自分のこと
沙羅が僕の事を黒い霧、と言ったのは夏美が気になっていたことらしく、その事を沙羅に話したところ、心当たりがあったのか沙羅も怖くなったそうだ。夏美と過ごした時間はまだ少ない。そんなに僕はおかしかったのだろうか。大丈夫だとは思っているが、少し怖い。
あれから5日がたった。流石にあの宿屋には連続では泊まれず、一泊200サンの2人部屋の宿屋を2つ借りて女子4人を。僕は一泊100サンの1人部屋の宿屋を借りて寝泊まりした。カフトで泊まったところに比べたら最高の寝心地だった。
特に代わり映えのしない毎日だったが、みんなのレベルは順調に上がっていった。
僕が1レベル上がり11。
沙羅は僕が夏美と行動しているときに1レベル上げ11になっており、1番レベルが高く、みんなのサポートが多かったから1レベルしか上がらず12。
椿は沙羅と同じく僕がいない間に1レベル上げ、この5日の間にレベルを3上げ、現在10レベル。
夏美はレベルを2あげて現在10レベル。
みんな10レベル以上になった。リーティは自分だけ何もしないのは嫌だと言い、料理を作った。
この世界でも料理は作れるが、材料を買い、道具を揃えて調理する。時間もお金もかかる。僕達からすればそんな無駄な事したくないのだ。でもリーティには時間はある。
道具のお金は僕が出した。リーティは凄く喜んでくれて出したかいがあった。が、リーティは料理が得意じゃなく、初めて食べた時は本当に吐きそうになった。まあ全部食べたけど。
まあ何はともあれ、全員レベルが10以上になったから次の街になんとか行けるレベルになった。シーサイドの次の街〈レイクヘッド〉を目指す。
レイクヘッドは湖が龍の頭みたいな形をしていることが特徴の街だ。
「よし、じゃあ行くか。基本的に向こうから襲ってくるのは少ないと思う。余計な戦闘は避けていこう」
余計な戦闘は避けるべきだ。モンスターも強くなってくるし気を引き締めていきたい。
「「「了解!」」」
沙羅、椿、夏美が元気よく返事をする。その横でリーティが気まずそうな顔をして立っていた。
「その、ごめんね。弱くて戦えなくて」
「まだ言ってたのか。これは僕達がイレギュラーなだけでお前は弱くないって。ほら、昨日だって僕にパンチを当てて、ん?‥‥‥僕、にパンチを当てて?‥‥‥」
「咲人どうしたの?」
今だ。今気づいた。全然気にしていなかった。エロ本が見つかりそうな時、リーティに肩を軽く叩かれた。あれは僕にとってはおかしい。彼女は僕に〈普通に〉触れている‥‥‥。
「リーティ!」
「は、はいっ?!」
急に僕が大声を出して驚いたのか彼女は目を見開いた。
「ちょっと、ごめん」
「え?」
そう言ってリーティの頭に手を乗せる。
なにも、起こらない。心臓が締め付けられる感じも、拒否したくなる感じも、ない。髪を撫でても何もない。
「ちょ、ちょっと。咲人?くすぐったいって」
凄い。なんだろう、感動する。人に触れるって、こういう事なのか。
「高坂くん、ちょっと近いよー?」
沙羅が何か言っているがまるで内容が頭に入ってこない。
「ちょ、っと!いい加減にしろぉ!」
「ぐぇっ!」
撫で続けてたらリーティがいきなり顔面にパンチを入れてきた。こ、腰が入ってていいパンチだ‥‥‥。
「な、何すんのよ突然!もっと殴るよ?!」
リーティが顔を真っ赤にしながら僕に吠える。でも今の僕にしたら嬉しい言葉に聞こえる。
「あぁ、もっと殴っていいぞ。いや、本当に、嬉しくて‥‥‥」
ダメだ。涙が出てきた。キャラじゃないのにな。かっこ悪いなホント。しかもこれ言葉だけ聞いたらただの変態じゃないか。
「さ、咲人?どうしたの?」
「高坂くん?!」
沙羅が心配そうに駆け寄り、僕の肩に手を触れようとする。そうだ、もう沙羅たちも大丈夫なんじゃ
