?
残念だったな、13だ!やーい!と言ってやるつもりだったが、霧崎がクスッと笑った。
「正解ね、そこの人レベル12よ」
「そこの人って‥‥‥今は13だ」
ぼくのなまえしってるよね?
「ま、マジですか?!どう見ても雑魚キャラじゃないすか‥‥‥」
散々な言われようである。現実でも言われたことないのに。
「もう僕の事はいいって。だけどな、お前は飲酒に喫煙をしていた。これは犯罪行為だ」
こいつがどんな奴かなんて正直どうでもいい。やっていることが間違った事をしているかどうかの確認はしておきたい。
「これ酒じゃねーよ。この世界で買ったんだよ。それにタバコはふかしてただけだし」
酒じゃなかったのか‥‥‥。確かに酒臭い匂いはしないな‥‥‥。だが、タバコに関しては見逃せない。
「ふかすな、と言っているんだ。それは現実から持ってきたやつか?」
そう言うとリョータはチッと舌打ちをした。
「えらそーに。こっちで買ったんだよ。文句あっか?」
それを聞くと霧崎が心底どうでもよさそうに言った。
「あなたの不良アピールの話に興味はないわ。聞き苦しいだけだけよ。何が楽しいの?理解できないわ。それよりもそのタバコはスルトのどこで買ったの?」
するとその言葉を聞リョータの取り巻きの1人が顔を怒りで染め、叫んだ。
「っ、このアマァ!」
「おい!」
リョータが止めたが聞いてはいない。
振り下ろされた片手剣は、霧崎の頭に向かって弧を描きながら落ちていく。
霧崎が動くよりも早く、僕の体が動いた。
僕が下から振り上げたデュホークブレイドと上から振られた片手剣が交差する。
キイイィィン!という金属と金属がぶつかり合う音がビルに鳴り響く。相手の武器はその手からまるで逃げるかのように飛んで行った。
「俺は話し合えない奴は苦手なんだ。少し、黙ってろ」
「は、は‥‥‥?」
驚きを隠せないでいる取り巻きはほっとくとして。霧崎にも言いたい。
「お前も言い方キツすぎだろ。その毒舌デフォルト装備なの?」
「あなた‥‥‥。いえ、いいわ」
霧崎が何か言いかけたがすぐに首を振ってそれを飲み込んだ。
「なにを言いかけたのが知らないが僕に言わなきゃならないことは言っておけよ?」
それで後から重要な事を言われても困る。
「そんなの無いわよ。それに本音だから言い過ぎだなんて思わないわ。で、どこから買ったの?言いなさい」
なんでこう高圧的かな‥‥‥。たぶん友達いないのこれが原因。
「うす‥‥‥確か、ジーラの薬草屋?みたいなとこっすね」
「分かったわ」
霧崎はそう言ってすぐに踵を返した。
「お前も吸うつもりか?やめとけ。ちなみに僕はタバコを吸う女子が1番苦手だ」
「別にあなたの好みは聞いてないのだけど‥‥‥。吸わないわよ。話をつけに行くだけよ。私達には売らない様に、と」
話をつけるってなんか怖い。さすがあねご。
「じゃあ僕も行こう。NPC目線からもスルトについて聞きたいし」
「そう、ね。分かったわ」
「あ、じゃ俺も行きますよ」
リョータがはいっと手を挙げた。お手本みたいな挙げ方だ。
「あなたは来なくていいわ。そうね、ここにいるお仲間ではなくて、別の、おともだちに話を聞いてみてくれるかしら」
だからなんで友達ってところ嫌味ったらしく言うの?これだから友達のいない奴は。あ、ブーメラン投げたな今。1人だと友達という言葉に敏感になるよね!
「そういうことなら!ダチになってる奴にはメッセで送るすけど、そこまでねぇ奴は明日会いに行きます」
「ええ、助かるわ」
霧崎が満足気に頷いた。
「じゃあダチになりましょ。あ、そっちのも」
「高坂咲人だ。ダチ、というのはフレンドのことか?業務連絡以外ではメッセージ送るなよ。ほら、申請したから」
「仲良くなる気なんてねーよ。勘違いすんな」
くそ、ムカつくなぁ‥‥‥まあ我ながらコミュニケーション能力が低いとは思う。まあこいつとは仲良くなる気無いからいいけどね!
「私も?まあ、いいけれど‥‥‥」
霧崎が若干戸惑り気味に答える。こう正面から言われたことないんだろうな‥‥‥。
まあそんなわけで霧崎もリョータとフレンドになった。本名は桑原亮太。
取り巻きは未だに信じられない顔をしているものもいたが、半数以上はなぜか姉御、姉御、と言い始めてた。ぼかぁうけいれてくれなかったみたいだけどね!
