あの人再び
遅れてしまい申し訳ありません。
少し長くなっております。
「はぁっ!」
現在時刻11時半。僕達はシーサイドとレイクヘッドの間のモンスターフィールドにいた。椿はリーティの擁護を優先、僕と沙羅、夏美はモンスター討伐に集中する事になった。
「くそっ、夏美!」
「分かってるって、はっ!」
僕のスキル、スイングではモンスター〈グランドカウ〉を倒すことができなかった。残り7割くらいか。このモンスターは名前の通りに巨大な牛のような体で動きは遅いがHPがとても多く、中々倒すのが大変だ。このモンスターには弱点が存在するが、胴体の真上だ。遠距離系の武器を使う人が僕達にはいないため、なおさら時間がかかる。
「沙羅ちゃん!」
夏美が攻撃が終わった直後に沙羅の名前を呼ぶ。残り半分!
「うん!」
少し後方から沙羅が夏美に向かって走り、夏美の背中を蹴って空中に浮いた。
沙羅の剣が称号スキルスワンストローク特有の白銀の光に包まれ、キュウゥッとした音がなる。
「ヤアァッ!」
な、成る程。沙羅のスワンストロークは〈全10回突き終わるまで〉沙羅は動けない。つまり空中にいても突き終わるまではそこを動けない。よく考えたなぁ。
「よし!倒した!」
夏美がガッツポーズをしながら沙羅とハイタッチする。
「凄いな、いつの間にそんな事考えてたんだよ」
「えへへ、さっきちょっとね。こんなのあったらカッコいいよねって話してたんだー」
沙羅がレイピアを鞘に直しながら笑顔で話す。
「まさかこんなに早く自分でやる事になるなんて思わなかったけど」
同じく夏美も短剣を直しながら少し照れた顔で言う。
「あ、みんな。見えてきましたよ」
椿が顔を明るくして言う。僕達の少し前方に街が見える。あと10分位で着くかな。
「次はレイクヘッドだっけ?レイクっていう位だから湖があるの?」
「ん、リーティでも知らないものなのか?」
「そりゃ私はカフトにしかいなかったからね。有名な街とかなら知ってるけどね」
‥‥‥僕達が現実世界で東京や大阪は分かっても田舎の方は知らないとかそういうことかな?
「そうなのか。レイクヘッドは湖が龍の頭の形みたいに見えるんだよ」
今思うとこの世界って変わってるよな‥‥‥。カフトでは森ありシーサイドでは海?あり、レイクヘッドでは湖がある。地形的にはどうなってるんだろう。
すると突然椿が甲高い声で半ば叫ぶように言った。
「高坂さん!私に称号がつきました!」
お、おぉお!
「良かったじゃないか。どんなのなんだ?」
あっ、サラッとマナー違反を‥‥‥。
「いや、悪い。マナー違反だった」
本来人の称号スキルを聞くことはマナー違反に当たる。現実世界で言うと個人情報みたいなものだと思う。
「いえ、知ってもらいたいんです」
「あ、そ、そうか」
なんでどもってるんだよ僕‥‥‥。
「称号名は、〈暖かき場所〉ですね。称号スキルが短剣スキル〈リセットブレイク〉とえ、えーと拳スキル〈飛翔拳〉ですね〉
「‥‥‥えっ」
拳‥‥‥そうか、最近はご無沙汰だったから忘れかけてたけど椿はアレがあったんだ。
「いや、いいぞ。ゲームの頃はなかなかのレアスキルだったんだ」
「そういう問題じゃないですよ?!女子としてなんか嫌です‥‥‥。やっぱりあの性格でしょうか‥‥‥」
そうです。とは言いにくい‥‥‥。
「でも私はまだ信じられないな。椿さんの性格が一変するなんて」
夏美とリーティにはキレると性格が変わるという事は話したけど実際に見たことは無い。あ、それを言うなら沙羅もか。
「そうだな、なんていうかどす黒いオーラが出るな。正直すごい怖かった」
小学生が見たら普通に号泣しちゃうくらいだと思う。
「高坂さーん、そこまでは無いでしょー?」
椿がほっぺをプクーっと膨らまして睨んでくる。ちょっと可愛い。
するとリーティが僕にキラキラした目を向けながら言った。
「咲人、着いたわよレイクヘッド!蜂蜜に使えそうな物とかあるかな」
「どうだろうな、というよりリーティは蜂蜜もだけど料理をなんとかするべきなんじゃ」
「わ、分かってるわよ!」
「まあ僕も得意じゃないから教えてはあげられないけど」
作れるのといったらインスタントラーメンくらいじゃないかな。料理っていわないか。
「あ、私料理できますよ。この世界に来てからはしてないですけど」
「あー、椿はなんかそういうイメージあるかも」
椿は家庭的なイメージがあるな。称号通りに暖かい存在だと思う。
「とりあえず宿決めないとな。腹も減ったし」
「咲人、あんたもうお腹減ったの?まだ12時ないわよ」
リーティが少々呆れ気味に言う。そんなこと言われても空いているのは仕方がない。まあ女子は空かないのかもしれないが。
「わ、私もお腹空いちゃった」
沙羅は仲間でした。
「じゃあこことかいいんじゃないですか?甘い物とか色々ありそうですよ」
椿も甘いものが好きなのか称号がついて未だ嬉しいのか、どこか明るい。
「わたしもいいよ。お腹はそんな減ってないけど喉とか乾いたし」
夏美も賛成みたいだな。
「じゃあ入ろう。なんか炒飯食べたいなぁ。無いだろうけど」
今から入るところはどちらかというと甘いものの方が多いカフェみたいなところだ。またサンドイッチとかにするか。
ドアを押して店員さんを呼ぼうとした。
「すいません、5人大丈夫ですか、げっ」
そこには、女子にあるまじき黒ずくめの衣装に黒髪のロングの美少女が目に入った。
「霧崎‥‥‥」
「霧崎さん久しぶりー!」
あれ、なんかデジャヴ。
「げっ、とは何かしら。喧嘩を売っているの?沙羅さんもこんにちは。久しぶり、というほど日は立ってないけれど」
「違うっつーの」
なんでこんなに当たりがキツイの?
