出会い頭の
話の速度が遅いですが、お付き合いいただけると嬉しいです〜。
少し暗い廊下を抜けると、広いスペースに出た。そこには金髪や茶髪、赤など、黒髪を見つける方が大変な人達がいた。いわゆる溜まり場、というやつか。およそ15人位だろうか。フードを取るべきか悩んだが、とりあえずはかぶったままにする。
「リョータ!」
僕の前にいた明美がその連中に向かって言う。
「お、明美かぁ。どした」
リョータ、と呼ばれた金髪は、右手に酒?ビンを、左手にタバコ?を持っていた。こう言うとなんか遊◯王のカードみたい。
というより、やはりこの世界にもタバコらしき物があるのか。酒に関してはあの赤髪のおっさんがいたから分かってたけど‥‥‥。
「こいつがさぁ、ヤバめの場所知りたいって言うから連れてきた〜」
「なんだそれ、爆笑だわ」
おい、なにが爆笑なのか分からんぞ。それに僕は1度もヤバめ、とか言ってない。
「つかさー、明美ぃいい加減抱かせろよ〜」
そう言ってリョータは明美の肩にガバッと抱きついた。
「ちょ、やめてよ〜。リョータ彼女いるじゃん」
彼女いるのかよ。やはり女子高生とは不良っぽい人が好みの人が多いのか。
それより、明美に聞きたい。
「で?ここはなんなんだ?」
「はぁ?何ってどーゆーことだよ」
「いや、この人達はここで何してる訳?」
僕には単に集まってウェーイしてるだけにしか見えない。明美がここに入る前「喋れる状態なら〜」とか言うから少しビビってたじゃないか。
「何こいつ、ウケるんだけど」
そう言ってリョータはギャハハ、と笑う。それに続いて他の15人近くも笑い始めた。いや、ウケる事言ってないよ。
「まあガラは悪そうだけどさ‥‥‥」
僕が言うのも何だがどう見ても小物である。怖さでいうと片桐のほうが別な意味で怖い。ちなみにスキンヘッドのおじさんがもっと怖い。
「あ?舐めんなよお前?」
リョータはそう言って下から覗き込むようにしてガンを飛ばす。なんでみんな下からなんだよ。僕的には霧崎みたいに上からズバズバ言われる方が怖いです。
「舐めてない。で、これはなんだ?」
その威嚇をかわしつつ聞く。僕の指差す先には酒ビンとタバコ。
「それ、酒とタバコじゃないか?」
「だったらなんだよ?あ?関係ねえだろ」
‥‥‥会話にならん。
「僕達は未成年だろ?」
「だったらなんだよ?あぁ?」
なんかコピペみたいになってるぞ。
「リョータ、こいつやっちゃってよ」
明美がニヤニヤ笑いながら言った。それを聞いたリョータはニタァっと笑った。
「そうすっか、全員集合〜」
「待ってま〜した」
そう言ってリョータの取り巻きらしき人が僕の周りに集まりだす。人数が多いな。さっき囲まれたのと人数は比べ物にならないな。
どうやって脱出するか考えてると、文字が目の前の空間に出現した。
〈決闘の申し込みがありました。承認しますか?〉
‥‥‥え?
「え、ちょっと待て。決闘なの?今ここで殴りあうのかと思った」
「ば〜か!な訳ねぇだろ。とりあえず受けろや」
‥‥‥え?
僕は黙ってNOの文字を押した。
「拒否ぃ?!殺すぞお前!」
「いや、え?バカなの?なんで承認しないといけないんだよ」
頭大丈夫かこいつは。なぜ承認するの前提なんだよ。意味もないのに承認する訳無いじゃん。
すると明美がまた笑い、言った。
「じゃあさぁ、受けないと、沙羅襲いに行っちゃうよぉ?」
‥‥‥。脅し、だろう。まあ沙羅はもうレイクヘッドだ。簡単に来ることは出来ないだろう。それに沙羅が決闘で負けるとは思えない。
が、それは決闘で、ある場合だ。街の中ではダメージも受けないし、武器による痛みもない。だが、それは〈武器による〉痛みの可能性が高い。おそらく、殴る蹴るなど、武器を使わない暴行行為は、痛みを受けるのではないか。
もしそうなら、万が一沙羅が襲われた時、沙羅は抵抗が出来るだろうか。レベルは高いが、この人数相手に武器なしで戦うのは不可能だろう。沙羅自身は、普通の高校1年生である事に違いはない。
考えすぎかもしれないが、心配事は、増やしたくないし、戻ったらボス戦に集中したい。
〈決闘の申し込みがありました。承認しますか?〉
またもメッセージが届く。僕はYESを押した。
そうすると、リョータと僕の間に60の数字が空中に出現した。そこから59、58とカウントダウンが始まる。
僕はリョータと10メートル弱離れ、武器を装備する。最初はデュホークブレイドを装備しようと思ったが、相手の装備を見るとほとんど初期装備だったので、僕も初期の両手剣〈ロングソード〉を装備する。沙羅のことを考えると手加減はしてられないが、負けるとも思わない。それにデュホークブレイドは強すぎる。自分の足を刺した時の痛みから計算すると、デュホークブレイドで基本スキルを使い、頭にヒットさせたら大変な事になりそうだ。
自分でも甘すぎるとは分かっているが、相手も人間だ。ムカつくから、という理由で傷つけては暴行をしている奴らと同じになる。
僕は邪魔になるからと、パーカーを外した。こうなったら顔バレも気にしてられない。
残り5秒‥‥‥0!
