体質
話のスピードが遅いです~_~;
誤字など指摘してくだされば嬉しく思います。
「で、咲人。誰に触るの?」
宿屋を出てリーティに聞かれる。誰に、と言われても困る。
「うーん、君達も見ず知らずの人間に触られたら気分が悪いだろう?」
「そりゃそうね。でも私達の方で知った人いるの?」
「いたら苦労しないよ‥‥‥」
そんな人いる訳がない‥‥‥。んん?待てよ。
「いや、いたぞ。前に泊まった高級宿屋の従業員さんだ」
あの人なら大丈夫だろう。女性じゃないから変に遠慮することも無い。
「それもいいかもしれないけどさ、別にここの宿屋の人でいいんじゃない?」
僕達はさっきまで沙羅が泊まっていた部屋にみんなで集まって次の街へ行く準備をしていた。まあ、確かにここの宿屋の人に触るのが一番時間もかからないし手っ取り早いだろう。
「そ、それはそうなんだけどさ。ここの宿屋って女の人しかいないじゃないか‥‥‥」
この宿屋は珍しく従業員が女性しかいない。まあだから沙羅たちは安全を考えてここにしたんだけど。
それに僕は基本的に女の人と話すのは苦手だし、知らない人にいきなり触るっていうのも‥‥‥。
「もう、面倒くさいわね。ほら、宿屋の人出てきたじゃない、行きなさいよっ」
「いてっ」
まどろっこしくなったのかリーティが宿屋から出てきた女性の従業員に向かって僕を押し出した。その後リーティはサッと物陰に身をひそめたようだ。
「ど、どうかされましたか?」
この従業員さんまだ若いな。20歳位だろうか。黒い髪を後ろでまとめて化粧も薄い。これだよ!大和撫子はこういうことだよ!‥‥‥まあいいや。
「え、ええとですね。ちょっとお願いがあるんです」
「な、なんでしょうか」
あ、明らかに不安そうな顔になった。なんか自分が悪いことをしているような気になってしまう。‥‥‥大丈夫だよね?
覚悟を決めて思い切り頭を下げて僕は言う。
「そ、その、あなたに触らせてください!」
「は、はいっ?!」
‥‥‥ん、あれ?何これ僕が変態みたいになってない?いや、自業自得だから仕方ないけども。
「えーと、違うんです。別に変態とかそういうんじゃないです。その、避けられない事態でして、解決するために貴方を触らせて頂けないかなということでして」
何言ってんだ僕は。
あ、なんか手遅れな気がしてきた。なんかもう泣きたい。こんな事になるから男の人に頼めば良かったんだ。‥‥‥後でリーティの頭撫でくりまわしてやる。
「ど、どういう事態なのか分かりませんが、私で良かったらその、ど、どうぞ」
‥‥‥この人天使か何かなの?
「え、あの自分で言うのも何ですけど僕相当気持ち悪いこと言いませんでしたか?」
「最初は驚きましたけど、困ってらっしゃるんですよね?ならお手伝いしますよ」
ま、眩しい‥‥‥。これが優しさかっ。
「助かります‥‥‥。じゃあ手を出してくれますか」
「はい」
何の不信感もなく笑顔で手を出してくれる。
もしも、もしもこの手を握れたら僕の体質は〈この世界の〉人間には触れることになる。
でも握れなかったら僕の体質は恐らくリーティだけに触れるという意味の分からないものとなる。
まあリーティ以外に1人しか試さないっていうのも考えものだけど、簡単に解析するとそうなるはずだ。
覚悟を決めろ!握れ!
おそるおそる手を出し、彼女の手にゆっくりと触れる。
「だ、だ、大丈夫だ。触れる。リーティ以外にも触れる」
な、何ともない。それどころか温かい。温度的なのもあると思うけど何か、手から彼女の心の温かさが伝わってくる感じ。握ったまま僕は考えを巡らせる。
「ということは僕はこの世界の人間には触れるのか‥‥‥。何でだろう。現実世界の人間とこの世界の人間の違い、かぁ」
「あ、あの?ちょっと恥ずかしいのですが」
何があるんだろう。身近なところでいうと僕とリーティ。まずはステータスやスキルなどの違い。でもそれはあくまでも〈この世界の〉事情だ。ステータスやスキルが使えない人に触れるということなら現実世界では僕は人に触れないとおかしいんじゃないだろうか。考えすぎかもしれないけど。
「何にせよ考えをまとめないとな‥‥‥。自分のことなんだし」
「お、お客様!」
「あ、はいっ?!」
急に大きな声で呼ばれたからビックリした。え、なんでこの天使顔を真っ赤にしてるの?
「その、いつまで手をつなげばよろしいのでしょうか‥‥‥」
「あっ、すいません!」
バッと手を離したが依然彼女の顔は真っ赤なままだ。やっちゃったな。
「も、申し訳ありません。その、異性にあまり耐性が無かったものですから‥‥‥」
か、可愛い‥‥‥!て、今はそんな事いいや。
「いえ、こっちも握りすぎちゃいました。すいません」
まあ1人が大丈夫だったから全員に触れる、という確信はないけど大きな一歩だろう。
「あの、異世界から来られた方ですよね?」
「え?あ、はい」
「すごい話題なんですよ、お客様達のこと。本当に異世界から来られたんですか?」
「本当、ですよ。でも、来たくて来たんじゃないです。無理矢理、強制的に‥‥‥」
今思えばあのメールから始まったんだ。今思い出すだけでもおかしな事だ。
「強制的に‥‥‥?それはどういうことでしょうか?」
「言葉の通りですよ。元いた世界から何というか、まあ連れてこられたんですよ」
「連れてこられた‥‥‥。不思議ですねぇ‥‥‥」
この人妙にこの話に食いつくな。まあ当然なのかもしれないけど。
「とにかくありがとうございました」
これから他の人にも触りに行くかな‥‥‥。その前にリーティどこ行った?
「はい、お気をつけて」
従業員さんに見送られながらリーティを探す。あ、いた。
「リーティ、もういいぞ。というか別に隠れなくても良かっただろ?」
「なんとなくよ。でも触れて良かったじゃない」
なんとなくって何やねん。
「そうだな‥‥‥」
それより、今の〈おそらく〉を〈確信〉に変えるためにまだ触ったほうがいいだろうか。でも時間ももったいないし今も沙羅達は部屋で待ってる。
「‥‥‥よし、リーティ部屋に戻ろう。いい加減出発したいしね」
今はいいだろう。今度時間のある時で。自分の事は知っておきたいけどそれに沙羅達を巻き込みたくはない。もう巻き込んでるところもあるげど‥‥‥。
「咲人がいいならいいけど」
「ああ、レイクヘッドに昼には着いておきたいし。ほら、行くぞー」
まあ人に触る、なんてそうそう無いだろう。
沙羅達の部屋に戻り、準備も全て完了した。僕は背中にデュホークブレイドを背負い、改めてみんなに一言言うことになった。
「えー、コホン、じゃあ今度こそ。今出ればレイクヘッドに12時には着くと思う。あと色々ありがとう。よし、出発!」
たった4人に言うだけなのになんでか緊張する。現実世界でも人の前に立つっていう経験がそんなになかったからな‥‥‥。
「あはは、高坂くん緊張しすぎだよー」
沙羅がケタケタと明るい笑顔で言う。
「慣れてないんだよこういうの」
「やっぱりー。苦手そうだもんね」
「苦手苦手。て、なんの話だっけ。まあいいや、ほら、部屋から出るぞ」
さぁ、次はレイクヘッドだ。




