夏美
私は一つ年上の高坂咲人という人に泣き顔を見られ、弱音を吐くという顔を枕にうずめたくなるような出来事の後、「俺がいる」という言葉に負け、カフトへ向かっている。正直、嬉しかった。
私は生まれてこのかた人を頼るという事をほとんどしたことがなかった。勉強をする時も自分1人でなんとか理解して、運動だって得意じゃないけど自分で調べて試して理解して。ひたすら1人で頑張った。通っていた塾の先生も親もすごい!って褒めてくれた。でも、今回の一件に関しては1人じゃダメだった。殺さなきゃいけないと分かって、怖くなった。1人で頑張れなくなった、この人がいてくれて良かった。
「あの、すいませんでした」
「ん?なにが?」
「その、最初失礼な感じで声かけたのもですけど、最後取り乱しちゃったりしたのも‥‥‥」
「んー、そこは全然大丈夫だよ。機械じゃないし取り乱すこともあるさー、でも最初のやつはダメだ。君にあんなことを言われたら大抵の男子は乗って来ちゃうと思うし。もうあんなことはしないでほしい」
お説教されてしまった‥‥‥。でも言ってることは正しいと思うし、私が悪いのもわかる。でもこの人は
「でも、あなたはその大抵の男子じゃないんですよね」
あぁ、私何を言っているのか自分でも分かってない。
「僕も大抵の男子さ。変わらないよ他の人たちと」
すごい遠い目をして彼はそう言った。な、なんか意味深なこと言うなぁこの人。
「と、とにかくありがとうございます」
「うん、ええと鳴海さん、とりあえずパーティ組まない?」
「わ、忘れてました。お願いします」
「わ、忘れてました。お願いします」
そう言って慌ててウインドウを出し操作する。なんか強がる妹って感じかな、うん。
〈鳴海夏美さんとパーティになりました〉
お、称号持ちだ。称号名は〈沈黙の願い〉か。これまたよく分からないなぁ‥‥‥まあいいか。
「ところでさ」
「はい?」
「今気づいたけどこのまま行くと僕18時に帰れないんだよね‥‥‥」
すっかり忘れてた。シーサイドからカフトまではどんなに急いでも2時間ちょっとくらい。今が歩き始めて10分で現在時刻は2時40分。急いでも6時に帰るのは不可能だと思う。
「あっ、そういえば言ってましたよね‥‥‥無理しないでも、いいですよ?私の問題ですし」
この子はどれだけ1人で抱え込もうとするんだろう。
「‥‥‥僕が自分で頼れって言ったんだ。だからそういう事は言わないでいい」
自分の言ったことには責任を持て。母さんがずっとそう教えてくれた。元気にしてるかなぁ。
「‥‥‥はい、ありがとうございます。でもどうするんですか?」
「うーん、こればっかりはどうしようもないからね。沙羅にメール送っとこ」
「沙羅、さん」
えぇと、メールなんて現実の方でもほとんどしたことが無かったから少し戸惑うな。
『沙羅、今日は宿屋に18時には帰れなさそう。もしかすると戻らないかもしれないから椿にも伝えといてくれる?帰ったら紹介したい人もいるし』
こんな感じかな。鳴海も多分1年生どうし沙羅と仲良くなれるだろう。というか男子もいてくれたら嬉しいんだけど‥‥‥。
「よし、メールしたしゆっくり行こう。僕のな、なんだろう。友達?仲間かな、沙羅と椿って子がいるんだ。帰ったら紹介するよ。きっと仲良くなれると思うよ」
「その椿さんという人は女性ですか?」
え、そこ?