「‥‥‥」
「‥‥‥」
僕を警戒しているのか、相手も向かってこない。
その時、リョータがニタァと笑い、叫んだ。
「今だ!やれぇ!」
その言葉の先には僕の横や後ろにいたリョータの仲間。その手にはそれぞれの武器が握られていた。
「死ねぇっっ!」
「っ!」
後ろにいた奴の片手剣をギリギリで避ける。どういうことだよ!
「おい!何のつもりだ!」
「何のつもりって〜?一対一とは言ってねぇだろ!」
ま、待て、落ち着け。街の中じゃ痛みはないはずだ。
「オラァッ!」
「‥‥‥がっ?!」
痛い!普通に痛い!かすった右肩には傷はないが痛みが残っている。でも決闘用のHPは減ってない。
ど、どういうことだ。なぜ痛みが?‥‥‥‥‥‥まさか、〈決闘中〉は武器による痛みが対戦相手以外からも受ける、とかか?ふざけるなよ‥‥‥っ!
「くっ!」
流石に15人じゃお互い邪魔になるのか、リョータ以外で攻撃してくるのは5人。でも6人相手は、さすがにキツイ‥‥‥。
とりあえず、逃げる!
「逃げやがった!全員追え!」
後ろからリョータの怒声が聞こえる。全員、と言うからには15人だろう。
僕は二階に通じる階段を2段飛ばしで登り、女子トイレだと思われる所に入り、その個室に入る。
奴らは男子だ。簡単には入れないだろ!ふははは!
「ま、まあいい。とりあえず装備を変えよう」
急いでブラックシーズシリーズに着替え、武器をデュホークブレイドに変更した。これでダメージも抑えられるだろうしこの剣を見れば攻撃もしにくいだろう。たぶん。
それに、向こうの攻撃が痛いとすると、こっちの攻撃も当たると痛いはずだ。誰でも痛いのは嫌だろう。
「よし、行くか」
さすがに女子トイレにずっといると罪悪感のようなものに押しつぶされそうになるのでそっと個室のドアを開け、女子トイレから出る。2階にも5、6人かいるみたいだな。それに上の階や下の階から様々な声が聞こえるが、無視して一階の階段へ戻る。一階にも何人かいると思うが、倒すべきはリョータ1人。リョータを倒すと、または降参させると決闘は終わる。他は無視していい。
「いたぞ!格好が違う‥‥‥?まあいい!死ねよっ!」
案の定いたが、リョータでは無い。斜め上から振り下ろされる剣をデュホークブレイドで受け止め、はじく。が、足は止めない。
一階に残っていたのは5人か、1人突破したからあと4人!
「りょ、リョータ!そっちに行ったぞ!」
「分かってるっつの!お前ら守れよ!一階だ!全員戻れ!」
リョータがまた指示を出し、残りの4人が前に立ちはだかった。しかも意外と頭が切れるのか指示が的確だ。2階と三階にいる連中にも大声で一階へ呼び戻した。
「さっさと死ねやぁ!」
「っ!」
前にいた4人のうちの1人が片手剣を横からなぎ払うように振った。それが僕の胸に少しかすった。しかし、ブラックシーズの性能か当たりが浅いのか、ほとんど痛くはない。
「どけっ‥‥‥!」
そいつを思いっきり殴りつけ、リョータに向かうが、またも邪魔が入る。そいつは沙羅と同じく武器が細剣だ。相手がスキル〈フェンシン〉を発動させ、僕の顔面に向かって鋭い突きを繰り出す。が、沙羅のフェンシンに比べると速さも鋭さも足りない!
前の清水と戦ったように首を横に曲げて回避。その勢いに乗ってさながらクロスカウンターの様に相手の顔を殴りつける。
すると後ろから、二階と三階にいた連中がゾロゾロと戻ってくる。タイミングが悪いな‥‥‥。
「なぁ、諦めないか?正直負ける気がしない」
強気な事は言ってみるがそれはデュホークブレイドを使った場合だ。
「この剣を使うと激痛どころじゃすまないぞ」
どこか余裕を見せつつ、リョータは笑う。
「当たんなきゃ一緒だろ!」
「‥‥‥お前、レベルいくつだ?」
僕の問いに、彼はまた笑い、自慢げに話す。
「聞いて驚け、4だ!この中じゃ一番たけぇよ。残念だったな」
「‥‥‥そうか」
今の僕のレベルが13。このレベル差は結構大きい。それに相手の装備もほぼ初期装備。こっちのスキル攻撃がヒットすると相当HPを吹っ飛ばすだろう。
どうする。
すると、このビルの中に綺麗な声が響き渡った。
「らしくないわね。さっさと終わらせなさい」
その聞き覚えのある声に僕は吸い寄せられるように声のする方を見る。
女子にあるまじき全身黒色で統一された装備、長い黒髪、緑がかった目。
「奇遇だな、霧崎」
「そうね、会いたくはなかったわ」
え、何。出会い頭で毒舌?まあ人が1日や2日で変わるわけがないか。




