ハヤシライス
この辺りから物語が動き始めます。
よろしくお願いします〜
この中衛Aパーティは攻撃が主のパーティだ。沙羅については武器も称号スキルも知っているが桜庭さんと片桐については何も知らない。
「桜庭さん、武器を教えてくれませんか?」
「ああ、言ってなかったっすね。片手剣っすよ」
そう言って剣を手に持ち見せてくれた。
「称号スキルは、まあ見たらわかるっす。結構派手っすから」
「分かりました。片桐は?」
「片手槍」
片桐がとても面倒くさそうに言う。
「り、了解」
うーんどうも会話が続かない‥‥‥。まあ別に無理に続けることもないか。
「高坂くん、これからレベル上げ行くんでしょ?」
「うん。今日と明日でいけるとこまでいきたい‥‥‥特に、僕は」
「高坂くん‥‥‥」
「ん、あんたなんかあんの?」
あんたなんかあんのってなんかひらがなばっかで紛らわしいな。まあどうでもいいけど。
「パーティ組めば分かる。ほら、申請出しといたから」
片桐は怪訝な顔でその申請を受けた。
「‥‥‥称号が、ない」
いや、そんな深刻な感じで言うなよ‥‥‥。
「まあそういうことだ。片桐の称号は〈冷酷なる眼差し〉か」
なんというか、まんまイメージ通りだな。
「あんた、化け物?」
「おい待て、何でいきなり悪口になるんだよ」
結構びっくりした。霧崎と少しダブったけどあいつだったらもう一声あるはず。なにそれ怖い。
「悪口じゃないし。あんたメンタル強いんだ」
「いや、話についていけないんだけど」
そう言うと片桐はダルそうに肩にかかった髪をはらいながら言った。
「普通に考えたら分かるでしょ。人の持っているもの、それもほとんど全員が持ってるものを自分だけ持ってなかったらどう思う?」
な、なんだ急に。あと意外と論道を立てて話せるんだな。すぐに「ウゼェし!」とか言わなさそうでよかった。
「んん、まあ理不尽って思うわな」
「そ。しかもこの世界じゃ1番重要なものがないんでしょ。普通なら引きこもるレベルだね、それ」
そ、そこまで言わないでもいいだろ。と言いたかったけど片桐は結構真面目に話してくれているようなので真面目に返さないと失礼だよな。
「まだ貰える可能性だってあるし落ち込んでいる時間があるなら僕は戦う。おかしなことなんてないだろ」
それを聞くと片桐ははぁ、とため息をついた。
「それが化け物っつってんの。別にいいけどさ」
「なんだそりゃ。あ、沙羅と桜庭さんもパーティを」
「あ、うん」
「ああ、了解っす」
そう言って二人とも了承し、パーティが4人になる。
やっと、レベ上げに行ける。
「つ、疲れた」
現在レベ上げを切りのいいところでやめ、レイクヘッドのファミレス、というより洋食屋さんみたいなところにパーティメンバーで来た。片桐は乗り気じゃなかったけど。
いや、もうホント疲れた。レベ上げもだけど片桐の相手するのも疲れた。いきなり「あー、だるい」とか「あんた疲れないの?」とか言いだす始末。あと何気に沙羅と仲良くなっていた。女子って分からない。
でもそのおかげで僕は13レベルにギリギリ到達したし、沙羅も13になった。桜庭さんは現在14で片桐は12だった。
桜庭さんの称号スキルはいわゆる突進系の単発技だった。ただ、範囲がとても広いし剣が黄金に染まったのは驚いた。超派手だった。
片桐の称号スキルは、なんと言うんだろう、片手槍が巨大化した。で、その後振り回してた。振り回しもスキルなのかどうか分からなかった。
「お疲れ様高坂くん。あ、何食べる?わたしはオムライスかな」
わたしはオムライス、と言った瞬間店員さんがすごいスピードで注文を取りにやってきた。といっても何故かメニューがない。
「オムライスおひとつ、そちらは?」
店員さんが笑顔でこっちを向く。洋食といったら、か。
「んーハヤシライスで」
「あ、俺もそれいただくっす」
「あたし牛丼」
片桐がさも当然のように言った。