「大丈夫?」
沙羅の手が僕の肩に触れる。その瞬間、例の心臓が締め付けられるような苦しい感じが僕を襲う。何故だか前に比べたら軽い感じだったが、少し、苦しい。
「沙羅、手を離してくれ、頼む」
「ご、ごめん!‥‥‥」
沙羅はショックな顔をして謝った。やっちゃったな‥‥‥。リーティはよくて沙羅はダメ。沙羅からすれば気分のいいことじゃない。これはもう、言わなきゃだめだよな‥‥‥。
「沙羅、だけじゃないか。みんなに僕は隠し事をしてた。それを話すよ。出発前にごめん」
「隠し事‥‥‥?」
「うん。えと、どこから話そうかな」
僕はみんなに僕の体質?について全部話した。みんなちょっとショックな顔をしたけど沙羅はハッとしたように顔を上げた。
「でも、椿さんの時は高坂くん私たちの背中に触ったよね?!」
沙羅が言い終わった後椿も首を縦に振る。
「あれは事態の収拾を早くつけたかったからね‥‥‥。あと多分、僕は〈自分から〉触るとそこまで苦しくないんだ。いや、ちょっと違うかな。触る触られるっていうのが分かってて触れると、苦しくはあるけどいきなり触られるよりは症状が軽いみたいだ。だからあの時も症状は少しだけ軽かった気がする」
確信はない。あの時のも今思えば、だから。
「それが、あの時の理由ね?」
夏美が腕を組みながら聞いてくる。あの時、とは初めて会った時の握手の事だろう。
「うん、ごめん。でも、本当にしたくないわけじゃないんだ。握手して拒否しちゃって、その、嫌われるのが怖かったんだと思う」
「別に謝らないでいいよ。咲人は握手をしたくなかったんじゃない。それは分かってたし」
夏美が少し笑みを作って僕に言う。「あ、じゃあなんでおじさんからのパンチは何も無かったの?」
リーティが閃いたように言った。
「いや、あれは拒否とかの前に気を失っちゃったから‥‥‥」
あれホント痛かった。
「話してくれてありがとうございます高坂さん。無理はしないでください。その、き、嫌いになったりとかしませんから‥‥‥」
椿が顔を真っ赤にしながら小さな声で言ってくれた。
「ありがとう、そう言ってくれると本当に助かるよ」
そのあと沙羅も笑顔で僕に安心させるためか優しい声で言う。
「高坂くん、そんな事で私が嫌いになるとでも思ったの?大丈夫だよ。触れなくったって、高坂くんは高坂くんだよ。なんにも変わらないよ」
「‥‥‥沙羅も、ありがとう」
言葉にできない。高校生活ではこの体質については誰にも話さなかった。知っているのは家族だけ。ずっと寂しかったんだ。言いたいけどそれで気持ち悪がられたらって考えてしまう。ずっとそうやって過ごしてきた。まあ多少捻くれてるところもあるけど。
「じゃあ、なんで私は触れたの?」
リーティが少し真面目な顔で聞いてきた。
「分からない。いや、待てよ。触れるのはリーティが、じゃなくて僕達〈現在世界の〉人間以外ってことか‥‥‥?」
うーん、考えても分からない。こうなったら実験するのが早い。
「ちょっと人に触ってくる。僕達の方じゃない、こっちの世界の人間に」
「私も行く。咲人、誰に触るの?」
リーティがまたも真面目な顔で話に乗ってくる。誰に、と言われてもな‥‥‥。
「そうだな、できれば男の人の方がいいよな‥‥‥。まあいいや、行ってから考えよう。大人数で行くと向こうも警戒しちゃうだろうし僕とリーティで行くよ」
「大丈夫なの?咲人、もう無理してるんじゃない?」
夏美が小さいが響くような声で僕に言う。
「みんなに話して気が楽になった。無理なんてしてない大丈夫だよ。ありがとう。じゃ、リーティ行こう」
「うん」
誰に触るかは決めてないけどなんとかなるだろう。自分の事は、自分で知っておきたい。




