決闘
〈決闘〉
それはプレイヤー対プレイヤーの対戦システムである。最もゲームの頃は自分の武器や防具、称号スキルなどを他の人に見せたい時や単純に腕試しとして行われていた。
これはこの世界での決闘経験者から聞いた話なのだがこの世界での決闘は、HPが減らないので死ぬということはない。しかし、HPが減らない代わりに決闘専用のHPが出現し、そのHPが減る。それが攻撃を受けてどちらかが0になったら終了だ。ちなみに足、腕、胴、頭の順でHPが多く減るらしい。しかしここで大きな、大きな難点がある。〈痛み〉を感じるのだ。僕はしたことがないのでどの程度のものか知らないが相当痛いらしい。
この清水との決闘は普通の道端で行われるため、たくさんのギャラリーが集まり出す。みんな普段は見られない決闘に興味があるのだ。
「‥‥‥あと30秒か」
僕と清水の距離は約10メートル。その間の上空に1分からのカウントダウンの数字が浮かび上がっている。
清水が称号を持っているのかも、どんな武器を使うのかも知らないが、攻撃値だけで言うならデュホークブレイドに勝るものはほとんどないはずだ。‥‥‥椿のは例外です。
カウントダウンは10を切る。僕は背中に背負っていたデュホークブレイドを両手に持ち、0になるのを待つ。
5
4
3
2
1
ビーーッという開始の合図が鳴り響く。
「‥‥‥」
清水の使ってる武器は片手槍だった。それに加え左手には珍しく盾を装備していた。盾は武器屋に売られていないためドロップ品だろう。清水は少し様子を見に来てるな‥‥‥
なら、まずやることはひとつ!
「‥‥‥よっ」
そう言ってデュホークブレイドを自分の右足に突き立てる。
「〜〜〜っ!いったあ!」
「な、何してるの?!高坂くん!」
沙羅が仰天した顔で僕を見る。確かに他から見れば狂ったかと思われる行為かもしれない。が、勿論狂ったわけじゃない。
「HPは10分の1くらい減ったかな‥‥‥」
痛みは相当あるし、足は1番ダメージが少ないはず。これがもし頭に当たったかと思うとゾッとするな‥‥‥
「お、おまえ!なにやってんだ!真面目にやれ!」
清水が距離を測りながら怒鳴ってくる。
「‥‥‥どの位痛いのかも分からないのに剣を振れるわけないだろ」
誰にも聞こえないような声が僕の口から溢れる。こんなとき、カッコイイ主人公とかなら迷わずに振るのだろうか。もし、もしもそうであるなら僕はなりたいとも思わない。
「‥‥‥っくそぉ!」
清水が痺れを切らして突進してくる。直ぐに距離が詰まり、清水の片手槍が黄色に染まる。
「シャッ!」
片手槍を迷わず僕の頭部を突いてくる。名前は知らないが片手槍の初期スキルだろう。
足でも相当痛かった。これを受けるとおそらく今までにないほどの激痛が頭を襲うだろう。もらうわけにはいかない。でも、切りたくもない!
僕はとっさに首を右に曲げ、清水の攻撃をかわす。
「う、おぉ!」
そこからデュホークブレイドを右手だけで持つ。しかし、そこで右手が強烈に痛んだ。
「がっ?!」
何がなんだか分からないが清水に攻撃されたわけじゃない。なら、いけぇっ!
「はあぁぁっ!」
右手だけで持ったデュホークブレイドの柄頭を清水の右手に思いきり叩きつける。
「ぎゃっ!」
切られるほどじゃないと思うが清水が痛そうに顔をしかめる。その拍子に清水の右手に持っていた片手槍を落とした。
「よっ」
それを見逃さず僕が左手で拾う。
「これで君はもう攻撃ができない。降参してくれないか、つっっ!!」
また右手に強烈な痛みが走る。なんなんだよこれ!
「ま、まだだ!まだ戦えるぞ、なめんなよ!」
清水はそう言って盾を前に突き出し僕を睨む。
「もう無理だ。諦めろ傷つけたくない」
まるで自分じゃないみたいに声が出る。いや、本来はこんな感じなのかもな。
「バカにすんじゃねぇよ!男がこんなところで
「清水!」
「こ、高坂、くん?」
もはや今までの僕の声じゃなかった。まるで脅すような低い声が出た。沙羅も戸惑ってる。お、落ち着け高坂咲人。
「俺、いや僕のクラスメイトが言ってたよ。やれることをやるんだって。お前のやれる事はこんなに小さいことじゃないだろ?」
「お前に何がわかんだよ!」
「嫉妬、だろ。僕はこれでも人間観察は得意な方なんだ」
「‥‥‥」
清水は黙って俯く。どうやらビンゴだな。
「イラつくのも分かる。でもお前のやれることはこんな事じゃない」
「‥‥‥ちっ」
清水は癖なのか舌打ちしたあとに何かを操作した。その後に空中に〈清水龍の降参のため勝者、高坂咲人〉の文字が現れる。
清水は沙羅に片思いをしていたのだろう。それもおそらく最近からではない。その想い人が自分の知らない男と親しげに話し、その男は下の名前で読び、それに清水の性格からしてなよなよしたいわゆる草食系男子はイラつく対象なのだろう。そのすべてに当てはまり怒りが爆発した、というところだろう。
「空音、俺さ」
清水が沙羅に告白するようだ。あ、なんかちょっと僕まで緊張してきた。なんか不思議だ。
「ずっと好きだった。その、付き合ってほしい」
そう言って頭を下げる。ストレートでいい感じじゃないか。いや、告白したことないから分からないけど。
「‥‥‥龍くん、気持ちはすごい嬉しい。ありがとう。でも、ごめんなさい。
‥‥‥私ね、この世界のことを知りたいんだ。なんでなのかは自分でも分かんない。でも、なにか自分の中で変われそうなの。高坂くんと一緒に行動すれば私は変われる。そう思うから。ごめんなさい」
な、なんとも言えない空気が‥‥‥ていうか普通告白の返事に他の男の名前出しちゃダメでしょ?!こういう時どういう顔をすればいいのか分からない‥‥‥笑えばいいの?
「そ、そうか。だけどな!」
清水は納得したようだが、その後に僕の顔を睨みつけた。
「お前には負けねぇからな」
ライバル認定されても正直困る‥‥‥。
「あ、ああ」
そう答えるしかないだろう。
「俺たち空気でしたね」
「そうですね‥‥‥」
吉谷くんと椿が少し暗くなっていたのはその後に知った。




