紹介と例のブツ
シリアスにならないですね。完全にギャグ回です笑
「ついた!シーサイド!」
リーティが我先にと街の中心に向かって走り出す。
「ちょっと、待って‥‥‥」
夏美がついていけなくなったのか切れ切れの声で呼びかけた。
「リーティ、行き過ぎだ!ここに行くんだぞ!」
比較的街の端にあるシーサイドの宿屋に沙羅と椿がいることを教えてもらった。5階建て位だろうか、結構大きいな。
「ゴメンゴメン。つい、ね」
少し顔を赤くしながらトボトボ戻ってくる。するとヒソヒソっとした話し声が聞こえる。
「おい、あいつNPCと話してるぞ」
「そんなことできんのかよ。でも戦力になんねぇだろ」
「だな。まぁ顔だけは可愛いから、な?」
「お前変態だな。まぁ否定はしねぇけど?ハハッ」
「‥‥‥」
道の端にいる男の二人組は僕とリーティを方を見て笑う。その声を聞いたのかリーティは足早に僕まで歩いてくる。
確かに、リーティはNPCだ。NPCは一目でわかるようになっていて、目線をNPCに合わせると頭上にNの文字が浮かぶ。
NPCはHPも無ければスキルも使えない。おそらくリーティの〈ステータス〉は目には見えないが現実世界の僕達〈人間〉と同じ位なんだろう。戦力になる訳がない。この世界を 生きるには足枷にしかならない。そう考えるのは当然だ。
でも、イラつくのは仕方ない。
「気にするな。ほら、行くぞ」
内心あの2人に何か言ってやろうと思ったが言ったところでこの場でだけだ。意味がない。
「‥‥‥うん。ごめん」
リーティは下を向いていて表情が分からないが少なくともいい気分ではないだろう。そりゃ僕もイラつくけど一番イラついて悲しくなってるのリーティ本人なんだ。
僕とリーティに気まずい沈黙が流れる。
「‥‥‥君は弱くないさ」
「なに?バカにしてるの?」
そんなに睨まないでよ‥‥‥。
「違う違う。本当に弱くなんてないだろう?僕に目覚まし時計とタヌキの置物を当てれたんだから」
そう言うとリーティは何言ってるのこいつ?みたいな顔をした。そんな顔しないでくれ。僕がバカみたいに見えるだろ。
「なにそれ、意味わかんないし。フフッ」
そう言ってクスクス笑われた。まあ少し思ってたのと違うけどこれで僕とリーティのギクシャクした感じは無くなっただろう。
「リーティ、行こう。みんな待ちくたびれてるぞ」
そう言うとリーティは少し微笑んだ。
「わかった。ありがとね、咲人」
なんというか、こう正面からお礼を言われると照れくさくなる。
「なんかあったの?」
宿屋の前にいた夏美が少し心配そうな顔で聞いてくる。
「なんにもないよ?気にしないで」
リーティが夏美に心配させないためか何もなかったような顔をした。
「そう、なの?」
いや、そこで僕を見られても。なんて答えればいいのか‥‥‥。
「ま、気にすんな。リーティもそう言ってんだ」
こう言うしかないだろう。
「なら良いんだけど。なら早く入らない?」
「‥‥‥そうだな入ろう」
そう言い、宿屋に3人で入る。中は少しオシャレで簡易なロビーがあった。‥‥‥どこ行けばいいんだろうか。宿屋の場所は教えてもらったけど部屋はどこか知らないぞ。
「お泊まりですか?」
キチッとした男性の従業員らしき人から声を掛けられる。
「いや、人に会いに来たんです」
「そうですか、ではその方の名前を伺ってもよろしいでしょうか」
丁寧な言葉遣いだ。現実世界でいうとホテルマンという感じだろう。
「空音沙羅と椿桜です」
「空音沙羅様と椿桜様ですね。少々お待ちください」
そう言うと従業員さんはペコッと頭を下げた。
「礼儀正しい人だね」
夏美がコソッと言う。
「彼らはこの世界での〈人間〉なんだ。現実世界の僕たちみたいなね。色んな人がいるのも当然さ」
「そうだね。私も最初はプログラムだって思ってたけど、リーティを見てからはそう思うようになったよ」
夏美も宿屋の中が珍しいのか周りをウロウロしているリーティを見ながら言う。すると従業員さんが戻ってきた。
「お待たせしました。401号室になります。連絡はしておきましたので4階までお願いします」
「ありがとうございます。助かりました」