「うん、そうだよ。沙羅が鳴海さんと同じ高1で椿が僕と同じ高2。2人とも優しくてね。僕が助けられるくらいだよ」
いや本当に助けられてる。精神的にも。こんな僕と良く一緒に居てくれると思う。
でも、僕が人に触れないと知ったらどう思うだろう。そりゃ無理したらなんとかなるかもしれないけど日常的になんておそらく無理だと思う。気持ち悪がられるかな、臆病だと思われるか分からない。いや、沙羅や椿の事だ。顔には絶対に出さないだろう。本当、僕の周りの人たちは優しい。
「大丈夫ですか?少し顔色悪いですよ?」
この子もだったなぁ。
「うん大丈夫。心配しないで」
「はい、でも無理はしないで下さい。私が辛いですし」
「ありがとう。あとさ、無理して敬語は使わなくていいよ。その、僕もやりにくいし」
椿にも言ったが敬語を使われるのは少し苦手だ。
「でも年上じゃないですか」
「そ、そうだけどさ。なんかやりにくいんだよ」
「うぅん、そういうなら分かったけど‥‥‥」
渋々了解してくれた。
「ありがとう、鳴海さん」
「じゃあそれもやめて。夏美だよ」
それは夏美と呼べ、と?
「下の名前でいいの?なんか馴れ馴れしくない?」
あ、でもそういえば沙羅は最初から沙羅だったなぁ。
「いいのいいの。あたしも咲人って呼ぶから」
お、おぉう。この子結構コミュ力高いなぁ‥‥‥。なんかモテそうだ。
「ん、分かった。改めてよろしく」
「あたしから頼ってるだけだから遠慮とかしないでね?よろしく」
そう言って夏美は右手を僕の前に出してくる。
握手。これも〈人に触る〉という行為に違いはない。でもここで拒否すると夏美はなんと思うだろう。
「‥‥‥っ」
僕がどうするか悩んでると夏美がまた心配そうな顔をする。
「ホントに大丈夫?」
「だ、大丈夫さ。でもごめんその、握手は出来ない。したくないわけじゃないんだ。でも、ごめん」
な、何を言ってるんだ僕は。握手したいのに出来ないって意味分かんないじゃん‥‥。まぁ実際そうなんだけど。
「‥‥‥色々あるんだね」
夏美が少し笑いかけながら言ってくれた。
「うん、色々あるんだ。絶対いつかは話すよ。まぁこれからどうするかは分からないけどね」
「‥‥‥じゃ、行きましょ」
「あぁ。えーと、今からカフトのどこに行くんだっけ?」
最初にどこに行くか決めてなかった。初っ端からボスの所に行くのもありだけど‥‥‥。
「んと、まずは蜂蜜屋の主人の所へ行こ?」
夏美が提案してくれる。僕も主人に会っときたいから賛成だな。
「了解。それとありがとう。握手しなくても怒らないでくれて」
すると夏美が呆れたような顔をする。
「はぁ?そんな事で怒るわけないじゃない。そんな小さくないよあたし。」
「そっか、ごめんね。ふふっ」
「何、咲人ちょっとおかしいよ?」
あ、ちょっとキモかったかも。
「い、いや妹を思い出しちゃってね」
「妹いるんだ?」
「うん、まぁこの話も後にしよう。モンスターだ。」
狼タイプの小型モンスター〈シャウトウルフ〉だ。中途半端にHPを削ると仲間を呼ぶ厄介なモンスター。でもカフトとシーサイドの間のフィールドは正直僕の敵じゃない。夏美に戦わせる必要もー
「ギャウッ!」
僕は何もしていないのにシャウトウルフが苦しそうな声を上げる。夏美が持っている短剣で攻撃したのだろう。見えなかったけど。するとすぐにシャウトウルフは消滅した。
「おぉ、すごいなぁ。まるでアサシンみたいだ」
「称号スキルだしね。カッコいいでしょ?」
シニカルな笑顔を浮かべてそう言う。
「じゃ、行こうよ咲人」
「了解。って何回も言ってる気がするけどね」
するとメールが届いた。沙羅からの返信だろう。
『高坂くんけ、結婚するの?認めませんよ!』
‥‥‥沙羅?