「どうでもいいけれど、あなた自分のハーレムでも作る気?」
そう言って霧崎は僕の後ろを見る。
そういえば沙羅しか会ったことないっけ。とはいえ誤解はといとかないとな。
「そんな訳ないだろ。というか相変わらず黒いな」
あの時と変わらず全身黒ずくめだ。
「そうね。以外と気に入ってるのよこれ」
「女子としてそれを気にいるっていうのも結構特殊だと思うぞ」
「そうかもしれないわね」
「まあいいや。ちょっと聞いてほしいこともあるし座ってくれ」
「NPCを仲間に、ね。あなた不思議なことをするのね」
「そうでもないさ。リーティは人間なんだから僕達と一緒だ」
すると霧崎は僕と目線をぶつけ、見ただけで凍ってしまいそうな目をして言った。
「何を言っているのかしら。彼女は〈人間〉でも、私達〈現実の人間〉ではないのよ」
‥‥‥ちょっと期待してたんだけどな。
「人間も現実の人間も同じだろ。考えれて、行動できて、人とコミュニケーションをとる。どこが違うんだよ」
「‥‥‥その考えは〈現実の私達〉と〈この世界の人間〉を比べたものよ。〈この世界の私達〉はもう〈現実の私達〉とは違うのよ」
「霧崎、僕は比べる対象の話をしているんじゃない。もっと根本的な事だ」
霧崎の言うことも分かる。今の僕達はこの世界ではモンスターを倒せる圧倒的な存在だ。
NPC達はモンスターの事を〈魔物〉と呼ぶ。単純に化け物、と呼ぶ人もいるらしいが大抵のNPCは魔物と呼んでいる。
「NPCからしたらモンスターも私達もどっちも同じカテゴリに存在するのかもしれないわ。私達も魔物みたいなものよ」
‥‥‥リーティがいる前でそういうこというかこいつは。
「霧崎、お前の言いたいことも分かる。でもな」
「ねえ、霧崎?だったっけ」
リーティが僕の言葉に重ねて喋りだした。
「難しい事は分かんないけどさ、現に私とみんなは仲良くなってるんだしさ。それでいいんじゃない?」
「‥‥‥リーティさん、それは〈あなただから〉上手くいったのよ。みんながみんな私達を心良く思っているはずが無いわ」
どうも噛み合っていない。リーティは〈今の〉現状を、霧崎はこれからの話をしている。
「あー、まあとにかく、これからの事は後々話すとして。まずは目先の話だ」
「高坂くん、目先って?」
「沙羅、この町は4つ目の街だろ?次の街ではエリアボスを倒さないといけない。ゲームの頃は5つ目の街に着いたらクエストって形で出てたな。前も言ったけどエリアボスは倒さないと次の街へ進めない。でもここで問題なのがさ」
「この世界の私達の人口に対するボスモンスターの強さ、かしら」
くそ、こいつは何でもかんでもお見通しかい。まあ別にいいんだけど。
「そうだ。全国の高校生っていうくらいだから何万人いるのかよく分からないけど相当多いはずだろ?」
「全国で見ると約330万人くらいね。でもメールには「このメールが届いた方」と書いてあったわ。携帯を持ってない高校生はこの世界に来てないという可能性はないのかしら?」
すると椿がそーっと手を挙げて話し出した。
「で、でも私は携帯持ってませんでしたよ?いきなりクラスのみんなが消え始めて私も、って感じで」
「‥‥‥え、じゃあ運営からメールが来ないのにどうやってHPOの中ってどうやって知ったんだ?全員HPOをやっているわけでも無いのに」
「あ、それは携帯のメールじゃなくてこっちのメッセージで届きました」
そう言って椿は空中に自分のステータス画面を出した。
なるほど。確かにそういう事なら全員に情報は行き渡るとは思うけど‥‥‥。携帯を持ってきてはいけない学校もあるだろうし、この人達は最初に来た「HPOでの実験に強制参加していただきます。10分以内に転送〜」というメールを見ないまま訳も分からず転送されたのか‥‥‥。
なんか雑じゃないか?というかそもそも実験ってなんだ?もう一つの人生っていうのも何か分からない。というか無事に120の街まで制覇すればクリアなのかも分からない。というかクリアというのが存在するのかも分からない。
それにNPCももはやNPCじゃない。意志を持ってる。もう人間なんだ。
くそ、HPOの運営は何が目的なんだ。というか本当にHPOの運営なのか?第三者がこのゲームを利用しているだけなんじゃ‥‥‥。考えがまとまらない。
「ちょ、ちょっと咲人!顔怖いって!」
夏美が驚いたように言う。ここでそんな考えがまとまってないこと言っても仕方ないか。
「‥‥‥腹減ったな」
「えぇ?!なんで怖い顔してたのよ」
「ん、まあ、なんでも無い。飯食お」
とりあえず、お腹減った。