夏美が丁寧に頭を下げながら言う。
「いえいえ、それではご案内します」
従業員さんが先導してくれる。ここの宿屋いくらするんだろう‥‥‥。
心の中でこの宿屋の値段を考えていると401号室に到着した。
「それでは」
従業員さんが綺麗にお辞儀をして立ち去る。
「沙羅ー、椿ー。高坂だ。開けてくれ」
インターフォンというのはここには存在しないらしく、ノックをして呼びかける。
「ち、ちょっと待って!ていうか来るの早くない?!」
ドア越しに沙羅の声が聞こえる。なんか慌ててる気がする。
「な、なんか緊張するね」
隣にいる夏美が小さいこえで呟く。確かに現実世界でも友達の友達を紹介されるのは緊張するものなんだろう。いや、まあ友達いなかったけど。すると沙羅が頭をタオルで拭きながらドアを開けた。
「お、お待たせ〜。あれ、2人?」
朝風呂?朝シャン?というやつか。高校生でもする人いるんだなぁ。
「ああごめん。紹介するけど、とりあえず入っていいかな?」
「そうだね。入って入って〜」
沙羅に促されて部屋に入る。
「え、広っ!」
「そうだね。私も最初来た時はビックリしちゃったよ」
沙羅がクスクス笑いながら答える。
なにこれ、カフトで泊まったボロ宿がバカみたいに見えるじゃないか。まるでリゾートホテルみたいな感じだ。2人用の部屋なのかベッドが二つある。
「で、ここいくらすんの?」
当然の質問をした。気になるよねそりゃ。
「一泊1000サン!」
「高いっ!?カフトのボロ宿屋なら一泊40サンだよ?!」
驚愕だ。シーサイド近くのモンスターを一体倒して入るお金は10サンから20サンくらいだ。そこから宿屋代も食費も新しい防具や武器が欲しいならその分のお金もいるわけだ。
「えへへ、久しぶりの贅沢って感じで」
「そ、そうか。沙羅がいいなら良いんだけど」
「うん。それより、紹介してくれるかな?」
「え、えーと」
やばい。現実世界で友達がいなかったからこんなの初体験だ。どうすればいいのか分からない。
「こっちが鳴海夏美。高1だから沙羅と同い年だね。で、こっちがリーティ。16才だから僕と椿と同い年だね」
「リーティさんは、NPCだよね?」
沙羅がリーティをジッと見つめながら言う。
「そうだ。だけど人間なんだ。現実世界の僕たちみたいなね。この世界では僕達がイレギュラーな存在なんだ」
今わかっていることを分かりやすくまとめて話す。
「だからNPCとか関係なく僕達と同じだって思ってくれると嬉しい」
NPCだから、現実世界の人間ではないから。そんな理由で意思を持ってるこっちの世界の人間を差別して良いわけがない。
「了解だよ。夏美ちゃん、リーティさん空音沙羅です。よろしくお願いします」
「椿桜です。お二人とも私もよろしくお願いします」
2人とも笑顔で了承してくれた。この2人なら大丈夫だと思っていたけどもしもリーティがNPCだからといって受け入れてくれなかったらどうしようかと思った。
「というか咲人。あんたハーレムじゃない」
リーティがサラッと爆弾を投下した。そうだった。ここで言っときたいことがあった。
「みんな無理して僕といてくれなくても良いんだぞ?現実世界だと僕は友達なんて一人もいなかったんだからさ。まあリーティは頼まれたから別だとしてさ。沙羅は‥‥‥そうか」
リーティはおじさんに頼まれたから一緒に行動する。そのあと沙羅に目を向けたらすごい顔で睨まれた。
「コホン‥‥‥ほら、椿もさ。いてくれると僕は助かるけど無理はすんなよ‥‥‥はい」
今度は椿に、と思って話したら泣き出しそうな顔をしたのでやめた。キレるとあんなに強いのにちょっと意外だった。
「な、夏美もだぞ。くれぐれも‥‥‥うっ!」
最後のうっ!は夏美になにかされたわけでもなんでもない。僕の懐に入っている例の〈ブツ〉の存在を今まで忘れていたからだ。
しまったぁ!昨日は着替えないでそのまま疲れて寝ちゃったから存在を忘れてたのか‥‥‥。今の状況でバレるのは最悪だ。年頃の女子4人にエロ本がバレる。男子高校生としては避けたい!しかもこの本表紙がもうアウトなんだよな‥‥‥とりあえず隠す!