「おい、あるわけねえだろ。ここ洋食屋なんだし」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
え、なに?あるの?ここ洋食屋じゃないのかよ‥‥‥。くそ、僕も牛丼にしとけば良かった。
「あ、ちょっと真面目な話いいっすか?」
「あ、はい」
桜庭さんの真面目な雰囲気に飲み込まれてはいとしか言えなかった。
「そんなに緊張はしなくていいっす」
桜庭さんは少し笑いながら手を振った。
「まあ話っていうのはこの世界の事っす。高坂君、例えば現実世界での日本に突如正体不明の300万人の人々が現れたらどう思うっすか?」
「え、そりゃあ驚く、と同時に人口がとても増えます」
なんか当たり前の事しか言えなかった。
「まあ、そうっす。1つ目のポイントは人口。スルトは今、人口密度がNPCしかいない頃に比べて爆発的に多くなったっす。でも考えてみるっす。日本にそれだけの人々が来たら大抵の人はどう思うか、分かるっすか?」
ああ、なるほど。桜庭さんの話したいことが少し分かった。
「怖い、何者なんだ、一体どこから‥‥‥様は「気持ちが悪い」って事なんじゃないですかね」
「そうっす。ちょっと単純になっちゃうっすけど、片桐ちゃん、君から見て気持ちが悪い、と思う存在とかっているっすか?」
片桐が少し嫌そうな顔をしてこっちを見た。え、ぼくなにかしましたか。
「‥‥‥虫」
「じゃあ、自分の部屋の中に虫が入ってきたらどうするっすか?」
「叩き潰す、か、外に出す」
いや、言い方怖いです。
「排除しようと考えるっすよね。まあ虫と人間じゃ勝手が違うっすけど」
「待って下さい。そうすると、NPCは僕達を排除しようと考えている、と?」
そこで桜庭さんはうーん、と腕組みをして考え込んだ。
「そこはなんとも‥‥‥でもNPCも受け入れられる人と受け入れられない人がいるのも事実っす‥‥‥高坂君、HPOの設定は知っているっすか?」
桜庭さんが何か思いついたように質問してきた。
「はい、設定は大好きでしたから」
「じゃあ、NPC達に「王」がいない事も知ってるっすよね」
「はい」
そう。ゲームのHPOでのNPC達には王、または上位階級みたいな人達が存在しない。恐らくはシナリオ的に邪魔な存在だったのだろう。あくまで魔王討伐がメインクエストなわけだ。ゲームのHPOではNPCはゲームスムーズに進めるためのものでしか無かった。
「でも、でもっすよ?それはプログラムのNPCだから、出来ることっす。この世界の人間である彼らにそんな事できると思うっすか?」
「‥‥‥無理でしょうね」
それを聞くと桜庭さんはうん、と頷いた。
「あ、あのー、話についていけないんですけど」
沙羅がちょこん、と手を上げて言った。
「沙羅、学校にもスクールカーストってあるだろ。人間はというより生物は、かな。絶対に上に立つ者が現れるんだ」
そうじゃないといじめなんて起こるわけがない。いじめる側は自分の方がいじめられる側よりも優位に立っていると思っているんだろう。
「う、うん。分かったような分からなかったような‥‥‥あ、きた」
沙羅が苦笑していると店員さんが4人分の食事を運んできた。どうなってるのか分からないけど片腕に3皿乗っている。
「お待たせしました。ごゆっくり〜」
店員さんがまたもすごいスピードで戻っていく。
「‥‥‥王、か」
この世界のNPCに王がいたらどうなるだろう。その人にもよるけど、僕達をどう思っているんだろう。
「どうでもいいけど冷めるよ?」
片桐が牛丼に手を伸ばしながら言う。まあ確かに今考える事ではないかもしれないけど‥‥‥。
「イレギュラーな存在、か」
その事実は変わらない。ならどうするか。
やれることをやる。それしか、ないんだ。
「いただきます」
久しぶりに食べたハヤシライスの味は、どこか変わったように感じた。




