人って
「はぁ‥‥はぁ」
ったくもう、ちょーっとお金を恵んでもらっただけなのにさぁ!器の小さい男たち。
「ふぅー、やっと撒いたかな」
シーサイドまで来たのはいいけどどうするかなぁ‥‥‥うーん、今はとにかくお金がいる。いや、手に入れなくちゃ。今の時間はっと、15時か。
「だ、だから沙羅、あの時は僕の名前出したら気まずくなるだろ?!」
「えぇー、でもホントだよー?」
「そういう問題じゃないよ‥‥‥」
んん?カモ発見か?後ろ姿しか見えないけどイケそうだな。ごめんね。恨みとかはないけどさ。
「あ、そうだ私これから椿さんと買い物行くけど高坂くんも来る?」
「何買うの?」
「洋服と下着〜」
「行かないよ。というか洋服なんていらないと思うけどな。ずっと装備服でいいじゃん」
「男子とは違うの〜!じゃあ宿屋には18時には戻ると思うから〜」
「分かったよ、気をつけて」
ちょうど一人になったなー。
「ねぇねぇお兄さん!」
「ん?」
んー、童顔って感じだなあ。この人も多分私と同じ高1だな。
「私とイイコトしない?」
大体の男はこれに乗ってくるんだよね〜。わたし美少女だからっ‥‥‥。うん。
「ん?」
ふと後ろから声をかけられ後ろを向くとなんと言うんだろう。ゆるふわ?濃い茶色の髪色でパーマのかかった女子がいた。
「私とイイコトしない?」
イイコト?なんだろう。レベル上げかな。でも参ったなぁ18時には沙羅も戻るって言ってたら3時間位しか出来ないぞ。
「うーん、18時までで良いなら付き合うよ?どこ行くの?」
出来るだけ遠くないところだと嬉しいなぁ。
「うーん、18時までで良いなら付き合うよ?どこ行くの?」
ほーらね、乗ってきた乗ってきた!男なんて単純単純。
「そうだね、じゃあ宿屋いこっか?」
こう言えばもう男達は夢中になる。け、経験はないけど!雑誌にそう書いてあったし。
「へ?宿屋?フィールド行くんじゃないの?」
んん‥‥‥この人なんかおかしい?
「いや〜流石にフィールドじゃ恥ずかしいじゃん?」
するとこの人は首をかしげる。
「恥ずかしい?そんなこと言ってたらできないよ」
この人こんな顔のくせに変わった性癖持ってるんだな、ちょっと引く。
「確かにそうですけど、私は普通にやりたいなぁっていうか」
「普通のレベル上げだよ?確かに忙しくなるとは思うけど」
‥‥‥レベル上げ?つまり?この人は私の言ったイイコトをこの人はレベル上げって思ったわけ?この人それでも男?
「違うよ〜レベル上げじゃなくてぇ、私と!イイコト。宿屋で。分かるでしょ?」
どうだ!ここまですれば流石にー
「‥‥‥君さ、何かを背負ってない?」
「っ!」
「なんだろう。表情が隠れてる
‥‥‥って何言ってんのか分かんないな僕」
な、な、なんなの?私自分で言うのもなんだけど演技には自信がある。今までの男子なら確実にイケたはずだもん。なのに‥‥‥
やっちゃったー、これやっちゃったよホント。なーにが「何かを背負ってない?キリッ」だよ!キザすぎるだろ!くそぉ、余計なこと言うもんじゃ無いな。
「ねぇ」
「あ、はいなんでしょう」
なんで敬語になってんだ僕。
「あなた名前は?」
「え?ええと高坂咲人、高2だよ」
名前聞かれるとは思わなかった。
「年上ぇ?!‥‥‥私は鳴海夏美。聞きたいことがあるの」
そこに驚かなくてもいいだろう‥‥‥。普通にショックだ。
「カフトの蜂蜜屋さんのクエスト知ってる?」
「あぁ、知ってるよあの胸糞の悪いやつか」
カフトの蜂蜜屋のクエスト、確かゲームの頃やったな。ヤクザみたいな人達に目をつけられた蜂蜜屋の主人が借金なんてして無いのに金返せと言われ、どうにかしてくれという依頼だ。ここで胸糞悪いのがその主人の娘をヤクザが「金返さねぇとこの女奴隷にして売り飛ばすぞ」と言い続けるのである。しかも厄介なのが制限時間を付けるんだよこいつら。この世界でそのクエストはやって無いけど、どうなんだろうか。
「私、そのクエストやってて今、とにかく金が必要なの。あのヤクザ達に早く全部返して安心させてあげないといけないし、だからいい方法とかないの?」
‥‥‥。
「あのぉ、大変言いにくい事なんですけど、それ、返してもまた新しく要求されちゃうよ?」
「‥‥‥へ?」
そう、このクエストはくそまじめに金を返してもまた「あ、まだ借金あったわ〜それも返せよ?さもねぇとこの女奴隷にして売り飛ばすぞ」とさながら無限ループなのである。僕も真面目にお金貯めて返した!と思ったらこれを言われた。ディスプレイ殴りそうになっちゃいました。しかもさり気なく金額吊り上げてるんじゃねえよ。
「じ、じゃあどうすれば?あの娘はずっと人質みたいになったままなの?そ、そんなのいやだよ」
この鳴海って子、根は真面目なんだな。人は見た目じゃないんだなぁ。この台詞前も言った気がするけど‥‥‥。
「クリアの仕方は簡単なんだ。そのヤクザのボスを殺せばいい」
「こ、殺す?でもそのボスって、人なんでしょう?」
「?うんそうだよ。ゲームの頃は厳ついスキンヘッドだった様な」
「だ、だったら無理よ。ひ、人を殺すなんてできない‥‥‥」
あぁ、この子は本当に優しいんだな。でも、その優しさはこの世界では枷になる。なってしまう。
「優しいね。NPCにも優しさをかけられる‥‥‥でも、殺さないとあの娘は本当に奴隷にされて売り飛ばされる。君の前で相手はNPCだからためらうなとか、プログラムなんだから気にするななんて無責任なことは言わない。ためらって、迷って、それで答えを見つければいい」
あっ、またクサイ台詞を‥‥‥。宿屋に戻ったらうわあぁって枕に顔をうずめることになりそうだな。
「奴隷なんて、だめ。だけど私はひ、人を殺すなんてやっぱり、やっぱりできないよ‥‥‥どうすればいいの。どうすれば‥‥‥」
そう言って鳴海はポロポロと泣きだす。この子はなんでも一人で抱えすぎだな。大事なことを忘れてる。
「人を頼ればいい」
そう、頼ればいい。そりゃなんでもすぐに頼るのは良くないけど、この子はずっと抱え込んできたんだろう。頼る権利はもうあるはずだ。
「無理、無理だよ。私の友達は全員ほっとけば?とか別にいーじゃん、ってしか言わないの!ふ、普通そうだよね、何、NPCに感情移入してんだって思うよね!ほ、本当笑えるよね」
少し自暴自棄になってる。きっとすごい辛かったんだろう。誰からも相手にされず、かといってほっとけない。どうしようもない気持ちを処理しきれずにいるんだろう。
「確かに普通、では無いかもしれない。けど、笑わないよ。笑う理由がないから。それに、友達がダメでもまだ頼れる人はいるだろう?」
「‥‥‥え」
あぁ、本当にクサイ台詞ばかりだな。こんなキャラでも無いはずなのにな‥‥‥。
「僕、いや俺がいる」
まぁそれも悪くないかもしれない。この世界にきて、性格が少し変わったと自分で思った。