「あ、そ、そうだ。沙羅、トイレどこかな?」
テンパるな。僕の威厳に関わるぞ。とりあえず隠す場所だ。落ち着け。
「え、どうしたの急に。入ってきたドアのすぐ右だよ」
「あ、あぁ。ありがとう」
よし、後は行って隠すだけだ。上手くいった。
「どうしたのよ咲人。あんた顔色悪いよ?」
リーティ‥‥‥!今話しかけるんじゃない。
「ちょっとお腹痛くなっただけだよ。心配するなリーティ」
よし、今度こそ。
「はぁ?心配なんてしてないし。変なこと言わないでよもう」
「あっ」
リーティが軽い気持ちで僕の肩を叩いた。その拍子にモンスターとあんなに戦っても落ちなかったブツが、こんな小さな衝撃で、僕の足元に落ちた。
「‥‥‥」
さ、さ、最悪だぁぁ!1番避けたかった状況を引き起こしてしまった。
「ねぇ高坂くん?」
「あ、はい」
沙羅が下を向きながらトーンの低い声で呼ぶ。なにこれ怖い。
「これ、なに?」
「え、えーと、夏美ならわかると思うけど、昨日ちょっと変なおっさんに会ってさ。無理やり渡されたんだよ。断ったのになー、あはは」
赤髪のおっさんごめん。売っちゃいました。まぁいいや。あのおっさんだし。
「そうなの?夏美ちゃん?」
「ひっ、えーと、渡されたのかどうかはわかんないけどそういう人はいました、その、そういう本いっぱい持ってたし」
沙羅がなんか怖い。椿もキレると手に負えないけどもしかすると沙羅もそうかもしれない。夏美敬語になっちゃってるし。
「そうなんだー。そうなら別にいいよ。でも無理やり渡されたんならいらないよね?」
「あ、当たり前さ!」
嘘です。
「なら捨てちゃおう!もうー、不健全だよー」
沙羅が何の迷いもなくエロ本をゴミ箱に入れる。そこまでして必要!というわけでは無いけどなんかムキになるな。
あとで拾っとこう。
「あ、はい。お願いします」
心の中で計画を立てていると誰か来たのか椿が対応していた。あれは来た時の従業員さんか。すると椿こっちに戻ってきて一言。
「これ持っていくね?」
そう言ってゴミ箱を従業員さんに渡した。恐らく処分するんだろう。なんてタイミングで来るんだよ。ほら、従業員さんギョッてしてるじゃん。ごめんなさい。
「咲人、あんたバカじゃないの?」
「リーティ、そんなこというなよ‥‥‥」
なんか、必死になってた自分が馬鹿みたいだ。
ともかく、みんな上手くやれそうだ。めでたしめでたし!いや、悲しくないよ?ホントホント‥‥‥。