「じゃあよろしく。ほら、行くわよ」
「あ、ああ。その前にこの格好どうにかしないか?目立ちすぎだろ」
ビルの出口へと歩きながら霧崎に言う。
今の僕と霧崎の格好はブラックシーズシリーズ。共に黒ずくめの格好で2人並んで歩くととても目立つ。黒の騎士団!とか思われちゃうかもしれない。まあ仮面はつけてないけど。
僕はカーキシリーズに装備を変えた。デュホークブレイドも装備はせず、身軽な状態になった。
「他に、というとあのジャージとかかしら?」
「それでもいいけどさ。なんかオシャレなのとか持ってないのか?沙羅たちは結構持ってたはずだけど」
まあ女子が全員オシャレに興味がある訳ではないだろう。
「持ってはいるわよ。でもそうしたら尚更目立ってしまうでしょう?」
「は?なんで」
「ナンパの嵐よ。全く、くだらないわ。現実でもそう。だから外で着飾らない様にしてるのよ」
まあ確かに美人だとは思うけども‥‥‥。そんな勇気僕にはないです。
「ジャージでも別に良いけどさ。で?お前は何でスルトにいるんだ?」
霧崎が装備を黒のジャージに変更し、髪をまとめながら口を開いた。
「クエストの報告よ。カフトに行く前にスルトで受けて遂行ポイントはレイクヘッドだったの。面倒だったわ」
「クエストか‥‥‥。なあ、そのクエストって今受けられるか?」
そう言うと霧崎は首を傾げて言った。それと同時に、ビルの外に出た。太陽がやけに眩しく感じた。
「どういうことかしら」
「だから、同じクエストを2回受けられるかってことだ。どんなクエストだったかは知らないが、NPCは人間、つまり意志を持っている」
「ええ」
霧崎は頷き、続きを促した。
「例えばお前が現実世界でシャンプーを買ってこい、というお使い系のクエストを出したとするだろ。それを1人が買ってきてお前に渡した。お前は報酬を与え、解決したとする。お前はそこからすぐにシャンプーを欲しいと思うか?」
霧崎はなるほど、と頷き、口元に手を当てた。
「なぜシャンプーかは分からないけれど‥‥‥。様は〈クエスト〉というシステム自体が崩壊している、と?」
シャンプーの意味が単純に髪が綺麗だから、とは言えなかった。
「そんな難しく考えなくてもいいとは思うけど‥‥‥。例外もあるとは思う。ゲームのHPOのカフトの蜂蜜屋のクエスト知ってるか?」
「ええ、速攻でボスの首飛ばしたわ」
いちいち言い方が怖いんだよ‥‥‥。
「そうだ。ゲームの頃は敵のボスを倒せばクエストクリアだった。だけど、この世界では蜂蜜屋の主人が最終的には本当の敵だった」
「そう‥‥‥で、ヤクザの方はどうだったの?」
「ちゃんと娘を保護してくれてたよ。部屋まで与えてた。良い人だったよ。まあ、意味わかんない人もいたけど‥‥‥」
殴られはしたけどそれは僕を覗き?だと勘違いしてやった事だ。
「意味の分からない?」
「赤髪のおじさんでさ。エロ本をたくさん持ってたな。この世界にも存在するんだなって‥‥‥おい、引くなよ、結構真面目な話だぞ勘違いするな」
霧崎は腕で自分の体を覆うようにして僕から少し距離をとった。
「ごめんなさい。気持ち悪いわ」
「いや、だから。真面目な話なんだって。そんな本が存在するという事は需要があるからだ。ゲームの頃はそんなの無かったし、もちろんその被写体の人も存在する訳で‥‥‥いや、もういい。ごめんなさい」
霧崎の極寒の目線に耐えられなくなった。男子高校生がエロ系について話してると女子は無条件で気持ち悪いって言うよね。あれあれ。
「‥‥‥まあとにかく。ここはHPOの世界であってもNPCはプレイヤーのサポート、という立場にはいないってことを言いたかっただけだよ」
前からも分かりはしていたが、こうやって改めて考えるとこれから大変な事になっていきそうな予感がする。
「NPCとの対立、これだけは避けたい‥‥‥」
それを聞くと霧崎がポツリと声を出した。
「それでも、私達は」
僕にはその言葉の続きが分かってしまった。僕は少し苦笑しながら、声を出した。
「やれることをやる。か」
「‥‥‥そうね」
最後に少しだけ微笑んだ霧崎は、僕が言うことを分かっていたように、嬉しそうな顔をした。




